2分で「悩む習慣」を捨て、「考える習慣」を手に入れる方法
「悩む」と「考える」の違い
悩んでばかりの人がいます。悩んでも仕方がないのに、悩み続けてしまうのです。あまりに多くの悩みを抱えてしまうとストレスが増大し、疲労が蓄積します。体調にも影響を与えてしまうことでしょう。
悩むことから解放されるには、「悩む」とはどういうことなのか、定義をハッキリさせたらよいと私は考えています。よく言われることですが、「悩む」と「考える」は違います。「考える」をコンピュータのデータ処理にたとえると、「悩む」はデータ処理されていません。データが足りないのではなく、データが格納されている記憶装置に正しくアクセスできていないのです。
人間の脳が処理するデータの記憶装置について、簡単に解説しましょう。ここでいう記憶装置とは、「短期記憶」「長期記憶」「外部記憶」の3つです。「短期記憶」とは、いわゆる「ワーキングメモリ」のこと。情報を処理するために常に格納しておく作業記憶装置です。「長期記憶」は、長い歳月をかけて蓄積してきた知識の図書館のようなもの。「外部記憶」とは、何らかのヒントを言われても思い出せず、人間の脳の外にある記憶装置。資料やシステムのデータベース上に存在します。
普通、人が考えようとしたときは、最もアクセススピードの速い「短期記憶(ワーキングメモリ)」にアクセスをします。しかし、この領域に求めるデータが格納されていなければ、もっと脳の深い部分にある「長期記憶」にアクセスします。
たとえば、
「あなたのお母さんの名前は?」
と質問されたら、誰でも即答できるでしょう。これまで、何度も何度も脳が処理をしているので、短期記憶の中にそのデータが格納されています。いっぽう、
「あなたの上司の下の名前は?」
と質問されたらいかがでしょうか? 「上司の下の名前? えーっと、苗字は鈴木だったが、名前は……和久、だったかな、いや、直久だった気がする。あれ? 智久だったっけ……?」となるかもしれません。「えーっと……」と、脳の長期記憶にアクセスしても出てこない場合は、外部記憶に頼ることになります。組織図だったり、上司の名刺を見るのです。「あ! 鈴木泰久だ。そうだそうだ。忘れてた」と、思い出すことでしょう。
つまり「考える」というのは、脳の「短期記憶」になければ、「長期記憶」「外部記憶」にもアクセスする動作をすることなのです。
それでは「悩む」というのは、どう定義すればよいのでしょうか?
おそらく悩んでいるだけの人は、データを処理しようとするのですが、アクセスするのは「短期記憶」だけで、「長期記憶」「外部記憶」にはアクセスしないのです。そのため「堂々巡り」を繰り返すことになります。
(全然、やる気が起こらない。給料は少ないし、仕事にもやりがいを感じない。どうしてこんな会社に入ったんだろう。新年会で会った友人たちは生き生きとした表情をしていた。けれど、それに比べて自分は何をやってるんだろうと、最近思う。こんなことを考える自分って、ダメな人間なんだろうか……)
給料が少ないというが、本当に少ないのか? 自分の理想と比較して少ないのか、同期と比較して少ないのか? 業界平均と比較して少ないのか? まず目の前の仕事をキッチリとやっているか? やりがい以前に会社が求める期待にこたえているか? 新年会で会った友人は何人いて、何人が生き生きとしていたのか? その原因は何か? お酒に酔っていただけなのか、それとも今の仕事に満足しているから生き生きとしていたのか?
正しい「問い」をすることで、長期記憶にアクセスできるはずなのです。しかし、悩んでいる人はそれができません。悩んではいるけれど、考えてはいないからです。脳の長期記憶や、しかるべきデータが格納されている外部記憶にアクセスしていないからです。「考える」ことのできない、「悩む」ことしかできない友人に相談したりすると、堂々巡りが無限ループしはじめます。
「本当にそうだよねー。私もそう思うよ。給料少ないしねー。仕事にもやりがい感じない。どうしてこんな世の中になったんだろうね。私たち、生きづらい時代に生きてるんじゃないかなー。なんかしんどい。生きてるのがバカバカしいってたまに思うよ」
「考える習慣」のない、「悩む習慣」しかない人が、同じ「悩む習慣」しかない人に悩みを打ち明けると、ひどい結末を迎えます。「悩む」と「考える」の違いを正しく区別することがまず先決ですね。
それでは「考える習慣」を身に着けるには、どうしたらいいのか?
私がお勧めするのは、スケールテクニックです。
「すぐやる習慣」を身に着ける
わかっちゃいるけれど、なかなかできない。すぐにやればいいのに、先延ばしにしてしまうようなことはありませんか。仕事上においても、日常生活においても、今すぐやっておけば気持ちが楽になるのに、ついつい先延ばしにしてしまうことってありますよね。私はよくあります。手帳やスマホでタスク管理していても、その管理自体を怠ってしまうこともあります。
仕事を「先送り」せず、すぐやる習慣を身に着ける考え方で、先延ばしをするデメリット、そして「すぐやる」ための考え方を書きました。しかし、頭ではわかっていてもなかなか克服できないことがあります。そこで私がいつも使っている技術を紹介します。それが「スケールテクニック」です。
先送りの習慣をなくすと、脳の基礎体力がアップし、「考える習慣」が手に入っていきます。
「スケールテクニック」とは、感覚でとらえている物事を数値化することを言います。「その作業にどのくらいの時間がかかるか」を客観的に見積もり、定量表現するのです。最初のうちはうまく時間を見積もることができなくても、あきらめないでください。間違えてもいいから、とにかくアウトプットします。
「この資料を作成するには、2時間ぐらいはかかるかな」
「靴を磨くのに、20分はかかる気がする」
「机の上を整理するのに30分はかかるだろうか」
「味噌汁を作るのに、15分はかかるに違いない」
どんなことでも、数値的な時間でとらえるのです。そして実際に計測して学習していきます。
「こういった資料を作成するには、4時間はかかるんだ」
「靴を磨くなんて、5分で終わるじゃないか」
「机の上の整理整頓だけだったら10分で終わった」
「豆腐とわかめの味噌汁だったら7分程度だった」
このように、仮説を立てて検証していく習慣をつけていきます。「分からないからやらない」「誰かに正しい答えを聞いてからじゃないとできない」と言っていたら、いつまでも精度は上がりません。トレーニングを繰り返すことで、「スケールテクニック」の精度は高まります。脳の「短期記憶」「長期記憶」へアクセスする感覚に慣れていきます。そして感覚を数値化すれば行動に対する心理ハードルが低くなります。つまり従来の「感覚」が修正されていくのです。
さらに、ベストセラー『Getting Things Done』に
「2分でやれることは今すぐやる」
と書いてあるように、スケールテクニックをして「2分」程度の作業であれば、その作業をいつやるか決める前に、その場で「すぐやる」のです。この「2分」の感覚を身につけておくと、非常に便利です。タスク管理が収斂されていきます。
「手帳に明日の予定を書こう――。2分以内で終わりそうだ」
「内線をかけて、大島さんに仕事の依頼をしたい――。2分以内で終わりそうだ」
「お客様を訪問する前に提案資料をざっと確認しておこう――。2分以内で終わりそうだ」
「LINEを使って、妻に『いつも愛してる』と書こう――。2分以内で終わりそうだ」
「5分」や「10分」ならともかく、「2分」であれば、研ぎ澄まされた感覚――超集中状態「ゾーン」に入ることができていきます。(※超集中状態「ゾーン」に入る方法)ひとたび「ゾーン」に入ってしまえば、時間間隔はゆがみ、物理的な時間である「2分」が「2分」ではなくなり、感情のコントロールをしながらタスク処理ができるようになります。
1時間や2時間かかる作業でも、その作業をいくつかの「2分間」で処理できるタスクに分解することで、先送りの習慣から抜け出すことができるでしょう。
人間が持っている「感覚」は意外と曖昧なものですから、どんな小さなことでもスケールテクニックを使えば「それほど時間がかからない」と学習できていくことでしょう。ついつい先延ばしをしてしまう人は、ぜひ「スケールテクニック」を試してみてください。そして「2分」以内で終わりそうな作業なら、その場で「すぐやる」癖をつけるのです。
脳が正しくデータ処理し続けることで、脳の基礎体力は上がっていきます。「短期記憶」のみならず「長期記憶」や「外部記憶」へアクセスする感覚にも慣れていきます。「考える習慣」が身に着き、「悩む習慣」――つまり堂々巡りをすることも減っていきます。「2分」をキーワードに脳のトレーニングを続けましょう。