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原因不明の腹痛や手足の腫れに注意!遺伝性血管浮腫の見分け方

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

遺伝性血管浮腫(HAE)は、C1インヒビター(C1-INH)の濃度や機能が低下することで発症する稀な遺伝性疾患です。患者さんは皮膚の腫れや激しい腹痛などの症状に長年苦しむことが多いのですが、HAEの認知度が低いため診断までに時間がかかるケースが少なくありません。

【HAEの多様な症状と診断の難しさ】

HAEの主な症状は、皮膚や粘膜下組織の腫れ、そして激しい腹痛です。皮膚の腫れは顔面、手足、性器などに現れ、腹痛は嘔吐や下痢を伴うこともあります。さらに、喉の腫れによって窒息のリスクも。これらの症状は数日続くことが多いのですが、蕁麻疹を伴わないため、アレルギー性の血管浮腫と見分けるのが難しいのです。

HAEは他の一般的な病気に似た症状を示すため、虫刺されやアレルギー、乳糖不耐症、精神疾患などと誤診されがちです。実際、診断までの期間は平均で約15年にもおよびます。原因不明の皮膚の腫れや腹痛が繰り返し起こる場合は、HAEの可能性を疑ってみる必要がありそうです。

【HAEの診断と治療の重要性】

HAEの確定診断には、C1-INHの濃度と機能、そしてC4の血液検査が必要です。早期発見によって危険な喉の腫れを未然に防げるだけでなく、不要な手術を避けることができます。診断後は、C1-INHの補充療法や遺伝子組換えC1-INHなどの治療によって症状をコントロールできるようになります。最近では、12歳以上の青少年にも使える予防薬も登場しており、患者のQOL改善に役立っています。

【様々な診療科でのHAEの見落とし】

HAEの症状は非常に多岐にわたるため、皮膚科、消化器科、耳鼻咽喉科など様々な診療科を受診することになります。しかし、いずれの診療科でもHAEの認知度は高くなく、見落とされているのが現状です。救急外来でも、腹痛の原因がHAEだと気づかれず、虫垂炎や胃腸炎と診断されるケースが多くみられます。医療者側のHAEに対する理解を深め、診療科間の連携を図ることが肝要だと言えるでしょう。

HAEの症状は多様で診断が難しい一方、早期発見と適切な治療が患者のQOLを大きく左右します。我々医療従事者は、原因不明の皮膚トラブルや腹痛などを訴える患者さんに接した際は、HAEの可能性も視野に入れておく必要があるでしょう。HAEに対する社会の理解がさらに深まり、スムーズな診断と治療が行われる日が来ることを願っています。

参考文献:

Maurer M. et al., The international WAO/EAACI guideline for the management of hereditary angioedema - the 2021 revision and update. Allergy. 2022;77(7):1961-1990.

Clin Transl Allergy. 2023 Sep;13(9):e12297. doi: 10.1002/clt2.12297.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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