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妊娠中の皮膚トラブル - 知っておきたい原因と治療法

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(提供:イメージマート)

妊娠中の皮膚の変化と対処法

妊娠中は、ホルモンバランスの変化により様々な皮膚トラブルが起こりやすくなります。今回は、妊娠中に現れる代表的な皮膚の変化と、その原因や対処法についてご紹介します。

【妊娠によるよくある皮膚の変化】

1. 妊娠線

妊娠線は、妊婦の90%に見られる皮膚の変化です。おなかや太もも、お尻などに赤紫色の線状の痕ができるのが特徴です。妊娠後期に入ると、皮膚が急激に伸びることで発生しやすくなります。予防のためには、保湿クリームやオイルでこまめにケアすることも大切ですが、急激な体重変化に気をつけてください。完全に消えることはありませんが、出産後には目立たなくなっていきます。

2. 色素沈着 (肝斑など)

色素沈着は、妊婦の70%に見られます。顔の両頬や鼻、額に茶色や灰色の斑点ができるのが特徴。原因は、妊娠ホルモンの影響で色素細胞が活性化するため。日光に当たることで悪化するので、外出時は日焼け止めクリームを塗るようにしましょう。出産後には自然に薄くなりますが、完全に消えない場合もあります。

3. 血管の変化

妊娠中は血液量が増え、血管が拡張しやすくなります。そのため、顔や手のひらが赤くなったり、青い静脈が目立つようになったりします。また、くもの巣状の血管腫が現れることもあります。多くの場合、出産後には自然に治まります。

【皮膚疾患とその治療法】

1. 妊娠性疱疹 (PUPPP)

妊娠性疱疹は、妊娠後期に現れる痒みを伴う赤い発疹です。原因ははっきりしていませんが、免疫系の変化が関係していると考えられています。症状を和らげるには、抗ヒスタミン薬の内服や、ステロイド入りの塗り薬が有効です。

2. 妊娠性肝内胆汁うっ滞症

妊娠性肝内胆汁うっ滞症は、妊娠後期に現れる強い痒みが特徴の疾患です。肝臓での胆汁酸の排泄が滞ることが原因と考えられています。早産のリスクがあるため、早めに治療を開始することが大切です。症状が強い場合は、ウルソデオキシコール酸という胆汁酸を溶かす薬を内服します。

【皮膚疾患を予防するためのケア】

妊娠中の皮膚トラブルを予防するには、以下のようなケアを心がけましょう。

・保湿: 乾燥は様々な皮膚トラブルの原因になります。全身を保湿クリームでケアし、乾燥を防ぎましょう。

・清潔: 清潔を保つことで、細菌による皮膚感染症を予防できます。ただし、ごしごし洗うのは禁物。優しく洗うことを心がけましょう。

・日光対策: 外出時は日焼け止めクリームを塗り、長時間の日光浴は避けるようにしましょう。UVカット効果のある帽子や日傘も活用しましょう。

妊娠中は、ホルモンバランスの変化により皮膚トラブルが起こりやすくなります。症状によっては、赤ちゃんに影響を及ぼす可能性もあるので、早めに皮膚科医に相談することが大切です。また、日頃から保湿や清潔、日光対策を心がけ、皮膚の健康維持に努めましょう。

参考文献:

・Tunzi M, et al. Common Skin Conditions During Pregnancy. Am Fam Physician. 2007 Jan 15;75(2):211-218.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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