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「マーリンズ、イチローの来季契約オプション見送り」は、必ずしも両者の決別を意味しない

豊浦彰太郎Baseball Writer
オプション契約は見送られたが、まだマーリンズとの再契約の可能性はある。(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

ワールドシリーズが終わることは、冬の到来を意味する。昨日入ったコンビニでは、BGMでウィンターソングの定番「ロマンスの神様」が掛かっていた。そして、日本人メジャーリーガーの去就に関する情報も相次いでいる。マリナーズが岩隈久志の来季契約の球団オプションを見送ったというのは予想通りだったが、田中将大がオプトアウトの権利を行使しなかったのは個人的には意外だった。そして、イチローである。マーリンズは球団が持つ来季200万ドルの契約オプションを破棄した。

多くの日本のファンにとってこのことは少々ショックかもしれないが、致し方ないことだ。控え選手に200万ドルは高すぎるし、そうでなくてもデレク・ジーターを含むマーリンズ新オーナーグループは年俸総額の大幅削減を伴うチーム再建の方針を打ち出している。現在のマーリンズの主力級は59本塁打のジャンカルロ・スタントンを中心に中々のものだが、来季以降そのスタントンの年俸が跳ね上がる契約になっている。一方でマイナー組織に有望株は少ない。やはり、一旦チームを解体しての再建は賢明な判断だろう。昨年のカブス、今季のアストロズと、徹底的にチームを解体しての将来性のある若手の獲得と育成という手法を採用した球団が世界一になっていることも、マーリンズのオーナー陣の決断に影響を与えているはずだ。

また、イチロー自身も過去7年でOPSがリーグ平均を上回ったのは一度きりで、自慢だった守備も今季はDRS―2が示す通りもはや平均以下だ。44歳の来季は基本的には更に衰えが進むだろうと考えるのが自然だ。

しかし、見落としてはいけない点がひとつある。球団が来季契約のオプションを却下したということは、必ずしもイチローとマーリンズの決別を意味しないということだ。これは、岩隈とマリナーズの関係にも言えることなのだけれど、高額なオプション契約は破棄して選手には一旦FAになってもらい、もっと金額を落とした条件で再契約することは規定上可能だし、そういうケースはいくらでもある。

したがって、「マーリンズがイチローの来季契約のオプションを見送り」というのは、200万ドルを支払うほどの価値をイチローに見出さなかっただけで、イチローにこの先メジャー最低年俸に近い金額の契約やマイナー契約をオファーする可能性は十分あると思う(それは、他球団にも言えることだ)。そして、いずれの場合も保証額は低いもののそれなりの出来高払いが付くだろう。

マイナー契約の場合は、来春のキャンプには招待選手(正規メンバーではないという意味だ)として参加せねばならないし、開幕をマイナーで迎えねばならない可能性もそれなりに高い。

十分すぎるほど日米の球界に貢献し、ファンに喜びと興奮を与えてくれたイチローには、個人的にはもう引退してほしいと思っている。しかし、彼は50歳までの現役続行を明言している。もちろん、彼は自身の道を自身で決めるのだが、50までやるということは、その過程でマイナー契約でキャンプの生き残り競争に挑むことや、それこそ独立リーグに所属しながらチャンスを窺うことすら受け入れるということだ。聡明な彼はもちろんそのことを自覚しているはずだし、その上で50歳までやると言っているのだろう。

ならば、このオフ球団からオプション契約を破棄されたことなど取るに足らないはずだ。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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