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シリアへの軍事介入に備える米仏の戦力

JSF軍事/生き物ライター

内戦中のシリアで発生した化学兵器の大量使用疑惑によりアメリカとフランスは軍事介入の用意を進めています。イギリスは軍事介入を声高に叫んでいたものの議会の反対に遭い武力行使は出来なくなりました。アメリカとフランスは深入りを避ける為に地上軍の投入を行わず、艦船と航空機からの巡航ミサイル攻撃を中心とし、シリア領内に入り込まず遠距離からの攻撃を計画しています。

○艦船からの巡航ミサイル攻撃

現在アメリカ海軍は地中海にイージス駆逐艦5隻を派遣して、トマホーク巡航ミサイルによる攻撃を準備しています。海中にも攻撃型原子力潜水艦が何隻か待機していると推定できます。艦船からの巡航ミサイルによる攻撃は、イギリスが抜けた為にアメリカ海軍だけで行われます。フランス海軍は艦船に搭載する巡航ミサイルを保有していません。フランスは以前アメリカからトマホーク巡航ミサイルを買おうとして断られたので独力でスカルプ巡航ミサイル海軍型(SCALP Naval)を開発、しかし本格的な量産開始は来年からになるので今回の介入には間に合いませんでした。フランス海軍は駆逐艦「シュヴァリエ・ポール」をシリア介入に備えて移動させていますが、この艦は防空戦用で対地攻撃が可能なミサイルを搭載していません。

△空母の艦載機による空爆

現在アメリカ海軍の空母は地中海に居らず、アラビア海に空母ニミッツと空母トルーマンが居ます。本来ならば空母ニミッツはペルシャ湾での活動を終えてアメリカ本国に帰る予定で、空母トルーマンはその交代でした。シリア情勢が緊迫する中で空母ニミッツは帰国を一時中止してその場で待機していますが、空母2隻は両方とも地中海に移動する様子はなく、介入には参加しない可能性が強まっています。フランス海軍の保有する唯一の空母シャルル・ド・ゴールは地中海の母港ツーロンに居り、シリア介入へ出撃すると噂されていますがまだ投入の決定は降されていません。

空母の同様の動きは2年前のリビア内戦介入の際にも見られました。当時アメリカ軍は付近に居た空母エンタープライズを呼び戻さないままNATOが陸上基地からの空爆を開始し、介入開始翌日にやっとフランスは空母シャルル・ド・ゴールをツーロンから出撃させています。

×強襲揚陸艦の艦載機による空爆

2年前のリビア内戦介入の際には各国が強襲揚陸艦を軽空母の代わりとして対地攻撃に投入しましたが、今回のシリア介入では実施されません。シリアの防空能力はリビアよりかなり強力な上に高性能な地対艦ミサイルを保有しており、強襲揚陸艦が攻撃ヘリコプターの短い行動半径にまで沿岸に接近した場合、地対艦ミサイルの射程内に入り込む事になり、艦自体が危険に晒らされるからです。

○陸上基地からの空爆

シリアに近いトルコのインジルリク基地からの作戦が予想されています。戦闘機から発射する長射程の空中発射巡航ミサイルによる攻撃を中心とし、発射母機はシリア領空になるべく入り込まない方針が唱えられています。しかし巡航ミサイルは自由落下爆弾に比べて貫通力が大きく劣るために、シリア軍の化学兵器が強固なコンクリート製地下バンカーに収められていたら通用しない恐れがあります。その為、シリア上空まで乗り込んだ爆撃機による地下貫通爆弾の投下も考えられます。戦略爆撃機の場合はアメリカ本国から発進して来ます。

米空軍より空中発射巡航ミサイルJASSM(格納状態)
米空軍より空中発射巡航ミサイルJASSM(格納状態)
軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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