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ECBのヘリコプターマネー構想

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

ドイツ財務省は4月9日、欧州中央銀行(ECB)がユーロ圏の消費喚起や物価押し上げを狙って市民に直接資金を配る「ヘリコプターマネー」政策を行う場合には法的措置を検討するとの独シュピーゲル誌の報道を否定した(ロイター)。

ヘリコプターマネーとは、ヘリコプターから市中に現金をばらまくように、政府や中央銀行が国民に現金を直接供給する政策のことである。 米経済学者のミルトン・フリードマンが著書「貨幣の悪戯」で用いた比喩であり、社会の貨幣総額を増やしたらどうなるかという思考実験のようなものであった。

それから30年の時を経て、ベン・バーナンキ教授(のちのFRB議長)が日本の需要低迷と物価下落への対策としてヘリコプターマネーを提案したことで有名となった。この政策がどうしてECBに絡んできたのであろうか。

発端はECBのドラギ総裁の3月10日の会見にあった。記者からの質問のなかにヘリコプターマネーに関するものがあり、それに対してドラギ総裁は検討はしていないが、非常に興味深い手法とする発言があったためである。

ドラギ総裁はヘリコプターマネーに対して、即座に否定はしなかった。このため、ドラギ総裁の追加緩和の隠し球として、ヘリコプターマネーがあるのではとの思惑が生まれたものと思われる。

これに対してECBのコンスタンシオ副総裁とプラート専務理事は、ヘリコプターマネー構想は議論していないと明確に否定したが、ドラギ発言に怒りを覚えたのがドイツのようである。

これが週刊誌シュピーゲルの財務省の匿名筋の話として、「ECBが市民に直接資金を配る場合、ドイツ政府はECBの責務の限界を法的に明確にするため、裁判所に訴えることを検討する方針だ」との記事に繋がる。

そもそも前提となるヘリコプターマネー構想はあくまで一部の観測に過ぎず、そのような検討がすぐにされることは考えづらいが、それだけドイツ側の反発が大きかったと言えよう。 そもそもヘリコプターマネーは、量的緩和よりももっと明確な形で行われる中央銀行に拠る直接的な財政ファイナンスである。従ってその導入は、国債や中央銀行、さらに政府の信認を失墜させる要因ともなりうるだろう。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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