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阪神・伊藤将司。高校の先輩・成瀬ばりのフォームで、2年目の年俸は球団史上最高のアップ額

楊順行スポーツライター
(写真:アフロ)

「評価通りに上げてくれました。本当に充実した1年でした」

 開幕から1年間先発ローテーションを守った左腕は、笑顔でそう語った。

 阪神タイガース・伊藤将司投手。球団新人最多の24本塁打を放った佐藤輝明、30盗塁で盗塁王を獲得した中野拓夢とともに、新人3人そろって年俸の大幅アップを勝ち取った。10勝の伊藤は、1300万円から3100万円増の4400万円。2年目のアップ額としては球団史上最高だといい、総額でも新人トリオのトップだ。

「高校時代から意識していた」フォーム

 2020年のドラフトで阪神に2位指名された後に聞いた話を思い出す。伊藤といえば、横浜高の先輩にあたる成瀬善久(元ロッテほか)ばりのフォームが特徴。テイクバックでボールが体に隠れるため、打者からすればボールが見えにくく、

「そこは高校時代から意識しています。また、右手のグラブを高く上げるのは角度をつけるため」

 さらにチェンジアップで緩急を駆使して幻惑するから、ストレートの平均が140キロでも打者を差し込めるのだ。本人が目標としていた二ケタ勝利に加え、規定投球回数にはわずかに届かなかったが、防御率2.44は立派だ。

 高校2年時には、1学年上の松井裕樹(当時桐光学園、現東北楽天)に投げ勝ち、甲子園に出場。丸亀(香川)との初戦に先発し、14奪三振で1失点完投勝利をあげたが、続く3回戦で優勝する前橋育英(群馬)に6回5失点で屈している。育英のピッチャーが、同じ2年生の髙橋光成(西武)だった。

 3年時の神奈川大会では、松井に並ぶ10者連続三振を記録。ただし、甲子園には出られていない。国際武道大に進学して通算24勝し、社会人の強豪・JR東日本でも1年目から先発の柱を任された。

 プロ解禁となる社会人2年目には、大きく飛躍する。都市対抗東京2次予選・第1代表決定戦。やはりドラフト候補のNTT東日本・佐々木健(現西武)との投手戦で9回1死まで無安打を演じ、1安打完封というほぼ完璧な投球で投げ勝つことになる。伊藤は言っていたものだ。

「1年目は球速が不満で、制球にも苦しみましたが、このときの2次予選は3試合で四死球1。球速も146キロと最速を更新でき、成長を実感しました。ただもともとは、コーナーに投げ分けるのが自分の持ち味です」

 ドラフト会議後の都市対抗本戦では、三菱自動車岡崎での2失点完投勝利を置き土産にプロ入り。今季の活躍となるわけだ。

 それにしても……ネットで調べると、大卒の平均初任給は21万円強。賞与を加えた年収を360万とすると、来年が大卒4年目になる伊藤は、その12倍以上を稼ぐことになる。なんとも、うらやましい。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は64回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて55季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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