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みきちゅ、シンガーソングライター兼作家として活躍するコロナ禍以降のネクストステップ

ふくりゅう音楽コンシェルジュ
photo by みきちゅ

シンガーソングライター、音楽作家として完全独立スタイルで活躍するみきちゅが2020年10月21日最新作『みーんな国宝だよEP』を配信リリースした。

シンガーとして“いま歌いたい”曲はもちろん、作家として“いま聴かせたい”楽曲を収録した、表現者みきちゅの“名刺”となるような作品集に仕上がっている。楽曲によって、ディスコサウンドやK-POP風、ボカロ文化圏的なピアノが跳ねるサウンドなど、様々なジャンル感、テーマを横断することでみきちゅのクリエイターとしての自由度の高さが伝わってくる。溢れんばかりの才能がほとばしっているのだ。そんな、みきちゅに話を聞いてみた。

「とにかく今回、いい曲、聴かせたい曲を我慢しないで届けるということを大事にしました。これまでは“みきちゅだからこうしたほうがいい”とか、“みきちゅはこうしないほうがいい”など自分で範囲を決めつけてしまっていた部分があって。そんな枠を取り払いたいっていう気持ちと、去年、テレビ朝日の音楽番組『musicるTV』内の作家企画への参加を経験して、その後、作家として夏から楽曲提供のコンペにも挑戦しはじめた自分がいました。」

シンガーソングライターと音楽作家、主体的な表現とオーダーを受けて生み出す表現。相反するスタイルを経験したことで次なる夢、欲求が生まれてきたという。

「約1年、楽曲コンペを経験して、自分としても普段聴かない音楽に触れる機会があったり“自分は、こんな曲を作れるんだ”、“こんな曲をファンの人にも聴いてほしいな”っていう新たな気持ちが生まれました。それで、作家目線で聴かせたい曲を届けたいという想いが今回のコンセプトになりました。なおかつ自分らしさも失わないでいたいなと。EPを作りはじめるにあたって、まずアッパーな曲をマストで作りたいと思い、ha-jさんというSMAPや嵐などをアレンジされてる大先輩にお声がけしました。でも、全曲に寄せるんじゃなくて、K-POP風だったり、ボカロ文化圏寄りだったり、トレンド感ある曲も作ってみたいなと思ったんです。なんとなく最初から大枠のジャンルのイメージだけあって作りはじめました。」

こうして生まれたみきちゅの最新ワールド。ちなみに彼女は自身の活動を、“シンガーソングライター、音楽作家”と定義している。そんな“肩書”について踏み込んで聞いてみた。

「いまの肩書は、シンガーソングライター兼音楽作家ですね。昔はアイドルシンガーソングライターと名乗っていたこともありました。けっこう夢半ばでアイドルを終わらなくてはいけなかったので、今は作家としてアイドル界に恩返し出来たらと思っています。元アイドルということを隠すこともなく、黒歴史でもなんでもなく、聞かれたら“そうです”っていうような感じで。」

アイドル文化を理解し、そして今もなお愛する彼女。作家としての活動の幅も広がってきた昨今、自らの足跡を振り返る。

「最初は、経歴を隠したほうがいいのかなって思っていたこともありました。たとえば男性のアイドルさんに曲を書かせていただくときに、ファンの方が嫌な気持ちになるんじゃないかとか。なのですが『musicるTV』内の作家企画で、がけっぷち元アイドルとして“アイドルをやっていたから、こんなに盛り上がる曲がかけるんです!”みたいな取り上げ方をしていただけて。“元アイドルの肩書で作家をやっているのは私しかいない?”って“ハッと”気がつきました。」

音楽番組、テレビ朝日『musicる TV』内の作家企画で、新米作家として楽曲提供のチャンスを掴んだみきちゅ。その才能は、先輩ヒット作家、ヒャダインこと前山田健一からもお墨付きだ。こうして誕生した本作『みーんな国宝だよEP』は、コロナ禍の影響で、シンガーソングライターとしてライブ活動を行えなくなったみきちゅが、“一度しかない人生、コロナ収束をただ待つのではなく、コロナの先にある未来を一緒にもっともっと歌で楽しみたい!”を目標に、急遽クラウドファンディング『みんなと!わくわく新CD制作プロジェクト!』を実施して制作した作品だ。

https://camp-fire.jp/projects/view/268101

「今回、独立したてにコロナ禍になったんです(涙)。ディアステージに1月末まで所属していて、その直後に当時貯めていたお金を全部使ってアルバム『ポメラニアン』を2月に自主制作で作ったんですよ。それでお金を使い果たしたなかでワンマンも中止で、リリースイベントも1個も出来なくて。“これは困ったぞ”と、次の作品を作るという発想がないなかで、クラウドファンディングがあることを思い出しました。実は、クラファンは2014年に1度やっていて、CAMPFIREから“コロナ禍で困っているアーティストに手数料割引します”っていうメールが届いたんです。“あ、これを使ったら、またアルバムが作れるのかな”って思い立ちました。」

制作費を先取りできるクラウドファンディングのシステムがあってこそ、未曾有の危機的状況となったコロナ禍であっても、前向きに作品制作に取り組み最新作を世に出せたことをみきちゅは感謝しているという。

「クラファンに参加してくれたみなさんのおかげで『みーんな国宝だよEP』は完成しました。CDを作りたいからクラファンをしたっていうより“もしかしたら、みんなの力があったらCD作れる?”みたいな。逆の発想だったので。クラファンというファンディングの仕組みのおかげで、いま大好きって思える曲を形にできたことが嬉しいし、ありがたい気持ちです。」

クラファン参加者に向けて作られた『みーんな国宝だよEP』のCDアートワークは、以前所属していた事務所ディアステージ所属のデザイナーBOZO氏に依頼したという。テーマは、なんと傘連判状(一揆などで用いられた円環状の署名形式)。さらに、初期ネットカルチャーの特色(Windows95のチープなフォントなど)がユーモラスでまばゆいデザインの元、決意の強さがあらわされている。

『みーんな国宝だよEP』アートワーク photo by みきちゅ
『みーんな国宝だよEP』アートワーク photo by みきちゅ

「しかも、大変ありがたいことに開始3時間で目標金額に届き、最終的には前回開催したクラファンよりも多くの金額が集まったんです。勇気をもらえました。」

ネットカルチャーの浸透、アーティスト活動が多様化するなかでみきちゅが自分自身で資金を集め、作品を作り上げたことは表現者にとって希望の光だ。ある種、海外におけるエージェント方式のビジネススタイルに近いかもしれない。裏付けるかのように、本作はクラウドファンディングによって制作費を得たことから「サブスクリプションシティ」のミュージックビデオは気鋭の映像作家かとうみさとへ依頼、さらに編曲家としてジャニーズ曲など数々のヒット曲を手がけてきたha-jや、『musicる』出身作家である湯原聡史を迎えている。みきちゅがやりたかったこと表現を敬愛するクリエイターを巻き込んで実現させているのだ。

「けっこう手探りなことも多くて、アレンジャーさんやエンジニアさんとか、全部自分でコーディネートして、ミュージックビデオの監督もSNSを通じて声をかけました。」

プロデューサー兼、アーティスト兼、作家という顔を持つみきちゅ。プロデュース論について聞いてみた。

「みきちゅって自分自身のことなんですけど、みきちゃんっていう人間が“歌う女の子”をプロデュースしているみたいな感覚はアイドルをしているときから認識としてあって。いま、公に“作家を頑張りたい”っていうと“じゃあ、自分で歌わなくていいじゃん”と言われてしまうこともあるんです。でも、自分の曲を無料で歌ってくれて、無料でミュージックビデオに出てくれる子なんていないじゃないですか? 作家のコンペに通るのも、狭き門なのでなかなか大変ですし。だからこそ、自分の身体を使わないとみたいな感じなんです。みきちゃんをプロデュースしてるみきちゅかもしれないです。作家活動もコンペだけじゃなく、指名でお仕事をいただけるように名刺となる作品を作り続けたいんですね。このインタビューを読んだ音楽関係者の方が“次の曲をみきちゅに作らせてみるかな”って思ってくれって祈ってます。“K-POPから、夜系ピアノポップ、ディスコまでいけるんで”っていう。」

昨年、テレビ番組『musicるTV』で作家として育成、フックアップされた経験は、表現者みきちゅにとって大きな経験となったようだ。

「すごい大きかったですね。自信になったので、今でも見返します。自分の足りないところを見つめ直せたことが大きくて。私はアイドルの活動をしてきたから“曲を作れるだけですごい”とか“ピアノを弾けるだけですごい”とか、褒められることで多かったんです。でも、それで売れるわけではないので自分を見失なってしまうことがありました。でも『musicるTV』に出演したら、みんな当たり前に“音大卒で音楽理論がわかります”とか、“家にいっぱい何百万の機材あります”とか。ピアノ弾けるし、曲も書けるし、+αの才能を持っている人しかいないっていう状況に打ちのめされて……。」

素の自分と向き合う挫折経験が、自らの経験を振り返ることになり、あらためて自らのオリジナルな経験と才能と向き合い、そして受け入れることになったという。

「結果的に、番組ではメジャーで活躍するVtuber響木アオさんと、男性アイドルグループ祭nine.さんへの楽曲提供を勝ち取ることが出来て、それが自信となりました。祭nine.さんはカップリング曲として決めていただいたのですが、本当は表題を取りたかったので負けた姿が全国に映し出されて親に見られる、地元の人にも見られる、親戚にも見られるみたいな(苦笑)。これまで、挫折を隠してやっていたので、そこから這い上がれた経験が今回の『みーんな国宝だよEP』には活かされていますね。」

そんなみきちゅは、2021年に向けてどんな活動を行なっていくのだろうか。

「とにかく音源をどんどん出していきたいです。今回、いいEPが出来たので、ここで終わりじゃなくて。次はこんな曲を作りたいなって言う欲求が溢れてて。もう次のCDのことを考えています(笑)。そのためにも仲間を集めていきたいです。アレンジャー、エンジニアやイラストを描ける人、映像を作れる人。どんどんチームを作っていきたくって。いろんな人に出会いながら、たくさん楽曲を発表していきたいなと思っています。そして、コロナが落ち着いたときに“はじめまして!”ってライブで会えるように、長く活動を続けられるように種をまき続けていきたいです。」

2020年は、図らずとも怒涛の年となったみきちゅ。満を持して新たな物語が本作『みーんな国宝だよEP』からスタートする。引き続き注目をしていきたい。

<全曲解説:みきちゅによる『みーんな国宝だよEP』セルフライナートーク>

01.「君は国宝レベル☆」

words & music:みきちゅ arrange:ha-j

 この曲で日本を明るくしたい気持ちがあって、時代を照らすアッパーなディスコチューンを狙いました。コロナもあってみんな落ち込んでいたじゃないですか? Yahoo!ニュースのコメント欄でも争っているやりとりを読んで、悲しくなって。“生きているだけでハッピーじゃん!”みたいな気持ちがあったんです。なので、メロディーだけでもオケだけでも楽しい気持ちになれるように曲を作りたくて。歌詞もアッパーな感じに“ただそこにいるだけで 君は国宝レベルだよ”っていう(笑)。悲しい気持ちに寄り添うより、悲しみを吹き飛ばす曲にしようと。タイトルも歌詞も、懐かしくて新しい感じを大事にしました。そうしたら“国宝”って言葉が出てきました(苦笑)。みきちゅっぽいなって。実はタイトルにEPって付いているんですけど、今回インストにもこだわったので全8曲なんです。EPの粋を超えちゃって(苦笑)。だから本当はEPで登録できないんですけど、“Enjoy Pop”の略ですって言いました(笑)。

02.「サブスクリプションシティ」

words:みきちゅ music:みきちゅ、湯原聡史 arrange:湯原聡史

 トレンド感のある“夜系”ピアノロックです。みきちゅらしさをそのままに、わりとゴリ寄せたみたいな感じで。曲は湯原聡史さんと一緒に作りました。初めてお会いした日はまだYOASOBIさんが国民的ソングになっていなかった頃で、“最近こういう曲いいよね”って盛り上がりまして。それで“夜系アーティストって言われたくね?”って、最初、ふざけて「BYAKUYA」ってユニット名とかどうだろうって考えたりもしたんですけど(笑)。それっぽいねって言われることに抵抗がないというか、むしろ大声で“はい、とても好きで私もそのような曲がほしいと思いました!”って言うのが令和だと思ってて。平成だったら隠したがっていたと思うんですよ。でも、作家として挑戦をしてみたかったんです。YOASOBIさんが小説から歌詞を書くと聞いたのですごくいいなと思って。ミュージックビデオの監督、かとうみさとさんとざっくりとしたストーリーを考えて、それから歌詞を起こしていきました。

03.「超最高CULT」

words & music:みきちゅ arrange:Doctor Mas.

 K-POPを作りたくて、音に馴染む歌い方ができるように韓国語が母国語の方に仮歌を歌ってもらいました。それを聴きながらレコーディングして。もともと、K-POPがずっと気になっていて。でも、なんとなく“みきちゅでやっちゃダメだろう”、“EDMはNOTみきちゅ”だと決めつけていたんです。でも、K-POPが大衆向けの音楽になってるのに、やらないのはちょっと時代遅れだなって。うちのお母さんが聴いてたっていうのが大きくて。もう国民的なジャンルなんですよね。最初、K-POPはメロディーが強くないイメージだったんですよ。もともとサビがない曲も多いですし。私は今まで“サビ強”で生きてきたので難しくて。でも、JY.Parkさんが作られる曲って弾き語りしても感動するほどメロディが強いんですよ。TWICEさんの曲とかパッと聴いた時にメロディーよりリズムやグルーヴが印象的だと思っていても、弾き語りにするとメロディーが刺さって。やっぱりメロディーも強くなくちゃいけないんだって思ったら、K-POP風な曲も作りやすくなりました。

04.「推しと人生トリップ」

words & music:みきちゅ arrange:menikichi、みきちゅ

 TikTokなどにいるオタクな女の子を意識した“推しが好きすぎてぴえん!”ソングです。私も編曲に携わっていて、アイドルだったときの私らしさもあり〜の。イメージは令和のCymbalsを目指して作りはじめました。最近、TikTokがすごい大好きで毎日1時間くらい見てるんですよ。私はもともとアイドルが大好きで「アイドルに恋をした」っていう曲を2014年に発表したんです。当時廣田あいかちゃん(元・私立恵比寿中学)が好きすぎるっていう思いで作った曲が、なぜか去年くらいから急にYoutubeで再生回数が伸びはじめて。たぶんアイドルに恋をした女の子たちが、検索してたまたまたどり着いたのがその曲っていう感じで。コメント欄がめっちゃ日記みたいでいいんですよ。推しが好きだけど、推しは私のことなんて知らない……とか。すごいリアルな悩みを書いてくれていて、なんかこの子たちに寄り添う最新の曲を作りたいってなって完成しました。

※各サブスクリプションサービスで配信中!

みきちゅ オフィシャルサイト

photo by みきちゅ
photo by みきちゅ

https://www.mikichu-world.com

音楽コンシェルジュ

happy dragon.LLC 代表 / Yahoo!ニュース、Spotify、fm yokohama、J-WAVE、ビルボードジャパン、ROCKIN’ON JAPANなどで、書いたり喋ったり考えたり。……WEBサービスのスタートアップ、アーティストのプロデュースやプランニングなども。著書『ソーシャルネットワーク革命がみるみるわかる本』(ダイヤモンド社)布袋寅泰、DREAMS COME TRUE、TM NETWORKのツアーパンフ執筆。SMAP公式タブロイド風新聞、『別冊カドカワ 布袋寅泰』、『小室哲哉ぴあ TM編&TK編、globe編』、『氷室京介ぴあ』、『ケツメイシぴあ』など

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