山城新伍さん、梅宮辰夫さん。南美希子を衝き動かす名優の教え
元テレビ朝日アナウンサーの南美希子さん(64)。フジテレビ「バイキング」や講演など幅広く活動を展開していますが、新型コロナウイルスで新たな生活様式に一歩を踏み出しつつも、変わらず指針にするのは山城新伍さんや梅宮辰夫さんの背中だと言います。
「ヌードと犯罪以外は何でもできる」
このご時世で、営業的なものは全部流れたり、延期になったり、そういう状況にはなっています。
これまでのマインドは捨て去らないといけないのかと思うくらい、コロナというものは大きいですよね。命ある限り、仕事は続けていきたいと思っているんですけど、より一層、全てに体当たりで向かっていかないといけないなと。
気分としては「ヌードと犯罪以外は何でもできる」という気持ちです。ま、ヌードと言っても、そんな需要は120%ないのは承知なんですけど(笑)、それくらい大きくマインドが変わりましたね。
身近な方も亡くなり、まず生きてること自体が当たり前のことではない。それも改めて思いました。その中で自分は生を受けているのだから、生を余すところなく使い切りたい。そう思うようになりました。
山城新伍さんから学ぶ芸能人とは
今回のことで、今一度生活を見直す中で、これまでの半生を振り返ったりもしました。30歳でテレビ朝日から独立して、30代はバブルの頃で、毎日美味しいものを食べ歩き、自由になるお金もあったのでブランド品も片っ端から買いまくり、海外旅行にも行って、本当に好きなことをして。意識が、常に外へ外へと向く日々でした。
そして、39歳で結婚して40歳で子どもができた。子供ができたので、必然的に力が内に向くところも多々ありましたけど、それでもまだまだ外に向いてました。
この仕事をする以上は華やかに、常に上を目指して仕事をする。その意識の原点は、山城新伍さんに作ってもらったんだと思います。
今から40年以上前になりますけど、入社していち早く芸能番組に配属されて、山城新伍さんと一緒に歌番組をやらせてもらいました。当時は山城さんの絶頂期で、ご飯に連れて行ってくださるお店も超一流。着てらっしゃるものもカッコいい。お話もいろいろうかがいました。
印象的だったのは、お金に関するお話でした。今の自分の実力は年収に表れると。例えば、今年が1000万円だとしたら、翌年は絶対にそれを超える。それが芸能人の生き方だと。だから、年収の数字にはすごく敏感にこだわってらっしゃいました。
あと、もうこれは時効だと思うんですけど、付き合う女性も、例えば新聞のラテ欄にドラマの出演者が載っているとすると、その1行目に載っている女優としか付き合わないと。言わば、連ドラの主演級の人しかターゲットにしない。
そんなギラギラ感というか「やっぱり芸能人はこういうことなんだ」と強く思いました。当時は右も左も分からないアナウンサーの女の子でしたけど、この世界に入った当時に山城さんの精神に触れたのは、その後の自分に大きな影響を与えたと思います。
山城さんの言葉、空気、圧、熱量…。同じようにテレビには出ているけど、サラリーマンであるアナウンサーとは全く違うんです。今の坂上忍さんのように、俳優さんのみならずあらゆる番組の司会をされてましたし、オーラがすごかった。その空気を原風景として見ることができたのは大きなことでしたね。
梅宮辰夫さんのカッコよさ
山城さんが司会をされていたTBSの帯番組で梅宮辰夫さんとも懇意にさせていただくようになりまして、梅宮さんからもたくさん学びました。
ある日、梅宮さんから「娘のアンナの学校で講演を頼まれたんだよ。しゃべるネタはいろいろあるんだけど、誰か聞き役の人がいてくれた方がしゃべりやすいから、ついてきてくれないか」と相談されまして。
私としては梅宮さんのお供ができるならそれでありがたいので「うかがいます」とお伝えしていたら、終わってから、御礼ということで「エッ?」というくらいの額をピン札でお出しになりまして。学校の講演だったので、基本的に梅宮さんもお金なんてもらってないと思うんです。それでもサッとお出しになって「いや、こんなの受け取れません」と言ったら、現金書留で送ってきてくださって(笑)。それくらい、金払いが豪快というか、ちまちましたことが全くない方でした。
あと、信用金庫の講演に行った時、そこも私がお供で行かせてもらったんですけど、その時もすごかったんです。
当時は、ヤクザ映画もされていたし「これが男が惚れる男ということなんだな」と思ったのが、皆さん、入口で梅宮さんを出迎えるんですけど、その光景に驚きました。それだけお堅い仕事をされている皆さんがやくざの親分を出迎えるみたいに、両側に列を作って頭を垂れていて、その列の間を梅宮さんが通って建物に入っていったんです。
皆さんがついついその対応になっちゃう存在感もすごいんですけど、また、梅宮さんもそこを臆せず堂々と歩いていく。普通はそんな感じで迎えられたら「いや、いや、そんなこと…。頭を上げてください」となりますけど、そこを悠然と進む。それがまた、しびれるほど、カッコイイんです。
今という時代
山城さんも、梅宮さんも、今では考えられないスケールで生きてらっしゃいましたからね。今だったら、文春に報じられたらもうアウトという風潮もありますけど、山城さんにしても、梅宮さんにしても、そういうものとは全く違う世界で生きてらっしゃいましたから。
学んだ心意気は今でもしっかりと私の胸の中に息づいてます。そこはありつつ、実際の生活への目線はコロナで変わった部分もたくさんあります。
ま、もうこの歳ですから遊びに行きたいだの、ブランド品を買いたいだのという気持ちはなくなってましたけど、日々の生活を積み重ねること、食べること、住まうこと、そういうことに目が向きました。
新たに始めたのが餃子作りです(笑)。今、息子と暮らしてるんですけど、親子で週末は出かけることもありますけど、基本は家でご飯を作って食べています。そこで特に凝っているのが餃子。あと、ロールキャベツもやるんですけど、要は、ひき肉を買ってくるのではなく、お肉を自分でひいて料理を作ると、こんなに味が変わるんだということを知りまして。
それと、掃除ですね。昔はあまり掃除をしなかったんですけど(笑)、今は窓の隅々まで100円ショップで買ってきた歯ブラシでピカピカにしたり。30代の頃の遊び方とは全く違いますけど、これはこれで、とても楽しいものだと満喫しています(笑)。
(撮影・中西正男)
■南美希子(みなみ・みきこ)
1956年2月26日生まれ。東京都出身。聖心女子大学3年次にテレビ朝日(入社試験当時:日本教育テレビ、入社時:全国朝日放送)のアナウンサー試験に合格。86年に退社し、フリーとなる。フジテレビ「バイキング」などに出演。講演や美容に関するセミナーなども開催している。