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中国、絶体絶命か?――米議会までが中国に北への圧力強化を要求

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
中国を追い込めるのか、トランプ大統領(写真:ロイター/アフロ)

米中首脳会談を前に「中国が協力しないならアメリカ単独で行動する」とトランプ大統領。ヘイリー米国連大使も「北は中国の言うことを聞くはずだ」と。米下院までが北朝鮮に対する中国の圧力強化要求を決議。中国は?

◆北は中国の言うことを聞かない!

まず回答が見えやすいことから先に考察しよう。

4月3日、アメリカのヘイリー国連大使(トランプ政権の閣僚級高官)は、3月30日に共同通信などの取材に応じたときと同様、「トランプ政権は北朝鮮問題を巡り中国に行動するよう圧力をかけるだろう」と述べただけでなく、さらに「北朝鮮は中国の言うことを聞くはずだ」と述べたという。トランプ大統領の「もし中国がアメリカに協力しないなら、アメリカ単独で北朝鮮問題を解決しよう」という言葉とともに、CNNなど多くの内外メディアが伝えた。

しかし、「北朝鮮が中国の言うことを聞くはずだ」というアメリカ側の分析は、やや期待過剰ではないだろうか。

もし北が中国の言うことを聞いているなら、中朝首脳会談はとっくに行なわれているはずだ。中国の言葉を借りれば、「あの若造が、どうしても中国の言うことを聞かない」からこそ、習近平政権誕生以来、中朝会談が行われていないのである。中朝双方に新しい政権が誕生したというのに、この状況下で中朝首脳会談が行われていないというのは、中華人民共和国建国以来、初めてのことだ。このような前代未聞のことが起きているほど、中朝の仲はよくない。六者会談のテーブルに着こうとせず、核やミサイルで挑発を続ける北を、中国ははらわた煮えくり返るほど苦々しく思い、許せないと思っている。

それでも中国としては、北朝鮮という「緩衝地帯」を失うわけにはいかない。中国はその激しいジレンマに追い込まれているというのが実情だ。

それなら、「緩衝地帯を、さっさと放棄すればいいではないか」と第三者的には思うが、中国にとって、ここは譲れない線だろう。

念のため、ヘイリー米国連大使の言葉に関して中国政府関係者に聞いてみた。すると予想した通りの言葉が戻ってきた。

――あの若造が、中国の言うことなど聞くはずがないだろう!聞くんだったら、とっくに中朝首脳会談を行ってるよ!こんな異常事態が起きていることこそが、「北が中国の言うことなど聞きはしない」、何よりの証拠だ!

◆中国が協力しないならアメリカが単独で行動する

それならトランプ大統領が「中国が協力しないなら、アメリカが単独で行動する」と言ったことに対して、中国はどう考えているのか。

4月4日現在で、中国政府の正式見解はまだ出されていない。一つには、いま中国は清明節で4月2日から4日までが連休のせいもあり、5日になれば中国外交部あたりが何かしらの声明を出すかもしれないが、ともかくこれに関して中国政府関係者を個人的に単独取材してみた。

彼はあくまでも個人の見解だとして、以下のように回答した(以下、Qは遠藤、Aは中国政府関係者である)。

Q:トランプが、「もし中国が解決しようとしないのなら、アメリカが単独でやる」と言ったが、どう思うか?

A:中国は対話で解決しようとしているが、アメリカが戦争を仕掛けているだけだ。

Q:トランプが言った「それならアメリカが単独で行動する」というのは「アメリカが単独で武力攻撃をする」という意味だ。アメリカが本当に北朝鮮を武力攻撃した場合、中国はどうするか?

A:トランプは「一つの中国」を否定する発言をしたかと思ったら、すぐに取り消した。彼の言うことは当てにならない。どうせ、言葉だけだ。威嚇に過ぎない。

Q:それでも万一、本当にアメリカが戦争を始めたら、中国はどう出るか?

A:その場合は中露が連携する。アメリカがTHAADを韓国に配備したことによって事態が変わった。中露軍を近づけた。先月末、中露両軍はジュネーブで軍縮会議が開かれたときに共同でブリーフィングを発表した。

Q:ということは北朝鮮側に付くということになるのか?

A:結果的に、そういうことになる。THAADを配備したことで、アメリカはすでに中露に宣戦布告したも同然だ。レーダーで中国だけでなくロシアの軍事配備も丸見えとなる。従って、アメリカがさらに一歩武力的行動を進めれば、第二の朝鮮戦争になるだろう。それは第三次世界大戦を招く可能性だって否定できない。それ以前に、そもそもアメリカは国防費増強の予算案さえ通っていないではないか!トランプはアメリカファーストで当選したのに、又もや戦争を始めるとなると、アメリカ国民が賛同しないだろう。国連の安保理常任理事会に諮れば、中露が確実に反対する。もっとも、韓国がどう出るか(アメリカに賛同するか否か)は、新しい大統領が当選してみないと分からない、という要素だってある。

Q:中国がもっと北への経済制裁を強化すれば、北は核やミサイルの開発をできなくなるのではないか?

A:中国はすでに十分にやっている。もし食糧危機にまで追い込んだら北は自暴自棄になる。北の核開発基地は中国と160キロしか離れていない。中国が受ける被害がどれだけ大きいか、考えれば分かることだ。

Q:しかし、このままいけば北朝鮮の思うままになってしまうのではないのか?

A:北はアメリカに振り向いてほしいのだから、アメリカが対話のテーブルに戻るべきだ。それに、中国人民解放軍の北部戦区の軍隊は北朝鮮国境に集中している。北朝鮮の思うようにはさせない。

Q:ロケット軍もか?

A:そうだ。

Q:北朝鮮と戦うつもりなのか?

A:そんな詳細など、言えるはずがないだろう。ともかく北朝鮮は脅威を感じているはずだ。

Q:ところで、もし米中首脳会談の最中に北がミサイルを発射したら、中国はどう対応するか?

A:強烈な抗議声明を出すだろう。それ以上のことは、今はなんとも言えない。

◆米下院決議が米中首脳会談に与える影響

米下院の外交委員会は3月29日、北朝鮮への圧力強化に向けて、北朝鮮のテロ支援国家再指定を求める超党派の法案と大陸間弾道ミサイル(ICBM)開発を非難する決議などを可決している。さらに4月3日、米下院は本会議で、「中国に北朝鮮への圧力強化を求める決議」を採択した。これは4月6日から始まる米中首脳会談に際して、中国側をけん制することを目的としたものであることは明らかだ。

トランプ大統領の「いざとなったら、アメリカ単独で」発言に関しては「また、例のトランプ砲だ」と高をくくることはできても、米議会の決議となれば、いくら中国でも無視することはできまい。

たとえトランプ大統領が習近平国家主席をフロリダの別荘でもてなしたとしても、「安倍・トランプ」会談のようにはいかないだろうことは明らかだ。

中国がどんなに威勢のいいことを言っていたとしても、中国が退路のない、絶体絶命の崖っぷちに追い込まれているのを否定することはできないのではないだろうか。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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