ALCS第1戦先発のヤンキース田中将大、好投も敗戦の要因は速球の多用?
ア・リーグ・チャンピオンシップシリーズ(ALCS)第1戦に先発したヤンキースの田中将大は6回89球を投げて4安打失点と好投したが、チームは2対1でアストロズに敗れた。勝敗よりも先発投手としての責任回数をこなすことが重視される長丁場の公式戦とは異なり、ポストシーズンではとにかく「勝つ」ことが求められる。その意味では、田中としても悔しい結果となった。
今回の田中の投球をじっくり見て「おや?」と思ったことがある。それは、速球(この場合はフォーシーム・ファストボールとツーシームの合計)を比較的多用していたことだ。
一世一代の好投で(オーバーか?)評価をぐんと上げた現地10月8日のア・リーグ地区シリーズ(ALDS)第3戦での登板後、セイバー系サイトの『ファングラフズ』に興味深い記事が掲載された。“Masahiro Tanaka might one day kill the fastball”(田中将大はいつの日か速球を封印してしまうかもしれない)というタイトルが示す通り、2014年のメジャーデビュー以降、田中の全投球に占める速球比率が徐々に低くなり、ALDS第3戦では彼が投じた92球中わずか15球に過ぎなかったと報じていた(その値は16.3%、メジャー平均では50%を超える)。ちなみに速球の内訳は、フォーシームが13球にツーシームが2球だった。その分スライダー(31球)とスプリッター(36球)を多用していた。この日の投球はテレビでしっかり観戦したが、制球の良さ、特にしっかり低めにタマを集めていたことに感銘を受けていたので、そこまで速球比率が低いことはこの記事を読むまでうかつにして気付かなかった(ちなみに、記事中に引用された球種の判別は『ブルックス・ベースボール』というサイトの分析に基づいており、田中の認識とは必ずしも一致していない可能性はある。また同サイトではツーシームではなく、シンカーという表現を用いている)。
速球比率が下がっていることは理解できる。田中は球種のレパートリーが豊富だが、その中でメジャー全体のレベルと比べもっとも相手打者にとって脅威ではないのが速球だからだ。
前置きが長くなった。本論に入ろう。冒頭記したように、現地13日のALCS第1戦ではその速球比率が高かった。89球中フォーシーム・ファストボールが26球でツーシームが13球で計39球。その構成比は43.8%。特に初球フォーシームで入るケースが多かった。4回の2失点に繋がった3本の安打は、スライダー(ホゼ・アルトゥーベ)、スライダー(カルロス・コレア)、ツーシームファストボール(ユリ・グリエル)と必ずしも速球を狙い打たれた訳ではないが、そこに至るプロセスも含めると速球中心の組み立てであったことは確かだ。
実は強打のアストロズ打線は「速球に強い」ことでも知られている。彼らの対速球の打率 / 出塁率 / 長打率(スラッシュラインという)は.301/ .373 / .525でメジャートップなのだ。常識的には、このデータと、前回登板で限りなく速球を封印して絶妙の投球を見せていることを考慮すると、ALCS第1戦でももっと速球を少なくしても良かったかもしれない。
ひょっとすると、この日田中が速球(とくにフォーシーム)を多用した背景には、1.2回で4本塁打を浴びて8失点とメッタ打ちに遭った5月14日の対戦(今季唯一のアストロズ戦登板だった)の記憶があったのかもしれない。この日は、61球中フォーシーム・ファストボールは1級しか投げていなかった(ツーシームは20球だったが)。
ヤンキースは第2戦も落としたが、スィープで敗退ということにならなければ、次回田中は第5戦で先発するはずだ。どんな組み立てでアストロズ打線に挑むか見ものだ。