遺伝子組換えメダカ流出で逮捕者の衝撃
メダカ流出で逮捕者
メダカは私たちにとってお馴染みの動物だ。飼いやすく繁殖力が強い。オスメスを見分けるのが簡単で、生殖周期が短いことから、研究にも使われてきた。遺伝子組換えを行うことも可能で、遺伝子を入れたり削ったりすることもできるようになっている。
ところが、この愛らしい動物が突如事件の主役となった。
出典:赤く光るメダカ販売か 東工大から流出 カルタヘナ法違反で初の逮捕
東京工業大学の公式発表を見てみたい。
出典:遺伝子組換えメダカの学外持ち出しに係る文部科学省からの厳重注意について
学生がメダカの卵を持ち出したという。
遺伝子組換え生物は、本来は環境にない生き物なので、環境中に流出しないように管理されている。それを学生が持ち出したという。これは自然界に本来ない生物が広がってしまう可能性があり、非常に大きな問題だ。
遺伝子組換え生物の管理はどうなっているのか?
記事の中で「カルタヘナ法」という法律が出てきた。この法律について簡単に振り返ってみたい。
カルタヘナ法とは、遺伝子組み換え生物等の使用について規制することで、生物多様性を確保するために制定された法律である。2004年に施行された。
この法律によって、遺伝子組換え生物を食用や飼料用等として使用、栽培、育成、加工、保管、運搬、廃棄することなどあらゆることが規制されている。当然販売、展示も規制対象となる。
カルタヘナ法のもとになったのは、国際的な枠組みであるカルタヘナ議定書であり、現在170を超える国と地域がこの議定書に批准している。なお、アメリカやカナダは批准していない。
出典:カルタヘナ議定書(生物の多様性に関する条約のバイオセーフティに関するカルタヘナ議定書)(Cartagena Protocol on Biosafety)(外務省)
今回の事件は、このカルタヘナ法に違反して逮捕者が出た初めてのケースとなり、各界に衝撃を与えている。
研究現場に大きな影響も
こうした遺伝子組み換え生物が売買されていたことに驚くが、問題はこの光るメダカが流出した原因が、東工大で研究をしていた学生が持ち出したことだということだ。
東工大の発表にもあるように、持ち出そうと思えば持ち出せた、「教育訓練が不十分であった」ということになるが、一体どうやれば防げるのだろうか。
東工大では以下のような対策を取るという。
管理を厳格化する方向だ。今回の事件の重大性を見れば当然とは言える。
しかし、あまりに厳格になりすぎれば、研究が行いにくくなる。すでにSNS上では不安、懸念の声が聞かれる。
研究不正の対応とも同じで、問題が起こるたびに手続き、管理をより強化する方向に向かうのは、ある種仕方ないのかもしれないが、事件の防止と研究環境の規制のバランスを模索する必要はあるだろう。
「想定外」は起こる
しかし、メダカが観賞用として売買される状況に目をつけた学生(学部生)が卵を持ち出すといった事態を想定した人はどれだけいるだろうか。関係者にとってはある種の「想定外」だったのではないか。
そう、研究不正なども含め、常に「想定外」の事態は起こる。
個別事例を禁止するだけでは、「想定外」が出た時に防ぐことはできない。いわゆるモグラ叩きになってしまうからだ。
なぜやってはいけないのか、といった根源的な問いを考える教育を行わなければ、新たな事件が発生するたびに、「パッチ」を当てるように予防策を行うことになりかねない。
研究現場における研究公正、研究倫理のあり方が問われている事例と言えるだろう。