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飲み過ぎた翌日、下痢する理由 医師の視点

中山祐次郎外科医師・医学博士・作家
これからはビヤガーデンが気持ち良い季節ですね(写真:アフロ)

お酒は人と人との潤滑油として何千年も前から親しまれてきました。一説では、「人類最初の飲酒については,紀元前7千年前の中国とされている」(引用は下記)とも。

しかし、お酒をたくさん飲みすぎて翌日に二日酔いや下痢になってしまったことがある人は多いと思います。なぜたくさんお酒を飲むと下痢になるのか、医学的に考えました。

その原因は3つ考えられます。

1、アルコール自体が下痢の原因

2、お酒という水分を多く飲むこと

3、おつまみ、シメのラーメンなど

1、アルコール自体が下痢の原因

一つ目は、「アルコール自体が下痢の原因」となっている可能性です。アルコールは胃と小腸で吸収されますが、吸収の手助けをする「酵素」と呼ばれるものを邪魔します。そのせいで水分や栄養分の吸収ができず、あまり消化できていない食べ物が大量に大腸に流れ込みます。しかもアルコールは大腸の動きを活発にするので、通常大腸で吸収される水分が吸収されずにゴール(肛門)に達してしまうことになります。すると、いつもより水分の多い便、つまり下痢となるわけです。

2、お酒という水分を多く飲むこと

それに加え、「お酒という水分を多く飲むこと」も原因の一つでしょう。私たちが飲み会などでお酒を飲んでいる時は、普段考えられないほどの水分を口から取っています。通常食事1回で500mlのペットボトル1本くらい飲めば多い方でしょう。しかし大量飲酒時は、実に3-4倍も飲んでいることがあります。

例えばビール中ジョッキ2杯、小さめのハイボール2杯を飲めば、1500mlほどを飲んでいる計算になります。これで3倍ですね。アルコールは小腸で吸収され、「その割合は約90%である」(引用)と言われていますが、これだけの水分量は、胃や小腸で十分に吸収するのが困難です。吸収され切らない水分は小腸から大腸に流れるでしょう。

さらに水分の吸収を難しくさせるのが、短時間で大量の水分が押し寄せてくるという事実です。お酒を飲むと中枢神経、つまり脳みそがぼんやりしてブレーキが効きにくくなりますから、いつもなら飲めないようなスピードで飲んでしまいます。このスピードも下痢の原因の一つである可能性があります。

そして飲んだ後には酔いを醒まそうと水やお茶を多く飲む人も多いですね。これも下痢の原因となり得ます。

3、おつまみ、シメのラーメンなど

さらに下痢の原因として考えられるのは、お酒そのものではなく飲酒時につまむおつまみや飲んだ後に食べるシメのラーメンなどが挙げられます。お酒のおつまみは通常、お酒が進むように油っこいものや塩辛いものなどが多いですね。これらを普段食べない量食べてしまうと、下痢の原因になり得ます。

そして飲んだ後に深夜食べてしまう「シメ」のもの。地域により食べるものは違い、シメにステーキを食べたりカレーを食べたり。一番多いのはラーメンを食べるところでしょうか。この「シメ」も味の濃いものが多く、また深夜にかなり多い量を食べることから下痢の原因になるでしょう。

気をつけたいこと

つまりたくさんお酒を飲んだ時に下痢をするのはある程度仕方がありません。そして1日くらいですぐに治りますから、それほど心配はいらないでしょう。

しかし、一点気をつけていただきたいこと。それは、「飲酒による下痢だと思っていたら別の原因で下痢だった」という可能性です。

感染性腸炎などで下痢を起こしていることがあり、そういった場合にはすぐに治りません。冬場はノロウイルス感染の危険も高まります。あまりひどい下痢が数日続く場合はお酒だけが原因ではないことがあるのです。

以上、お酒と下痢の関係についてまとめました。

お酒を大量に飲む限りは、下痢を完全に避けるのは難しいのです。せめてシメのラーメンくらい、やめておきたいものですね。

※本記事の内容は筆者の仮説であり、科学的なデータに基づいた強い根拠のあるものではありません。

また、エタノール摂取(=飲酒)と下痢の発症の関連について直接研究した医学論文は、医学中央雑誌・Pubmedで検索した範囲ではありませんでした。理由として、アルコール摂取による下痢はそれほど病的な状態ではなく多くは飲酒を控えることで自然に治るため、真面目に研究する意味がないことが考えられます。

(引用)【飲酒運転対策プロジェクト】 アルコールの基礎知識(解説/特集) 松本 博志(札幌医科大学 医学部法医学講座) 日本アルコール・薬物医学会雑誌 (1341-8963)46巻1号 Page146-156(2011.02)

外科医師・医学博士・作家

外科医・作家。湘南医療大学保健医療学部臨床教授。公衆衛生学修士、医学博士。1980年生。聖光学院中・高卒後2浪を経て、鹿児島大学医学部卒。都立駒込病院で研修後、大腸外科医師として計10年勤務。2017年2月から福島県高野病院院長、総合南東北病院外科医長、2021年10月から神奈川県茅ヶ崎市の湘南東部総合病院で手術の日々を送る。資格は消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医(大腸)、外科専門医など。モットーは「いつ死んでも後悔するように生きる」。著書は「医者の本音」、小説「泣くな研修医」シリーズなど。Yahoo!ニュース個人では計4回のMost Valuable Article賞を受賞。

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