WHOが緊急事態宣言でも株高の理由
世界保健機構(WHO)は1月30日、中国で発生した新型コロナウイルスによる肺炎について、「国際的に懸念される公衆衛生の緊急事態」と宣言した。22~23日の緊急委員会では、中国以外では感染が抑制されていることを理由に緊急事態宣言の発動を見送っていたが、その後は中国以外でも感染被害が拡大しているため、国際的な協調体制が必要と判断した模様だ。
WHOが緊急事態宣言を出すのは今回が6件目であり、新型コロナウイルスが国際社会にとって大きな脅威に成長していることが確認できる。ただ、金融市場に目を向けると、WHOの緊急事態宣言後に、世界の株価や原油価格などは上昇に転じており、一見すると奇妙な現象が発生している。
30日のダウ工業平均株価は、一時は前日比244.69ドル安の2万8,489.76ドルとなっていたが、終値時点では逆に124.99ドル高の2万8,859.44ドルとなっている。31日の日経平均株価も、前日比171.17円高の2万3,148.92円と反発して始まっている。
これは、WHOが緊急事態を宣言し、7つの分野で勧告を出したものの、「国際的な貿易と渡航の制限は認めない」(テドロス事務局長)方針を示した結果である。現在の金融市場では、新型コロナウイルスが社会のみならず実体経済にも深刻な被害を及ぼすのではないかとの警戒感が広がっている。例えば、中国の政府系シンクタンク中国社会科学院のエコノミスト張明氏が、新型コロナウイルスの影響で1~3月期の国内総生産(GDP)が約1%押し下げられ、5.0%、もしくはそれを下回る成長率になる可能性を示したことが、話題になっている。
こうした中、WHOが貿易と渡航の制限を勧告すると、各国が中国との間のヒトとモノの動きを強制的に制限し、経済活動が急速に縮小する可能性が警戒されていた。しかし、そこまでは踏み込んだ勧告が行われなかったことが、金融市場に一種の安堵感をもたらしている。米疾病対策センター(CDC)が、米国内でも人から人への感染を確認する一方、「米国人一般への差し迫ったリスクは依然として低い」と報告したことも、金融市場における緊張緩和に寄与している。
ただ、今回のWHOの緊急事態宣言でヒトやモノの移動が更に鈍るのは必至であり、最悪の状況を脱したとまで考えている向きは少ないだろう。今後の展開の予見可能性が殆ど存在しない状態に変化はみられない。