新トレーニングに取り組んだこの1年。 ガンバ大阪は確かな成果とともにJ1リーグに昇格する。
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周知の通り、ガンバ大阪は目標に掲げていたJ2リーグ優勝、J1昇格を実現し、今季の戦いを終了した。序盤戦はJ2リーグの戦いに慣れず、勝ち切れない苦しいスタートになったものの以降は、ほぼ盤石の戦いに。もちろん、毎試合、相手が『対ガンバ大阪』という対抗心を燃やして立ち向かってきた中では難しい展開を強いられることも多く、勝ち点を落とす試合もあったが、総合的にはチームが年間を通して挙げた圧倒的な得点数『99』にも証明されるように、本来の攻撃サッカーを前面に打ち出しながら結果を伴わせたシーズンになった。
この1年の戦いを語る上で欠かせないのが、以前、このコラムでも紹介したG大阪が今季初めて取り組んだレイモンド理論に基づいたフィジカルトレーニングだろう。
改めて説明すると、レイモンド理論とは『爆発力の向上』『爆発力の持続』『アクション頻度(=回復力)の向上』『アクション頻度(=回復力)の持続』という4つの狙いを意識したトレーニングで、それに取り組むことで、回復力を持続、向上させる機能を備えられるというもの。といってもG大阪の場合、その理論をそのまま取り入れた訳ではなく、長谷川健太監督が目指すサッカーのスタイルの元、個々の特性を見極めながら独自のアレンジを加えてトレーニングを実施。『球際での強さ』や『爆発的なスプリント力の向上』にも並行して取り組みながら、選手のコンディションにあわせて取り組んできた。
実際、週の始め、水曜日か木曜日に行われることの多かったフィジカルトレーニングでは毎回、選手のコンディションや年齢等に応じて組み合わせる人数や、ピッチの広さ、時間などを細かく変化させている様子が見てとれた。それは例えば、過酷な暑さに体力を奪われる夏場と、身体が動きやすくなる秋口といった季節によっても変化させていたし、試合の密度や選手の疲れ具合、体力の消耗度合いによっても選手別に強度を変更。また選手には「力の配分をせずに、最初から全力でやりきる」ことを強いていたからだろう。予め予定していたメニューを全てこなせなくとも、実際に取り組む選手の状態に応じてその回数や時間を短縮することもあった。
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では、その効果についてだが、選手のコンディションは日々のトレーニングのみならず、食事や睡眠、気候など、いろんな要素に支えられて成り立っているからこそ、それを測るのはとても難しいこと。加えて『結果』が全てとされる勝負の世界においては、例えその効果を感じられていたとしても、結果が出せなければノーとされることも多い。
いや、そうであるからこそ、今季、G大阪がJ2優勝、J1昇格を果たした事実から、かつ、疲労が蓄積されていくシーズン終盤の戦いを振り返っても、「効果があった」と言い切るのは間違いではないはずだ。事実、先頭に立ってこのトレーニングを指導してきた吉道公朗フィジカルコーチは言う。
「どのトレーニングを取り入れても、フィットする選手、いない選手がいるように、今回のトレーニング方法が全ての選手にあてはまったかとは一概には言えません。ただ、監督が課題に掲げチームとして取り組んできた『球際の強さ』や『爆発的なスプリント回数の向上』という点については明らかに変化が見られたのかな、と。また、特に10月半ばの天皇杯3回戦・大宮戦を含め、それ以降のリーグ戦、最終節までの6試合において、疲労は間違いなく蓄積されている状況であったにも関わらず、最後まで走り負けないスプリント力やその回数、攻撃のアクション頻度が増えた事実は、手応えを感じられる要素の1つだったと思います。加えて素走りのフィジカルトレーニングを減らす事によってケガ人が減るということも、僕がこのトレーニングを導入するにあたりいろんなことを教えていただいた土屋潤二さん(S.C.相模原フィジカルコーチ)から聞いていましたが、それも実感しましたね。佐藤晃大や倉田秋、岩下敬輔など長期離脱になってしまった選手以外は、明らかに筋肉系のケガをする選手が減りましたから。もちろん、これもトレーニングだけが理由ではなく、監督以下、コーチやメディカルスタッフの理解のもと、違和感を感じている選手は早めに外したり…というようなことをチームとして徹底してきたからでもありますが、このことは僕自身にとっても嬉しい驚きでした。」
そうした手応えを感じられたシーズンになったからこそ、G大阪は来季も引き続き、このフィジカルトレーニングを続けて行く方針だ。といっても「初めて取り組んだ中で感じた感じた課題や改善点は、しっかり活かします」と吉道フィジカルコーチ。加えて、今季は手探りでやってきたこともそのデータをベースとして、来季はより精度を高めることを目指すと言う。もちろん、ただ単にフィジカル強化を図るためではなく、全ては長谷川健太監督が目指す『ガンバ大阪の攻撃サッカー』を勝利へと結びつけるために。