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リンジー・ローハン、20年ぶりに「ミーン・ガールズ」に出演。キャリアのピークだったあの頃のこと

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
今週金曜日北米公開の「Mean Girls(原題)」のプレミアに出席したローハン(写真:REX/アフロ)

 インスタグラムもTikTokもなかった20年前。パパラッチは今以上に、ロサンゼルスやニューヨークの街中でセレブリティを追いかけ回していた。

 そのまっただなかにいたのが、当時17歳だったリンジー・ローハンだ。ひとりふた役を演じた「ファミリー・ゲーム/双子の天使」(1998)で子役デビューし、「フォーチューン・クッキー」(2003)でも注目されたローハンがナンバーワンの若手売れっ子スターの地位を確立したのは、「ミーン・ガールズ」(2004)。「Saturday Night Live」でお馴染みのコメディエンヌ、ティナ・フェイが脚本を書いたこのハイスクール映画で、ローハンは、動物学者の親のもと、アフリカで育てられてきたティーンエイジャー、ケイディを演じた。初めてアメリカの高校に通うことになったケイディは、意外にも、学校で最も幅をきかせた女子グループの仲間に入れてもらえることになる。しかし、その女子たちは、タイトルにあるように意地悪(mean)で、純朴だったケイディも、次第に影響を受けていくことになるのだった。

 1,800万ドルの予算で製作されたこの映画は、全世界で1億3,000万ドルのスマッシュヒットに。ポップカルチャー現象ともなった今作への評価は高く、トップ映画批評家のロジャー・エバートも、「ティーンについての映画はくだらないものが多いが、『ミーン・ガールズ』はウィットに富んでいてファニーだ」と高く評価した。

2004年、「ミーン・ガールズ」のニューヨークプレミアにて
2004年、「ミーン・ガールズ」のニューヨークプレミアにて写真:ロイター/アフロ

 その14年後には、舞台ミュージカル版がブロードウェイで上演を開始。そして今度はその舞台版が映画化され、ミュージカル映画として、今週金曜日、再びアメリカのビッグスクリーンに戻ってくることになった。その新作映画「Mean Girls(原題)」に、今や37歳になったローハンがカメオ出演しているのだ。

 ローハンが登場するのは、映画の最後のほう。役柄は、主人公ケイディもチームの一員として参加する学力コンテストの司会者。カメオとは言え、出演シーンも、せりふもかなりある。この新しいバージョンの主演に抜擢されたのは、「スパイダーマン」新三部作でベティ・ブラントを演じた23歳のオーストラリア人女優アンガーリー・ライス。20年前に自分を大ブレイクさせたケイディ役を別の若い女優が演じる様子を、ローハンは目の前で目撃することになったわけだ。

 ローハンにとって、それはきっと、良い意味で感慨深かったのではないだろうか。そう想像するのは、今の彼女は、結婚し、子供も生まれ、幸せな毎日を送っているようだからだ。しかし、ここに至るまで、彼女には、本当にさまざまなことがあった。

新バージョンではアンガーリー・ライス(中央)がケイディを演じる(Jojo Whilden/2023 Paramount Pictures)
新バージョンではアンガーリー・ライス(中央)がケイディを演じる(Jojo Whilden/2023 Paramount Pictures)

「ミーン・ガールズ」の大ヒットの後、ローハンは、アメリカで誰よりも注目される存在となる。若い女の子たちのアイドルとしてもてはやされる彼女が何かを買い、身につけると、同じものはすぐに飛ぶように売れ、トレンドセッターとしての立ち位置も得た。だが、年齢に見合わないお金と名声を持つ彼女は、ナイトクラブに入りびたるようにもなる。遊び仲間は、同じように若くてお金があるパリス・ヒルトン、ブリトニー・スピアーズ、ニコール・リッチー、ミーシャ・バートンら。彼女らの間での仲違いや、誰がどの男性とくっついたか、別れたかなどといったニュースは、ゴシップメディアを駆け巡った。

 そんなある時、短期の入院をすることになったローハンは、見舞いに来た業界関係者に体重が落ちたことを褒められ、退院後もダイエットをして激痩せをする。すると今度は「過激なダイエット」だと、世間から批判を受けることになってしまった。後にローハンは当時摂食障害に陥ったことを認めているが、そうでなくても若い女性はルックスに自意識過剰になるものなのに、なんと残酷な状況だったことか。

 少しずつ下り坂が始まるのは、その後だ。人気の絶頂期に公開された次の主演作「ハービー/機械じかけのキューピッド」(2005)は、思いのほか振るわない結果に。公開初週末は北米4位デビューで、最終的な成績も、5,000万ドルの製作費に対し北米興収6,600万ドルだった。これが一度の空振りだったら良かったのだが、翌年の主演映画「ラッキー・ガール」(2006/日本劇場未公開)もまた、製作予算2,800万ドルに対し、北米興収は1,700万ドルと、またもや冴えない数字に終わる。しかもこの映画でローハンは、最悪の映画、演技に送られるラジー賞に候補入りする不名誉も得てしまった。

「ハービー/機械じかけのキューピッド」ロサンゼルスプレミアでファンに囲まれるローハン
「ハービー/機械じかけのキューピッド」ロサンゼルスプレミアでファンに囲まれるローハン写真:ロイター/アフロ

 それよりももっと大きなダメージを与えたのは、彼女自身の行動だ。相変わらず夜遊びに夢中のローハンは、ジェーン・フォンダ、フェリシティ・ハフマンらと共演するゲイリー・マーシャル監督の「幸せのルールはママが教えてくれた」(2007/日本劇場未公開)の現場でしょっちゅうトラブルを起こしたのだ。撮影現場に遅れてやってきたり、無断欠勤をしたりしたローハンは、体調を崩したと言い訳したが、プロデューサーが書いた「夜遊びのせいだとわかっている」と責める怒りの手紙がリーク。プロ意識に欠ける仕事ぶりは、業界中に知られることになった。

 それだけでなく、ローハンは、何度も警察沙汰を起こすようになるのである。アルコールまたは薬物の影響を受けた状態で車を運転しては逮捕され、依存症更生施設に入るも出てくるとすぐにまた同じ間違いを起こした。それからの彼女は、保護観察処分下のルールを破って延長させられたり、短期間とはいえ刑務所に入れられたりの連続。2011年にはジュエリー店で商品を万引きし、120日間の実刑判決を受けることになった(刑務所が混み合っていたおかげで、自宅監禁で済んだ)。

 そんな彼女は撮影で必要とされる保険をかけるのも難しい女優となってしまい、キャリアはすっかり低迷。それでも、イギリスで舞台劇に出たり、時々テレビドラマにゲスト出演をしたり、海外にナイトクラブをオープンしたり、それをネタにしたリアリティ番組を作ったりなど、できる範囲で活動を続けてきた。しかし、初めて警察に逮捕されてから15年目となる2022年、Netflixが配信する「フォーリング・フォー・クリスマス」で、ついに主演女優として映画に復帰を果たしたのである。

「フォーリング・フォー・クリスマス」はクリスマスを舞台にしたロマンチックコメディ(Scott Everett White/Netflix)
「フォーリング・フォー・クリスマス」はクリスマスを舞台にしたロマンチックコメディ(Scott Everett White/Netflix)

 タイトルが示す通り、映画は、クリスマスを舞台にしたロマンチックコメディ。ホテル王の娘がスキーの事故で記憶喪失になり、一般人のシングルファーザーに助けられて恋に落ちるという、どこからどう見ても傑作とは呼べない、ありきたりの話だ。今どきよく恥ずかしげもなくこんなものを作れるものだと逆に感心したくもなるが、今年は同じ監督ジャニーン・ダミアンと再び組んだ別のロマンチックコメディ「Irish Wish(原題)」がNetflixで配信になるというし、ローハンは現場でプロらしい仕事ぶりを見せたということだろう。

 それはつまり彼女が成長したということで、それだけでも十分祝福すべきだ。とは言っても、かつての彼女の活躍ぶりや、持って生まれた才能の豊かさを知っているだけに、それを十分に発揮する姿を見たいという気持ちは否めない。「Mean Girls」は、マーティン・ルーサー・キング・Jr.の祝日で3連休となるこの週末、アメリカで首位を獲得すると見られているが、カメオ出演の彼女がやれることは限られている。

 しかし、このヒットをきっかけに、ローハンが以前から意欲を見せている「フォーチューン・クッキー」続編への期待がなおさら膨らむことになるのではないか。ジェイミー・リー・カーティスも戻ってくるというこの続編は、脚本家と俳優のストライキのせいで遅れを取り、2025年の公開が予想されている。

 その年の7月より前の公開ならローハンは38歳、7月以降なら39歳。新たなキャリアを築くには十分の若さだ。さまざまなことを乗り越えたかつての若手女優が、いよいよ本格的演技派として実力を発揮する時は、まもなく来るのだろうか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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