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今季初登板&初勝利を飾った有原航平が垣間見せた自己制御力

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
日本ハムの吉井理人投手コーチ(中央)は常に選手たちと対話を続けている(筆者撮影)

 キャンプ開始直後から右肩の炎症で調整が遅れていた日本ハムの有原航平投手が14日のオリックス戦に今季初登板し、8回を投げ3安打1失点9奪三振の内容で勝利投手になった。今シーズンはエースとしての飛躍が期待される25歳右腕の好投は、チームにとって頼もしく映ったことだろう。

 投球内容もさることながら、その安定感はエースと呼ぶに相応しいものだった。4回まで完全試合ペースの投球を続けた後、5回に先頭打者、次打者と連打を浴び無死一、三塁のピンチを迎えながらも味方の守備にも助けられ無失点で切り抜けると、8回に先頭打者に本塁打を打たれ初失点を喫しても、動じることなく後続を抑え1点差を守りきったのだ。

 「多少自分の開幕っていうのがありましたけど、出遅れた分勝ちたいという気持ちがあったので、その気持ちをうまくコントロールして投げられたかなと思います。(完全試合ペースに関しては)そこは全然意識しなくて、とにかく球数少なくテンポよく抑えるっていうのを意識してました」

 試合後の有原投手は飄々とした表情で話しながらも、自分の思い通りに投げることができた満足感に満ちあふれているようだった。昨シーズンはプロ3年目でさらなる飛躍が期待されながら、自己最多の25試合に登板したものの10勝13敗、防御率4.74と決して納得できる成績を残すことができず、プロの厳しさを味わうことになった。それだけにこの日の好投は本人にとっても少なからず手応えを感じることができたのではないだろうか。

 実は個人的に今シーズンの有原投手に注目していたところがあった。昨年『スポーツナビ』上で吉井理人投手コーチの連載コラムを担当させてもらい、何度も彼の名前に触れてきたからだ。吉井コーチは先発投手として独り立ちしてほしい有原投手、加藤貴之投手、高梨裕稔投手の若手3人に対し、昨シーズンから登板翌日に個別面談を行い、選手自ら投球について語らせる「振り返りの時間」を設けてきた。

 その目的は、コーチなど周りから指摘を受けるのではなく、自ら自分の投球を分析でき、悪い方向に向かった際に自分で修正できる“自己制御力”を身につけさせるためだ。そうしたシーズンを通した取り組みが今シーズンの投球にどのように反映されていくのか、興味深く感じていたのだ。

 前述通り、前回の投球ではリズムが乱れそうな場面を2度迎えていたが、そこから崩れることなくしっかり立て直しに成功している。今回の投球を見る限り吉井コーチの取り組みが着実に実を結んでいるようだが、当の有原投手は振り返りの時間をどのように捉えているのだろうか。

 「そうですね。1試合1試合課題も出るんですけど、1年間(振り返りの時間を)やってまとめてみると、これが大きく足りないとか傾向がすごく解りやすいので、すごくいい時間だなと思います。

 悪い時にリズムが早くなり単調になることがすごく多かっただったりとか、ストライクからボールになる球を今までは全然使っていなくてストライクで抑えようと思っていたので、そういうところは大分考えるようになりました。昨日(14日)に関しては変化球もボールゾーンを振らすことができていたので、大分役に立っているなと思いました。

 ピンチの時に冷静に何が一番続くかというのを考えられるようになってきていると思うので、それをしっかり結果に繋げたいなと思います。もちろん技術も大事ですけど、そういう気持ちの変化でできることができなくなる場合もあるので、とても大事だなというのを特に去年感じました」

 その言葉からも、現在の有原投手は常に明確なビジョンを持ってマウンドに上がっているのが窺い知れるだろう。これは同じく振り返りの時間を続けている加藤投手、高梨投手も同様のことだ。彼らは三者三様に試行錯誤しながら先発投手として前に進もうとしているのだ。

 吉井コーチによれば、3人は今シーズンも振り返りの時間を継続し、さらに上沢直之投手もメンバーに加わったという。有原投手をはじめとする“吉井投球塾”門下生がどのような成長を遂げるのか、ぜひ日本ハムファンのみならず注目して欲しいところだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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