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北朝鮮の潜水艦弾道ミサイル発射は成功?それとも失敗?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
北朝鮮のSLBM

北朝鮮が4月23日に行った潜水艦型弾道ミサイル(SLBM)の発射をめぐって南北の評価が180度異なっている。

韓国国防部は飛距離が約30kmで、SLBMの最小限の射程300kmに及ばなかったとして、即座に「失敗した」と結論付けた。ところが、北朝鮮は一日遅れて、発射は金正恩第一書記の立ち合いの下、実施され「完全に成功した」と発表した。どちらが正しいのだろうか?

北朝鮮のSLBM試射は昨年5月から数えて今回で4度目。今回の実験が何を目的にしたのか、それによって、成功、失敗の区別がつく。

韓国国防部が挙げた失敗の根拠は飛距離にあるようだ。射程300kmのSLBMが30kmしか飛ばなかったとすれば、明らかに失敗だ。しかし、北朝鮮が初めてSLBMの水中発射実験を行い、「成功した」と発表した昨年5月の飛距離は韓国国防部の推定では150mだった。仮に今回の実験が一回目よりもさらに飛距離を伸ばすのが狙いならば、30kmまで伸びたことはそれなりに成果があったということになる。まして、この時は「潜水艦からの発射ではなく、水中に沈めたバージ船(台船)から発射された」との疑惑が持ち上がっていた。ならば、今回確実に潜水艦からの発射ならば、「成功」ということになる。

北朝鮮はSLBMについては11月、12月と立て続けに発射実験を繰り返していた。11月28日の2度目の発射実験も韓国国防部は水中から飛び出たことが確認されなかったことから「不発に終わった」と結論付けていた。この失敗で「潜水艦も損傷した」とみなしていた。不思議なことに北朝鮮はこの2度目の発射事実を公表しなかった。従って、金第一書記が立ち会っていたかは不明のままだ。

3度目があったのは1か月後の12月25日。どういう訳か、韓国国防部は発射の事実を発表しなかった。米国からの報道で判明した。後に韓国は発射の事実を追認したが、成否については見解を明らかにしなかった。

過去3回発射実験を行った北朝鮮は金正恩第一書記の誕生日にあたる今年1月8日、SLBMの発射場面を映像で公開した。映像では模擬弾が水面から直角で上昇、30~40mの上空で轟音を轟かせ点火し、そのまま垂直に上昇、雲の上を突き抜けるシーンが映し出されていた。5月の初の発射実験では模擬弾は水面と45度の角度で飛び出していたが、映像では90度のほぼ直角だった。

韓国のメディアはこの映像について過去のスッカドミサイルの発射映像を編集し、操作した可能性が高いと報じた。公開された1回目の映像でも水中の状況を描いたシーンがコンピューターグラフィックス(CG)を使っているように見えたことや、水中発射のシーンとミサイルが海面に出てきた後のシーンのつながりが不自然なことから疑問が呈されていた。

北朝鮮は3度目についても公表せず、非公開扱いにした。しかし、金第一書記の服装が5月の時と異なることから、3度目の発射に立ち会っていたことが確実視されている。

こうしてみると、北朝鮮は過去4回のうち、少なくとも3回は金第一書記の立ち合いの下、行われている。そして1回目と4回目だけを「成功した」と発表している。失敗した際には発射そのものを伏せていることがわかる。

そのことは、金第一書記が立ち会った3月3日の新型放射砲の発射、3月10日の射程500kmのスカッドの発射、3月18日の射程1300kmのノドンの発射、3月21日の放射砲実戦配備の最終テスト、そして4月1日の新型迎撃誘導ミサイルの発射がいずれも「成功した」と発表していることでも見て取れる。

その一方で、北朝鮮は4月15日に初めて中距離弾道ミサイル「ムスダン」を発射したにもかかわらず今もって発射の事実を明らかにしてない。金第一書記が他のミサイル発射に立ち会っていて、グアムを標的にした、それも初の「ムスダン」の発射に立ち会わない筈はない。発表しないのではなく、失敗したから発表できなかったと言うのが真相だろう。

「ムスダン」について韓国合同参謀本部は「正常な軌道を描いて飛行しなかったので失敗」と発表し、米国防総省のデービス報道部長も発射から9秒後に爆発したとして「破滅的な失敗に終わった」とコメントしている。米戦略司令部も「失敗した」と公式に確認している。

失敗すれば口をつぐむ習性からして、今回SLBMの発射事実を公表したことは北朝鮮なりに成功したからではないだろうか。要は、何を試した結果、成功したのか?それが問題となる。

北朝鮮の発表では「設定された高度での前頭(弾頭)部核起爆装置の動作の正確性を確証するのが目的」とされている。この目的に沿って潜水艦が「最大発射深度まで迅速に沈下し、殲滅の弾道弾を発射した」ことになっている。

この「殲滅の弾道弾」が何を意味するのかは不明だ。しかし、金第一書記が3月15日に「早い時期に核弾頭装着が可能なあらゆる種類の弾道ロケット(ミサイル)試験発射を断行せよ」と指示していたことから模擬の核弾頭を装着して発射を試みた可能性も考えられなくもない。

韓国国防部が言うように北朝鮮のSLBMが「使い物にならないレベル」ならば良いのだが、どうやらそうでもなさそうだ。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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