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ウィル・スミスが動画で“平手打ち事件”後の心境を告白。人々の反応は?

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
動画で心中を告白したウィル・スミス(YouTube)

 世界中をショックに陥れたオスカー授賞式での“平手打ち事件”から、4ヶ月。その間、完全に姿を消していたウィル・スミスが、初めて心境を語った。

 インスタグラムに投稿されたその動画は「この数ヶ月、僕は多くのことを考え、自分を見つめていました。あなたたちが聞いてきたまともな質問に、時間をかけて答えたいと思いました」というテロップで始まる。次に映るのは、テーブルと椅子が置かれた部屋。そこに入ってきたポロシャツと野球帽姿のスミスが、人に聞かれた質問を読み上げ、カメラに向かってその答を語るという流れだ。

 最初の質問は、受賞スピーチでなぜクリス・ロックに謝らなかったのかについて。スミスがプレゼンターとして舞台に上がっていたロックに平手打ちをしたのは、長編ドキュメンタリー部門が発表される前。スミスによる暴力に会場も視聴者も騒然となるも、主演男優部門で受賞が確実視されていたスミスが追い出されることはなかった。予想通りに受賞すると、スミスは6分近くにわたって涙のスピーチをしたのだが、アカデミーと候補者仲間には謝ったものの、ロックには謝っていない。

 その理由について、スミスは、「あの時は頭の中が真っ白になっていたからです」と説明。続いて、ロックに連絡をしたのだが、「今はまだ話したくない」との返事が来たとも明かした。

「クリス、君に謝ります。僕の行動は許されるものではありませんでした。君が話したいと思うようになったら、僕はいつでも話します」というスミスは、ロックの母にも謝罪している。あの事件の後、ロックの母はテレビのインタビューに応じ、「ウィルがクリスを平手打ちした時、彼は私たち(家族)全員を平手打ちしたのです。わが子が傷つけられると、私も傷つくから」「ウィルはいったい何を考えていたのでしょう?クリスは(平手打ちされた勢いで)舞台から落ちたかもしれない。ウィルが手錠をかけられることになったかもしれない」と語っていた。

「あの瞬間、どれだけ多くの人を傷つけたのか、僕は気づいていませんでした」と、スミス。

「クリスのお母さんに謝ります。クリスの家族にも。とくに(ロックの弟)トニー・ロックに。トニーと僕は仲が良かったんです。でも、もう修復できないでしょう」。

 次に、スミスは、ロックのジョークを気に入らなかった妻ジェイダ・ピンケット・スミスに何かしてくれと頼まれたのかという質問を取り上げている。彼の答は「ノー」。

「僕は、自分の経験と、クリスとの歴史をもとに、自分で決断したのです。ジェイダは関係ありません。この行動のせいであんな騒ぎに巻き込んだことについて、家族に謝ります。ほかの候補者にも。このコミュニティの人たちが投票してくれたから僕は受賞できたのに、僕はその人たちの大事な瞬間を台無しにしてしまいました。今もクエストラブの目が頭に浮かびます。あれはクエストラブが(長編ドキュメンタリー部門で)受賞した時に起こったので。ごめんなさい。いえ、ごめんなさいでは足りないですね」。

 最後にスミスは、自分のことを尊敬してくれていた人たちをがっかりさせたことについてどう思うかとの問いに答えた。

「僕は人をがっかりさせるのが大嫌い。だから辛いです。人が自分に対して持っていたイメージを裏切ってしまったということは、心理的にも、感情的にも辛い。僕は今、自分を恥じることなく自責しようとしています。僕は人間です。間違いをおかしましたが、自分をクズだとは思いたくありません。(あの平手打ちを見て)混乱したでしょう。ショックだったでしょう。でも、僕は、光、愛、喜びを世界にもたらすと強く約束します。約束をしっかり守ったら、僕たちはまた友達になれるはずです」。

ツイッターには「遅すぎる」の声も

 この投稿についてインスタグラムに寄せられた人々からのコメントは、非常に好意的だ。西海岸時間29日午前の時点で7万近く集まったコメントは、「お帰りなさい。ずっとあなたが好きでした」「君は良い人。人間だったら誰でもあるように、悪い瞬間が訪れてしまっただけ」「ウィルは謝った。もう終わったこと。それに彼はずっと悪いことをやってきたわけではない。これは1度の間違い」「自分を許してあげて。みんなはもう許したんだから」など、全面的にスミスを褒め、応援している。

 しかし、ツイッターは必ずしも優しくはない。ある人は、スミスが授賞式のアフターパーティに出席してダンスをしていたことに触れ、「頭が真っ白だったって?それに彼の子供(ジェイデン・スミス)は『これがうちのやり方』と彼を弁護していたよね。信じない。彼は俳優だし」と皮肉なコメントをしている。別の人も同じように「これでオスカーに候補入りできるとでも思っているのかね」と、この動画でスミスは演技をしているだけだと指摘する。

オスカーの後のヴァニティ・フェア主催のアフターパーティで、ウィル・スミスはご機嫌そうにオスカー像を見せびらかしていた
オスカーの後のヴァニティ・フェア主催のアフターパーティで、ウィル・スミスはご機嫌そうにオスカー像を見せびらかしていた写真:REX/アフロ

 また、「ウィル、悪いけど数ヶ月遅いよ」「人がようやくこのことを忘れた時になって?」「本当の感情がわかるのに4ヶ月もかかるの?」など、謝罪をするのならもっと早くするべきだったとの声もある。さらに、「クリス・ロックがまだ彼を訴訟していないのが驚き」「クリス・ロックは二度と彼と話すべきじゃない。何十億人が見る前でやったんだよ。誰も見ていないところで友達が同じことをやったとしたら、僕は友達をやめる。世界が見つめる中であんなことをされるのがどんな気持ちなのか、想像もできない」と、スミスがやったことの重大さを強調するものも見られる。

 とはいえ、あの事件でスミスのキャリアが終わったと見る人はほぼいない。それはあの事件の直後もそうだったし、今も変わらない。彼に才能と魅力があることは誰もが認めるところだし、そもそもハリウッドはカムバックストーリーが好きなのだ。あの出来事を受けて来年まで公開が延期になった次回主演作「Emancipation」はオスカー狙いと位置づけされており、来年にはまたスミスが表に出てくることになるだろう。そのタイミングで、アメリカで絶大な人気を持つオプラ・ウィンフリーの独占テレビインタビューが行われ、本格的に人々の愛を取り戻したりするのではないか。いずれにせよ、“映画スター”ウィル・スミスは、近々戻ってくる。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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