Yahoo!ニュース

「感動することを見つけ続けるコト」園児1700人の夢中な瞬間を描き続ける元園長が与える生きる力とは

T.K 戎ビデオグラファー

描いてきた幼稚園児の数は1700人を超える。
神戸市の元幼稚園長永井逕一さん(86)は、この20年以上、誕生日を迎える園児の姿を描き、
その絵を誕生祝いとして贈ってきた。京都 の美大を卒業後、神戸市内の小中学校で美術教師、校長を務めて退職。その後に園長として赴任した幼稚園で、園長室で座っているだけでなく、子どもたちに何かをしてあげようと思ったのがきっかけだ。
描くのは、園児が楽しそうに輝いている、その瞬間。
園長を退いた現在も、同市垂水区の「学が丘幼稚園」で、ボランティアとして園児たちの輝きを描き続けている。

・見る人の心をとらえる作風
「この子、こんな子やったんや。その瞬間を見つけた時が、めちゃめちゃおもろい」
これこそが、永井さんが子どもたちを描き続けている理由だ。

園児たちが夢中になっている表情を捉えつつ、どこか懐かしい雰囲気を色鉛筆で表現する。その作風は、描かれた子どもの両親だけでなく、見る人すべての心を和ませてくれる。作品の反響は保護者を中心に徐々に口コミで広がり、2019年には作品集として初出版された。

・描き始めたきっかけは園児の一言
「園長先生って何してんの?」
園長になって間もなく、園児からこう聞かれた。この一言を機に、子どもたちに園長として何かしてあげられる事はないかと考えた。

永井さんは美術教師として、自分が感動したことを描いてきた。校長を務めていた時には、朝礼や集会でそうした感動を話し、絵を見せることで生徒たちに伝えてきた。例えば、トンネルの入口と夕日が偶然重なった様子が大変きれいだったコト。阪神・淡路大震災で自宅は燃えてなくなったが、奇跡的に自分の体と妻の位牌が無事だったコト。

幼稚園に勤めてからは、園児たちが「夢中になって楽しんでいる瞬間」に感動するようになった。そこで永井さんは、子どもたちの姿を描くことを決めた。保護者との交流会でもある誕生日会の時にプレゼントすれば、保護者によろこんでもらえる。その子が幼稚園のどんな場面で楽しんでいたかを描けば、その子の長所を本人や保護者に伝えられる。そんな思いからだった。

・園児の輝きを見つけるのが快感に
幼稚園には、いろいろな子どもたちが通ってくる。兄弟と別れるのが嫌で大泣きする子、ママチャリのかごに乗りながら笑顔で送園される子、体を動かし声を上げる子、友達や先生の後ろから見ている子……。

積極的だったり、控えめだったり、性格や家庭環境によってさまざまだが、共通しているのは「どんな子でも必ず、輝いている時がある」ことだ。時代は変わっても、子どもたちの遊び心は変わらない。子どもたちが夢中になって楽しんでいる時を見つけることで、永井さん自身も教育者として成長し続けてきたと感じているという。

・玄関に飾り、毎日見ている大切な絵
「永井さんからもらった絵は、今も生きる力になっている」
そう語るのは、11年前に永井さんから絵を贈られた大東廉さん(16)だ。

当時は幼稚園にひとつしかなかった新しいキックボードを、誰よりも早く取って使うことに夢中だった。きれいなフォルム、滑らかに動く車輪。夢中で遊んでいた大東さんは、永井さんから「それで良いんだよ。ひとつのことに感動して一所懸命になることは、素晴らしいことだよ」と言葉をかけられたのを覚えているという。

それから11年。現在は演劇の道を目指し、専門の高校へ通っている。「毎朝、玄関に飾っているこの絵を見るたびに、あの日夢中になっていた僕を思い出し、目標に向かうことへ自分を鼓舞させてくれる大切な絵です」

・感性を持ち続けられなくなったら
永井さんは、輝く子どもたちの姿をいまも描き続けながら、こう思っている。「感動することを見つけ続けていくコト。つまり、感性を持ち続けることが永遠の課題。この感性を持たなくなった時が本当の引退だ」「最近はマスクを着ける子が多く、表情が分かりにくい事が軽い悩み。後は体力やな。まあしゃないけど」

いつまで描くのですか?

「無論、目標は死ぬまで。そうありたいなぁ」

クレジット

撮影協力:園田学園女子大学附属学が丘幼稚園

ビデオグラファー

民放~地元CATV制作経歴のVideographer。二児の父。「愛と挑戦」が題材。生きる力を与えられるドキュメンタリー映像を制作しております。

T.K 戎の最近の記事