「責任持った発信が大事」と話す中田敦彦がYouTubeでフェイクを流す問題点
「中田敦彦のYouTube大学」
YouTubeを始めとする動画サイトが流行し、様々なジャンルのYouTuberが登場している昨今ですが、中でもオリエンタルラジオの中田敦彦氏による「中田敦彦のYouTube大学」は、2019年に急成長したチャンネルです。現在のチャンネル登録者数は非公表ですが、非公表になる前には登録者数100万人を超えており、多くの視聴者を抱えています。
「大学」の名を冠する通り「学び」を謳ったチャンネルで、中田氏自身の言によれば「YouTube×教育×お笑い」がコンセプト。中田氏も自身を『教育系YouTuber』として、政治や哲学、文学、歴史といった幅広いジャンルを解説する動画を多数配信しています。
ところが、Twitterでは以前から中田氏の動画に誤りが多数ある指摘をたびたび目にしていました。そして先日、戦前の日中関係史についての動画の内容を列挙したツイートと、それに対して神戸大学大学院の木村幹教授が「これはこれまで見たどの答案よりもすごいかも」と呆れた旨をツイートしたのが大きな反響を呼びました。
私も自分が多少なりとも分かる分野ではどう解説されているのか興味が湧き、第2次世界大戦について中田氏が解説している次の動画を見てみたところ、多くの誤りの他に単純な誤りで済まない問題がある内容に驚きました。
フェイクの古典
この動画には誤りが多々あるんですが、キリが無いので大きな問題がある1点だけ言及します。中田氏は第2次大戦でフランス制圧後のドイツの動きを次のように説明しています。
第2次世界大戦でドイツがイギリス攻撃にロシア(ソ連)を誘ったという話は寡聞にして知りません。が、問題はそこから少し後です。
中田氏の解説によれば、イギリス攻撃に誘ったロシア(ソ連)が怪しい動きをしたので、ドイツがロシアを攻めた。これが独ソ戦の開戦経緯と説明しています。ソ連が怪しい動きをしたのでドイツが攻めたと解釈できる言説は、大変に問題があるものです。なぜかと言えば、これは古典的なフェイクだからです。
2019年に注目された新書、大木毅『独ソ戦 絶滅戦争の惨禍』(岩波新書)でも、この言説に触れられています。それによれば「ドイツのソ連侵攻は、スターリンの先制攻撃に対する予防戦争だった」とする説について、「パウル・カレルをはじめとする歴史修正主義者たちのテーゼ」としており、その主張が軍事的に成り立たないことを証明したアメリカの研究を紹介しています。パウル・カレルはナチス政権で外務省報道局長だったパウル・シュミットの筆名で、ナチス関係者に都合の良い、史実を曲げた説を流しており、今風に言うならフェイクと言うべき説です。
3000万人以上の犠牲者を出した戦争の発端について、ナチス関係者によるフェイク言説を「学び」のコンテンツとして配信してしまうのは、大変にマズいと思うのですがどうでしょうか。Twitterでこの問題についてツイートしたところ、「中田は専門家ではなく素人」、「中田は信念を持っているから」など、中田氏を多数擁護する意見が出ました。
しかし、この動画が無視できないのは、その内容だけではなく、中田氏個人の問題にあります。中田氏は自分でやってはいけないと言ったことをやっているのです。
フェイク・バスターズ?
中田氏は2019年12月、NHKの番組『フェイク・バスターズ』に司会として出演し、フェイクニュースに立ち向かう専門家と討論を行うなど、以前からフェイクに対して批判的でフェイクを防ぐための提言をしています。その中田氏が無責任に誤りの多い内容を配信するのはどうなんでしょうか? そして、中田氏はNHKの『クローズアップ現代+』でフェイクニュースを扱った際、動画で次のコメントを寄せています。
つまり、中田氏自身はプロや素人関係なく、ネットは責任を伴う場所であることを「みんな」が認識する必要性を訴えているのです。「素人だから」みたいな話で済ませていないのです。そして、これはTwitterの話ですが、最後にこう結んでいます。
責任を持って発信すること、大事ですよね。『クローズアップ現代+』でのコメントは2019年3月ですが、中田敦彦のYouTube大学の開設は4月とそれよりも後です。他にも動画内で中田氏は「これは都市伝説ですね。信じるか信じないかはあなた次第ですね」(19分35秒付近)と、信じる責任を視聴者に丸投げする姿勢を示しており、NHKでの責任言説と大きく異なる態度です。NHKはYouTube大学開設後にもフェイク絡みで中田氏を番組に出演させており、NHK内でどういった人選がなされたのか気になるところです。
取り上げた動画に限らず、多くの中田氏の動画にはその基本的な事実について誤りが指摘されています。100万人以上のチャンネル登録者数を抱える中田氏にも、まずご自身の言った通りのことを期待したいと思いますが、どうでしょうか。