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米ハフィントン・ポストのドイツ語版が今秋スタート

小林恭子ジャーナリスト
米ハフィントン・ポストのドイツ語版開始を伝える独ウェルト紙のサイト

日本では7日から米ハフィントン・ポストの日本語版が開始されるが、今年秋には、ドイツ語版が立ち上がる予定だ。本家米国、英国、カナダ、フランス、イタリア、スペイン、そして日本版に続き、8番目のバージョンとなる。

私は昨秋、ドイツの新聞発行者協会を訪ねる機会があり、広報担当者から「ドイツ版はない」と聞いていたので、このニュースにやや驚いた。ドイツの新聞界は、他国からやってきた企業が自国の新聞市場を支配する向きを見せると、一致団結して抵抗する傾向がある。かつて、ノルウェーのメディア企業が無料新聞の発行をドイツの都市で開始したとき、対抗する無料紙数紙を発行し、この企業を最終的に撤退させた経緯があった。

ハフィントン・ポストがドイツ語版開始に手を組んだのは、独出版社ヒューバート・ブルダ・・メディアの子会社で電子出版のトゥモロー・フォーカス社だ。

ブルダ社の発表によると、ハフィントン・ポスト独語版の本社はミュンヘンに置き、約15人前後と見られる編集スタッフをドイツで調達する。

ドイツ語は欧州内の数カ国で主要言語となっている。今回のドイツ語版はオーストリアやスイスのドイツ語を理解する読者(約1億人)も対象としている。

ドイツ語版は2年以内に収益を出すことを目標としているという。ハフィントンポスト社の最高経営責任者ジミー・メイマン氏が3月、オンラインの「ホライゾン・ネット」に語ったところによれば、今後3年から5年以内に、ドイツでトップ5のニュースサイトになることを目指す。

英フィナンシャル・タイムズなどの報道によれば、ハフィントン・ポストは各市場に200万ドル前後を投資し、費用や収益を合弁会社と折半するという。フランスではルモンド紙、スペインではエルパイス紙、ィアリアではグルップ・エスプレッソ社と提携している。北米以外で最初に開始されたハフィントン・ポストは英国版だった(2011年7月)。

ドイツのメディア学者Joe Groebel氏がAPに語ったところによれば、ハフィントンポスト独語版はドイツのニュース・メディアに大きな影響を与える可能性があるという。

Groebel氏によれば、ドイツの新聞メディアは政治報道を中心に据え、事実と論考を分ける形をとる。一方のハフィントン・ポストは「感情に語りかけ、個人の顔を出し、短い記事が多い」。

また、ハフィントン・ポストの記事は無料で閲読できるので、これもドイツの新聞サイトにとっては脅威となる可能性がある。

ドイツ最大の大衆紙ビルトや高級紙ウェルトを発行する大手出版社アクセル・スプリンガー社はサイト閲読に有料制を導入しつつある。ほかのドイツ紙も米ニューヨークタイムズのようなメーター制による課金化を計画しているが、商業的に成功したところはまだないといわれている。

ドイツの新聞発行部数は、日本同様下落傾向にある。ドイツ新聞発行者協会がまとめた情報によれば、2000年から2011年の間に、総発行部数は約2400万部から約1800万部に減少。これは約22%の下落にあたる。

ハフィントン・ポストがギリシャ系米国人アリアーナ・ハフィントン氏によって創刊されたのは2005年だ。2011年には3億1500万ドルで米AOLに買収された。

参考:

Huffington Post picks Burda publishers for German edition

Huffington Post to launch German edition

Huffington Post rolls out in Germany

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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