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短水路で得た自信を長水路へつなげ 内田美希が女子自由形の道を切り開く

田坂友暁スポーツライター・エディター

12月、カタール・ドーハでの世界短水路選手権。泳げば泳いだ分だけ記録が伸びていき、最終的には100m自由形で51秒83にまで到達。2014年の短水路による世界ランキングも5位までジャンプアップ。レース後に取材を受ける内田美希(東洋大学)の表情も、レースの度に明るくなっていく。100m自由形の日本記録保持者である上田春佳のあとを継ぐ、女子自由形短距離のエースとしてようやくその潜在能力を開花させ始めた。

身体の変化と泳ぎの変化

「陸上トレーニングはほとんどしていません。練習前の腹筋背筋くらいです」

身長173cmの日本人としては大柄な選手ながら、線の細さが目立っていたロンドン五輪選考会。100m自由形で3位に入り、代表権を手にしたあとのインタビューで、内田はこう答えていた。

東洋大学に入学してから環境が変わり、ウエイトトレーニングにも取り組むようになった。少しずつ、肩周りや腕、脚に筋肉がついてきて、パワーが上がっていることは目に見えて分かっていた。しかし、それを泳ぎに生かすことができない。

泳ぎに高校時代のときと大きな変化がなかったことが原因なのかもしれない。身体が変われば、キャッチやフィニッシュ、キックとのタイミングなどの細かなタイミングにズレが生じてくる。そのズレに対応できていない印象が強かった。

しかし、それは時期がくれば確実に解消される問題でもあった。内田にとっては、2014年9月、日本学生選手権での50m自由形だった。

13年ぶりとなる、50m自由形で25秒02の日本新記録を樹立。内田本人も、スタートから泳ぎもバッチリだったと納得のレース。ただ、24秒台まであと0.03秒だったことには悔しがっていたが、このあたりから内田は自分の泳ぎに自信を持ち始めていた。

その3カ月後のドーハ世界短水路選手権、たまりにたまった鬱憤を晴らすかのように、100m自由形で短水路日本新記録を連発。2013年時点では、53秒54(高校3年生時のJOCジュニアオリンピックカップ春季大会)だった記録を一気に51秒83まで縮めた。

「だんだんスピードが出てきてたし、泳ぎも安定してきた。この大会を良いステップにして、長水路で良い記録を出したい」

4×200mリレーでも、第1泳者で1分54秒60の自己ベストを更新。内田本人は50m、100mを中心に頑張りたい、と常に話していたのだが、この世界短水路選手権の結果を受けて、200mも「やらなければならない」と前向きに捉えられるようになった。自分に自信がつくと、ここまで選手が変われるのか、と驚かされるほどの成長ぶりだった。

目標の53秒だけでなく、その先まで視野に入れておきたい

内田は2014年シーズンが始まったとき、今年は53秒台での日本記録、2015年は53秒台を安定して出せるようにして、2016年には52秒台で泳ぎたい、と目標を掲げていた。惜しくも2014年シーズンでの53秒台は達成できなかったが、今回の日本選手権では大いに期待できる。世界短水路選手権後、内田はこう話している。

「短水路の記録からだいたい1秒落ちくらいが、いつも長水路のベストになっている」

レベルが上がれば上がるほど、そう簡単には計算できないとはいえ、53秒台ではなく、53秒前半から52秒台が出る可能性も捨てきれない。

現在の自己ベスト、54秒28を出したときの50mのラップタイムが26秒13。53秒台を出すには、前半50mのラップタイムは25秒台が必須。25秒7〜8あたりで入ると、53秒台が一気に射程圏内に入ることだろう。

2014年シーズン、世界ランキングで言えばケイト・キャンベル(オーストラリア)が52秒62で1位。決勝進出ラインである8位は53秒51となっている。カザン世界水泳選手権ではもう少しレベルが上がると考えると、決勝ラインは53秒1〜3あたりと予測できる。

内田自身の短水路から導き出す長水路のタイムの予想通りであれば、カザン世界水泳選手権での決勝進出のチャンスは十分にある。そのためにもまず、日本選手権の100mで53秒台、そして50m自由形では24秒台に突入しておきたいところ。

まずは4日目の50m自由形決勝、そして最終日の100m自由形決勝での内田の泳ぎに注目しよう。

スポーツライター・エディター

1980年、兵庫県生まれ。バタフライの選手として全国大会で数々の入賞、優勝を経験し、現役最高成績は日本ランキング4位、世界ランキング47位。この経験を生かして『月刊SWIM』編集部に所属し、多くの特集や連載記事、大会リポート、インタビュー記事、ハウツーDVDの作成などを手がける。2013年からフリーランスのエディター・ライターとして活動を開始。水泳の知識とアスリート経験を生かして、水泳を中心に健康や栄養などの身体をテーマに、幅広く取材・執筆を行っている。

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