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五輪切符を懸けた「縁」多きイラク戦、狙うは「ハラハラさせないで、すっきり勝つ」(手倉森監督)!?

川端暁彦サッカーライター/編集者
「俺、冴えてるな」と本人が言うほど手倉森誠監督の采配が光る大会(写真:六川則夫)

イラクとの奇縁、因縁

組み合わせが決まった時点で「準決勝はイラクなのかな」と思ってはいた。それは選手も同じだったようで、DF植田直通(鹿島)は「準決勝にはイラクが来いとずっと思っていた」と明かす。いまから3年半前のAFC・U-19選手権準々決勝でイラクに敗れてから、「アジアで勝てない世代」というレッテルを貼られてきた。選手たちは「事実なので仕方ない」(DF遠藤航)と受け入れつつも、しかし心の内に溜めてきたものは当然ある。

手倉森誠監督は「悔しさがチームを成長させてくれた」と言う。力のない世代と言われ、実際に結果も残せてこなかったが、それゆえに努力も重ねてきた。2014年のAFC・U-22選手権、同年のアジア競技大会といずれもイラクには苦杯。このときは年上を含むメンバーを相手にしていたとはいえ、負けは負け。選手たちの中には重い悔恨が残った。植田は「いつも何かとイラクが僕たちの目の前に立ちはだかっている。ここで絶対に倒さなければいけないというのも“縁”だと思う。僕たちのイラクに対する思いはかなり強い」と言う。

植田に加えてDF岩波拓也(神戸)、MF南野拓実(ザルツブルク)の年少世代はU-16時代にもアジアの準々決勝でイラクと対峙しているほど、縁がある。世代が違うので参考材料としては弱く、試合に出ていたのも日本はこの3人、イラクも2人だけに過ぎないが、南野が2点を取って3-1で勝っているという事実は、負け続けてきたことが強調されがちなこのカードにおける、ちょっとした好材料である。南野が「別に悪いイメージはないですよ」と語ったのも強がりではなく、単なる本音だろう。負けた3試合に南野は出ておらず、自分の世代では勝っているのだから当然だ。イラクに対して苦手意識を持たない南野の存在は、一つのカギになると見る。

懸念は遠藤主将の負傷

ここまでターンオーバーを重ねてきた手倉森監督だが、この大一番に関しては中3日と休養期間ができたこともあって「明日はすべてを懸けます」「力の出し惜しみはしない」と、ターンオーバーではないメンバー構成を示唆。第2戦で負傷したFW鈴木武蔵(新潟)も練習に復帰しており、具体名は避けていたが、「行くところまでやれというイメージになる」と起用法を語ったのは、恐らく鈴木のこと。久保裕也(ヤングボーイズ)との2トップになるのではないか。

カギを握りそうな南野拓実(左)、原川力(中央)、そして鈴木武蔵
カギを握りそうな南野拓実(左)、原川力(中央)、そして鈴木武蔵

中盤は右に南野で、左に矢島慎也(岡山)か中島翔哉(FC東京)。これまでの流れからすれば2試合連続フル出場している中島ではなく矢島となるが、指揮官の態度を見ていると10番の温存はないか。ただ、豊川雄太(岡山)が腰を痛めて別メニュー調整となっているため、中盤のスーパーサブが駒不足。中島はそちらに回すのは一つの手ではある。

懸案材料は中盤の中央。準々決勝でわずかな出場にとどまった大島僚太(川崎F)の出場は確実だが、問題はそのパートナーである。本来なら主将のMF遠藤航(浦和)だが、左足の付け根に違和感を訴えて試合前日の25日も別メニュー調整。本人は「行けと言われれば行く」と強気だが、3位決定戦(五輪のアジア枠は3枠のため、決戦になる)に回る可能性まで考えると、主将に無理はさせられないという判断は当然ある。そうなると代役は原川力(川崎F)か。ただ、イラクのロングボール攻撃を考えて、ヘディングで跳ね返せるMF三竿健斗(鹿島)の起用もあるだろう。イラン戦の原川の出来が今ひとつだったことをどう評価するかという問題にもなりそうだ。

最終ラインは左に山中亮輔(柏)が入って、植田、岩波、そして室屋成(明治大)というおなじみのメンバーになりそう。GKは変わらず櫛引政敏(鹿島)。PK戦になる可能性を考えると、「自信がある」と豪語する守護神の存在は頼もしい。

今回は「すっきり勝つ」?

決戦を前にして、指揮官は少し意外なコメントも残している。

「(イラク戦は)思い切り積極的に出られれば、90分のうちに点を取って勝てそう。ここまではいろんなことに耐えながら、ドキドキハラハラのしびれる試合を提供してきましたけれど、準決勝、決勝ではすっきり勝つところを見せられれば」

これまでは隠忍自重の試合運びから、選手交代を機に一気呵成のモードへ移行する戦いを主としてきた日本。現地での評価も今ひとつで、試合前日の記者会見ではアラブ系のメディアから「日本の五輪代表はA代表と違って強くないようだが?」という挑発的な質問も飛び出していた。アジアでも一般的になっている「日本サッカー」のイメージと異なるスタイルで勝ち残ってきたゆえだろう。だが、この試合はちょっと違うアプローチになるのかもしれない。「イラクとは下で、地上戦でやりたい」とも語っており、もし遠藤が不在でポゼッションプレーに長けた大島と原川が先発するようなら、なおさらそちらの方向性が強まるかもしれない。二人は「ボールを触ってナンボの選手」(原川)だからで、逆に言うと主導権を握る展開にならなければ持ち味が出ない選手たちである。

誤解を恐れず言えば、手倉森監督は「俺たちの相手に格下なんていない」として、あえて「弱者の戦術」とも言える方法論を採用してきた。相手のストロングポイントに合わせて先発布陣を変えて、まずは守備から入って相手にスキが生まれるのを待つ戦い方である。ただ、前段に記したこの試合で予想される顔ぶれは、相手に合わせたものではない。たとえば先発リストに三竿や矢島の名前があるようなら、従来通りに守備から入ってくるはずだが、そうでなければ、そうでない戦い方をするということだろう。

もちろん、すべてがハッタリという可能性もある。ただ、「すっきり勝つ」と宣言した手倉森監督の表情は晴れやかで、迷っている様子は見られなかった。あるいは本当に、スタートから打って出ていくつもりなのか。そうなればいよいよ、リオ五輪世代はその真価を問われることになる。。猛烈なプレッシャーにさらされても常に陽気な態度を崩さなかった指揮官は「オリンピックに出て不思議じゃないチームだとみんなに認めてもらって、胸を張って世界大会に出られればと思います」と豪語した。

サッカーライター/編集者

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。2002年から育成年代を中心とした取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月をもって野に下り、フリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』を始め、『スポーツナビ』『サッカーキング』『サッカークリニック』『Footballista』『サッカー批評』『サッカーマガジン』『ゲキサカ』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。著書『2050年W杯日本代表優勝プラン』(ソルメディア)ほか。

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