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ゴルフ界の王者が思わず「おっと!」と揶揄。PIP、結局1位はミケルソンではなくウッズだったという結末

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 昨年、PGAツアーが密かに創設・開始していたPIP(プレーヤー・インパクト・プログラム)は、1月から12月までの1年間の選手の人気度や露出度をランキング化し、トップ10入りした選手に総額4000万ドルを支給するという新たなボーナス制度だ。

 PGAツアーからは年末になっても正式発表はなかったが、昨年12月にフィル・ミケルソンが「PIPで優勝したのは僕だ」とツイッターで発信。1位に贈られる8ミリオン(800万ドル)を獲得したのは自分だと公言した。

 すると、米メディアの一部からも最終結果の予測的な情報が飛び交い、それによれば、1位はミケルソン、2位はタイガー・ウッズとされていた。

 しかし、あくまでもPGAツアーは「複雑な数値の集計・分析には時間を要している」として、正式な発表はされていなかった。

 そして3月2日(米国時間)、ついにPGAツアーから最終結果が発表されたのだが、蓋を開けてみれば、1位はミケルソンではなく、ウッズだった。1位を公言したミケルソンは、1位ではなく2位だった。

 3位はローリー・マキロイ、4位はジョーダン・スピース、5位はブライソン・デシャンボー、6位はジャスティン・トーマス、7位はダスティン・ジョンソン、8位はブルックス・ケプカ、9位はジョン・ラーム、10位はバッバ・ワトソン。

 日本のエース、松山英樹は残念ながらトップ10には含まれず、年末の予測段階から惜しくもトップ10入りを逃して11位になるだろうとされていたコリン・モリカワは、やっぱり11位だった。

【PIPとは?】

 PIPなるボーナス制度は、昨年1月から、ツアーの外部には発表されないまま、密かに創設・開始されていた。

 「ロープ内のパフォーマンスではなく、ロープ外のことでボーナスを支払うのは妥当なのか?」といった声は、当初から選手からも米メディアや関係者からも上がり、賛否両論が渦巻いていたが、ともあれ、PIPはサウジアラビアのオイルマネーによる新ツアー創設構想への対応策としてPGAツアーが打ち出した苦肉の策と見られていた。

 PIPでは各選手のグーグル検索やSNS、テレビ中継などにおける登場頻度を数値化し、ランキング化していく。

 ボーナスの金額は1位が8ミリオン、2位が6ミリオン、3位から6位は3.5ミリオン、7位から10位は3ミリオン。

【いろんな声】

 そもそも、ゴルフ界の王者ウッズが人気度でも露出度でも常にナンバー1であることは誰もが頷く事実だ。そして、昨年2月の交通事故後、初めてウッズが公の場に登場した12月のヒーロー・ワールド・チャレンジ、さらには長男チャーリーくんとともに出場して2位になったPNCチャンピオンシップでは、ウッズが注目と話題を独占していた。

 そうした事実や経緯を振り返れば、人気度ランキングであるPIPでウッズが1位になったことは「なるほど」と思える。

 しかし、「昨年、ツアーの公式大会で1ラウンドもしていない選手に8ミリオンも贈るのか?」という批判の声は聞こえてくる。

 「選手なのだから、人気ではなく、パフォーマンスに対してボーナスを支払ってほしい」と願う声も当然ある。

 疑問の声もある。

 昨年末、PGAツアーからの正式発表前に、なぜミケルソンが自分が1位になったと公言したのかは、ミケルソン本人が自身の数々の問題発言を謝罪した上で休養を取ってしまっている今は、確認のしようがなく、不明のままだ。

 そのミケルソンがツアーから離れた直後のタイミングの今、PIPの最終結果が発表され、「僕が1位だ」と公言したミケルソンが実は2位で、1位はウッズだったというタイミングや結論への疑問をSNSで「ささやいている」選手もいる。

 だが、集計結果には細かい数字がきっちり添えられており、膨大なデータに基づいて、きちんと集計されたはずである。

 1位に輝き、8ミリオンを獲得することが決まったウッズは、昨年末に「僕のPIP優勝を手伝ってくれたみなさん、ありがとう」などと、嬉しそうに発信したミケルソンのツイートをあらためて持ち出し、「whoops(おっと!)」という一言を添えて、ミケルソンのフライングを冗談交じりに揶揄していた。

 とはいえ、1位のウッズの最終スコア「0.9664」と2位のミケルソンのスコア「0.9307」が大差なのか、僅差なのか、それさえ外野には判断しにくいPIPには、不明な部分、曖昧な部分が多々あることも事実だ。

 サウジ・マネーによる新ツアーへの移籍を誰一人公言しておらず、世界のトップ20全員がPGAツアーへの忠誠を誓っている今、PGAツアーはPIPをこれからもずっと継続していくのだろうかという疑問の声もあるが、今年はボーナス総額が50ミリオンに引き上げられ、すでに実施されていることは確かだ。

 賛否両論が渦巻き、さまざま不明点や疑問点もあり、どうもすっきりしないPIPだが、結局、トップ10入りを逃し、ボーナスをもらいそこなった11位のモリカワは、こんなツイートをしていた。

 「10位以下なら、別に何位だろうと同じだ(1セントももらえない)から関係ないよ。#Co11in」

 ハッシュタグ以下は、「Collin」ではなく、11位の「11」を入れて「Co11in」。

モリカワも、ウッズのように絶妙なユーモアやジョークを交えることが人気上昇、露出度アップにつながることを悟っているのだろう。これでモリカワの今年の露出度が少しでも増えたらいいなと密かに思いつつ、ちょっぴり苦笑させられた。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、ラジオ福島、熊本放送でネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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