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もうすぐ夏休み 子どもを狙う犯罪者が現れる「2大スポット」はどこ?

小宮信夫立正大学教授(犯罪学)/社会学博士
(写真:イメージマート)

子どもにとって、夏休みは学校中心の生活から抜け出し、行動範囲が街へと広がる時期だ。そのため、犯罪者と接触する機会も増える。

もっとも、犯罪者がいる場所は決まっている。それは「入りやすく見えにくい場所」だ。これは「犯罪機会論」の研究によって確立した原理原則である。

街には「入りやすく見えにくい場所」、つまり「犯罪が起きやすい場所」がたくさんある。その中でも、特に注意したい「犯罪者が好きな2つの場所」を考えてみたい。

ショッピング施設が危ない

まず、スーパーやショッピングモールのトイレが要注意だ。なぜなら、「トイレは犯罪の温床」と言われているにもかかわらず、日本のトイレは、構造上、犯罪が起きる確率が世界一高いからだ。

これは、筆者が世界100カ国のトイレを調査した結果である(詳しくは、小学館の『写真でわかる世界の防犯――遺跡・デザイン・まちづくり』を参照)。

したがって、家族一緒にスーパーやショッピングモールを訪れても、子どもを一人でトイレに行かせることは避けたい。

子どもを狙った犯罪者は、どこから子どもを狙っているか分からない。「不審者を見かけたら110番」とよく言われるが、犯罪者かどうかを見かけで判断するのは不可能。そのため、海外では「不審者」という言葉は使われていない。

日本でも、交通安全教育では「変なドライバーに気をつけなさい」と教えていないのに、なぜか防犯教育では「変な人に気をつけなさい」と教えている。

では、どうやって犯罪者は子どもに近づくのか。

例えば、犯罪者が安心して子どもを物色できる場所は、トイレ近くの休憩コーナーだ。長時間、スマホを見ながらベンチに座っていれば、誰からも怪しまれない。自動販売機でもあればなおさらだ。

熊本市のスーパーのトイレで女児が殺害された事件(2011年)でも、休憩コーナーが「犯罪の起点」になった。

犯人は、トイレから約5メートルの所にある休憩コーナーのベンチに座って、4時間にわたって物色していた。時々立ち上がり、付近をうろつくこともあったという。そして、女児が一人でトイレに行った直後、追いかけるようにトイレに向かった。

なお、このスーパーには防犯カメラが10台設置されていたが、それでも「見えやすい場所」にはならなかった。なぜなら、防犯カメラが怖いのは、犯行が発覚するかもしれないとビクビクしている犯罪者だけだからだ。

犯人の計画では、「誰でもトイレ」に女児と一緒に入り、性的行為を犯すものの、性犯罪だと感づかれない程度にとどめ、女児が被害に気づく前に解放するつもりだったのだろう。

防犯カメラに自分の顔が捕らえられたとしても、犯行が発覚しない以上、録画映像が見られることもない――犯人は、そう思っていたに違いない。

ところが、家族が女児を捜してトイレまで来るという想定外の展開が起きた。トイレの外から女児を捜す声が聞こえ、ドアをノックされたので、犯人はパニックに陥り、女児の口をふさぎ窒息死させたのである。

事件当日、セールのため約2600人の客が店を訪れて混雑していた。そのため、犯人は目立たなかった。こうした雑踏は、心理的に「見えにくい場所」である。注意が分散し、「傍観者効果」も生まれるからだ。

長崎市で男児が男子中学生に連れ去られ殺害された事件(2003年)でも、客でにぎわう家電量販店が「犯罪の起点」になった。

こういう場所では、親は「誰かがうちの子を見てくれている」と思いがちだが、実際は、誰も「うちの子」を見てはいない。「うちの子」にスポットライトを当てるのは親だけで、不特定多数の人が集まる場所では犯行に気づきにくい。

仮に犯行に気づいたとしても、こうした場所では、犯行が制止されたり、通報されたりする可能性も低い。なぜなら、犯行に気づいても、「たくさんの人が見ているから、自分でなくても誰かが行動を起こすはず」と思って、制止や通報を控える傾向があるからだ。

居合わせた人全員がそう思うので、結局誰も行動を起こさない。それを見て、誰かが行動を起こすかといえば、そうはならない。今度は、「誰も行動を起こさないのは、深刻な事態ではないから」と判断してしまうのだ。これが「傍観者効果」である。

一方、「犯罪の終点」になりやすいのがトイレである。

例えば、熊本女児殺害事件(2011年)の殺害現場となったスーパーのトイレは、「入りやすく見えにくい場所」の典型だ(写真)。

まず、性被害に遭いやすい女性のトイレは、手前にあるので「入りやすい場所」である。女性のトイレは、女性の後ろからついてきた男性が、ずっとついて行くことができないように、奥まったところ(入りにくい場所)に配置されるのが望ましい。

次に、トイレの入り口は、壁が邪魔をして、買い物客や従業員の視線が届きにくい「見えにくい場所」である。もちろん、犯人が女児と一緒に入った「誰でもトイレ」も「見えにくい場所」だ。

殺害現場のトイレ(筆者撮影)
殺害現場のトイレ(筆者撮影)

公園が危ない

公園のトイレのデザインについても、犯罪機会論の基本である「ゾーニング(すみ分け)」が進んでいない。「みんなの公園」という意識が強いからだ。

海外の公園では、子ども向けエリアと大人向けエリアを、フェンスやカラーで明確にゾーニングし、遊具は子ども向けエリアに、樹木は大人向けエリアに集中させている。

フェンスで仕切られた遊び場では、子ども専用のスペースに入るだけで、子どもも周りの大人も警戒する。そのため、だまして連れ出すことは難しい。

日本でも、子どもの連れ去り事件の8割は、だまされて自分からついていったケースだ。

公園のトイレは、男性用の入り口と女性用の入り口を、左右にかなり離したり(写真)、建物の表側と裏側に設けたりするのが海外の常識である。障害者用個室も、男女それぞれのトイレの中にあるのが普通だ。

ミャンマーのトイレ(筆者撮影)
ミャンマーのトイレ(筆者撮影)

「誰でもトイレ」や「みんなの公園」という意識は、「和の精神」に沿うものなので、日本では、何の疑問もなく受け入れられてきた。しかし、それは、かつての流行語「赤信号みんなで渡れば怖くない」が示すように、思考停止を意味する。

犯罪機会論という「科学」を実践したり、ゾーニングに基づく「多様性」を実現したりするには、深く学び、アイデアを出し合う必要がある。

にもかかわらず、根性頼みの「精神論」が日本の防犯を支配している。常識という「空気」だけで防犯できると思い込んでいる。そのため、日本では、犯罪機会論が普及していない。

日本人が犯罪機会論を採用しない理由として、頻繁に使われるのが3つの「M」だ。それは、「もったいない」「むずかしい」「めんどうくさい」の3Mである。これでは、防げる犯罪も防げない。

いつまで、犯罪被害を「運」や「偶然」のせいにするのだろうか。

犯罪被害を「運」や「偶然」のせいにせず、被害に遭う確率を下げたいと思う方は、犯罪機会論を疑似体験する下記動画を、ぜひご覧いただきたい。安全と危険を見分ける「景色解読力」が、一気に高まるに違いない。

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士

日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ――遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページとYouTube チャンネルは「小宮信夫の犯罪学の部屋」。

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