米国が世界最大の産油国になる日
米政府は1月27日、バージニア州からジョージア州にまたがる大西洋海域において、石油や天然ガスの採掘を解禁することを提案した。同計画では、2017年から2022年まで5年間をかけて掘削調査を行い、本格的なエネルギー資源開発が可能か否かを探ることになる。
この海域は、北米最大の油田であるカナダのハイバーニア油田とメキシコ深海油田の中間地点に位置していることもあり、従来から原油・天然ガスの有望な埋蔵地域と見られていた。このため、2000年代の原油相場急騰時にはバージニア州などで試掘に向けて採掘権の入札なども実施され、本格開発への準備は進んでいた。
しかし、2010年にメキシコ湾でBPが過去最悪とも言われる大規模な石油流出事故を起こした結果、技術・安全性の検証などを行うため、オバマ大統領が採掘計画をキャンセルし、その後は約5年にわたって棚上げ状態が続いていた。だが、BPの石油流出事故の処理が一巡し、深海油田開発技術の向上も進む中、改めて大西洋海域の石油・天然ガス開発にゴーサインが出されようとしている。
当然に、環境保護団体などからは反発の声も上がっている。この地域は絶滅が危惧されているセミクジラなどの生息も確認されており、メキシコ湾原油流出事故と同じような環境汚染が発生すると、取り返しのつかないことになる可能性もあるためだ。
このため、今回の計画でも沿岸から50マイル(約80キロメール)は緩衝地帯として開発が見送られるが、これから5年をかけて資源埋蔵の可能性を確かめるのみならず、環境等への影響を検証し、本格開発を進めるか否かを判断することになる。米石油産業はシェールオイルに続いて、新たな革命を起こそうとしている最中である。
(画像出所:BOEM)
【米国における石油・天然ガス開発の検討地域】
■シェールオイル次ぐ供給ショックか?
この地域では1978年から何度か試掘が試みられているが、未だ本格開発は行われていないだけに、実際にメキシコ湾岸に匹敵するような深海油田が存在するのかは不透明である。これまで本格的な開発が見送られてきた背景としても、環境問題の他に、採算の取れる石油埋蔵のはっきりとした証拠が得られなかった影響が指摘されている。
ただ、米連邦海洋エネルギー管理局(BOEM)が近年行った調査では、石油だけでも47.2億バレル(レンジは13.2億~92.3億バレル)の埋蔵量が存在すると推計されており、「第二のメキシコ湾岸」や「第二のシェールオイル」とも言える供給ショックを引き起こす可能性があるイベントである。
原油相場は昨年後半から大きく値位置を切り下げているが、この計画が成功すれば、米国は世界最大の石油消費国でありながら、同時に世界最大の産油国としての地位を確立する可能性も浮上することになる。既に米国の原油輸入量は、日量1,000万バレルだった2010年に対して、足元では700万~800万バレル水準まで減少しているが、更にエネルギーの自給自足体制を進めることが可能になる。ブッシュ政権時代から目指されていた中東の地政学的リスクとは無縁のエネルギー需給構造に近づいている。
米国内で産出される軽質油ではなく重質油を多く必要とする米製油所の構造上、原油輸入量の削減余地は減少し始めている。ただ、東海岸に位置している化学産業などにとっては、低コストの原油を米国内で確保できる大きなチャンスが得られることになる。
しかも、この地域でエネルギー産業の本格展開が始まれば、雇用や周辺産業に対する影響も大きい。米内陸部はシェールオイル関連産業の大きな恩恵を受けているが、大西洋湾岸諸州も「産油国としての米国」の恩恵を受けられる可能性がある。雇用だけでも100万人創出できるといった試算も出ており、米経済は新たな成長エンジンを得られるか否か、これから大西洋海域で大きな勝負が始まることになる。