デンマークのジェンダー平等、未だ道半ば。現地の女性起業家・投資家が語る現実
テクノロジー業界では、積極的な取り組みをしない限りは、自らの特権性に無自覚な男性や白人ばかりの世界になりがちだ。女性の起業家・投資家の少なさは、北欧では未だに大きな問題である。
デンマークのジェンダー平等の矛盾
デンマーク最大の雇用者・企業団体である「デンマーク産業連盟」によると、デンマークでの女性の起業家比率は非常に低く、「多くの女性起業家の成長の足を引っ張っている」。
- 2020年には、1万9,200社の新規事業のうち、約5,100社を女性が支えていた
- この数値は26.6%と、過去6年間で最も高い割合ではあるが、女性起業家の割合が依然として低いことを意味する
- デンマーク統計局の起業家データベースでデータが入手可能な過去20年間は、これまでもずっと「女性起業家の割合の少なさ」を数字で証明してきた
- つまり、「ジェンダー平等という野望にはまだほど遠い」
このような数字もある。
- 取締役会メンバーのうち女性は19%。デンマーク企業の44%の取締役会で女性は0人(Analyse & Tal F.M.B.A報告書)
- 経営幹部レベルのトップマネジメントに占める女性の割合はわずか25%(デンマーク・ダイバーシティバロメーター2024)
つまり
- デンマークは、起業に踏み切る女性を増やすことは、かなり遅れている
- スタートアップ投資家コミュニティにおけるジェンダーの不均衡を変える必要がある
女性は熟練した投資家であり起業家である
デンマークのAngella Investが発表した「女性エンジェル投資家レポート2024」では「女性は熟練した投資家であり起業家である」というデータも発表されている。
- 女性エンジェル投資家の53%が、投資にすぐに利用できる資産が500万デンマーク・クローネ以上あると回答
- 女性エンジェル投資家の31%はフルタイムの投資家
- 女性エンジェル投資家の81%は自分のビジネスを持った経験がある
- 女性エンジェル投資家はSTEM(科学・技術・工学・数学の教育分野)、特に医療技術・ヘルスケア技術、グリーンテクノロジー・エネルギー、SaaS(サービスとしてのソフトウェア)、女性の健康分野への投資に強い関心を持っている
- 潤沢な資金 53%の女性エンジェル投資家は、新興企業への投資に100万デンマーククローネ以上の資本予算を確保している。31%は300万デンマーク・クローネ以上を確保している
「女性は熟練した投資家であり起業家である」というデータがある。
様々なキャンペーン、ロールモデル、育児休業の改善など、良い取り組みがたくさんある。
それにも関わらず、デンマークではジェンダー間の不均衡は依然として残ったままだ。
TechBBQ、登壇者のうち51%が女性とノンバイナリー
北欧で最大級のスタートアップの祭典のひとつである「TechBBQ」がデンマークの首都コペンハーゲンで開催された。2024年は、5つのメインステージ全体で、「350人以上の登壇者のうち、51%が女性とノンバイナリー」と、多様性、公平性、インクルージョンのDEI目標を達成した。
ここで、創業まもない企業に出資をする「エンジェル投資家」と、将来性のある未上場企業に投資を行う「ベンチャーキャピタル(VC)」で働く女性たちが集まった。
登壇者
- デンマーク最大の女性エンジェル投資家コミュニティであるAngella Investの創設者Kristine Leerbeckさん
- Lundgrensのパートナーで、M&A、スタートアップ、VC、エンジェル投資を専門とするPia Lykke Mathiasenさん
- コペンハーゲンを拠点とするVCファンドKost Capitalのパートナーとして、アーリーステージのバイオエコノミー新興企業にプレシードおよびシード資金を提供するBodil Sidenさん
- ベンチャーキャピタル、商業不動産、コーポレート・ベンチャーリングに重点を置く投資会社InnovestorのパートナーであるPiia Maaranenさん
- パートナー・アライアンスVCは北欧のベンチャーキャピタルで、優れたアーリーステージのハイテク企業や、グローバルな野心を持つ目的志向の創業者に投資しているBente Loeさん
女性投資家からの5つのアドバイス
- 投資の状況や用語について知識を深める
- 直感を働かせることも含め、投資家を慎重に選ぶ
- ネットワーキング
- 大きく考え、大きく尋ねる
- 難しい質問や個人的な質問に備える
指摘された課題
- 資金調達を求める女性主導のビジネスが不足している
- 女性投資家に売り込んだ場合、女性投資家は異なる質問をし、異なる方法で製品を理解し、投資する可能性が高い
- 女性がしがちな、「感情」や「気持ち」について「話し過ぎる」のは注意したほうがいい
- 今後、子どもを持つことを計画していることを前提に、だれかが退職・休業しても物事が軌道から外れることがないように、創業チームで対処する
- 起業家が投資家と初めて話し合う際、「産休について、どう思うか?」は聞かないほうがいい。聞くとしたら、「どうしてそれはあなたの焦点なのか」「なぜ最初のポイントにする必要があるのか」をよく考えて
- 投資家に会いに行くときに、自分を安売りしてはいけない
- 自分を信じるだけではなく、自分を第一に考えること。あなたの心身が健康なら、他のすべてがうまくいく。自分が家族のリーダーであるという強さを発揮し、内面から幸せでいること。最初の会議で、あなたが「コーヒーを出す人」にはならないように!
鍵はネットワーキング
- ネットワーキングは重要だが、創業者は人脈作りやコーヒーを飲みながら仕事の話が進む「コーヒー・トーク」の時間が少ない
- ネットワーキングの場で、誰かに何かを与えれば、必ず返ってくる
- 事業部門、マーケティング部門など、様々なレベルのメンターを数人持つことが重要
- 社交的である必要はない。人脈づくりの場が苦手なら、メディアを使うなど他の方法はいくらでもある
- 人脈づくりに集中する「曜日」を決めるのもあり
- 自分より先に進んでいる人たちとの人脈を増やす
- 人脈づくりに必死になりすぎて、所かまわず連絡するのはNG。下調べをして、互いに関連性があるのかを確認して
- ビジネス用SNS「LinkedIn」で返信をする余裕のある人もいるけれど、忙しくて返事はしない人がいることも理解して
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執筆後記
起業家・投資家が集まるこのようなイベントでは、北欧各国では共通して、女性やノンバイナリーたちが集まり、本音を共有する機会がある。「今年だけ」ではなく、「毎年」開催されていることもポイントだ。参加者の多くが同じような属性を持ち、登壇者の話を聞きながら、微笑んだり、深くうなずいている人も多い。
北欧の特徴を理解するには、「ネットワーキング」という言葉は鍵になる。人口規模が多い日本や米国などと違い、北欧諸国は人口が少ない。「スモールネス」という事情により、社会構造を根元から変えていくためには、ネットワーキングによって連帯していくことが必要なのだ。
「北欧はジェンダー平等が進んでいる」と世界的には評価されているかもしれないが、テック業界で「ジェンダー平等は達成された」なんて誰か言おうものなら、多方から一斉に石が飛んでくるだろう。
実態調査、個人の問題ではなく構造問題としての認識、ネットワーキングによる連帯、政治家を巻き込んでの政策改革など、様々な取り組みで、今も北欧は課題の改善に向き合っている。