被災古民家をコミュニティー拠点に 「心の復興」を目指して奮闘する地域住民たち
熊本地震から4月14日で丸5年を迎える。今年3月に新阿蘇大橋が開通するなど、インフラの復興は進み、地震の爪痕を目にする機会は極端に減った。一方、地震で大きな被害を受けた熊本県西原村では、被災した古民家を再生して地域コミュニティーの拠点にしようと、地元住民らが立ち上げたプロジェクトが進む。
「地震前よりも良くなったと言われるような地域に」
被災古民家再生プロジェクトは、同村出身の中村圭さん(34)が立ち上げた。同村宮山地区の築約100年の古民家を再生しようというものだ。
熊本地震で古民家は被災し、全壊の判定。解体の話も出ていたが、「地域コミュニティーの拠点やマイクロツーリズムの目的地として活用できるのではないか」と考えた中村さんが発起人となって、2017年にプロジェクトがスタートした。
中村さんは、復興団体「Noroshi西原」の代表という顔も持つ。避難所運営などの支援にあたってきた中村さんは、地元住民らが落ち込む様子を間近で見てきた。「単に村の見た目を元通りにするだけが復興ではない。人々の心も取り戻さねば」。この時の気づきが、その後の中村さんの行動を決定づけた。「地元住民が『ワクワク感』を感じることで本当の意味での復興が実現するんだ」
「家族で遊べる場所がない」と聞くと、地震で使えなくなった畑にヒマワリを植え、たちまちヒマワリ迷路を作り上げた。「地震の揺れを思い出すのか、子供が室内で遊ぶことを怖がる」との相談を受けると、車に乗ったまま映画を楽しめる、日本で唯一の常設ドライブインシアターを立ち上げた。「心の復興こそが真の復興だと思うんです」と、中村さんは穏やかな表情で語る。
「地震前よりも良くなったと言われるような地域、村にしていきたい」。筆者は、発災の1年後にあたる今から4年前にも取材させてもらった。今回の取材でも、中村さんは当時と同じ決意を口にした。
プロジェクトで生まれた新たな交流
被災古民家再生プロジェクトでは、中村さんの思いに共感した地元の工務店「藤本和想建築」が、全面協力してくれることになった。作業には地域住民とボランティアもワークショップ形式で参加した。建物ごと移動させる曳家(ひきや)で歪みを直したり、土壁を塗ったり。「地域の記憶を残そう」と、同地区で解体される古民家の梁(はり)や窓ガラスをもらってきて、再利用することもあった。
プロジェクトは思わぬ効果も生んだ。地元住民と地域外から訪れたボランティアとの交流が生まれたのだ。地震によって、失われた「人とのつながり」は多い。しかし、プロジェクトによって新たなつながりが生まれた。
「地域内外の人が集う光景が目に浮かぶんです」
「古民家に来ると心が落ち着くんです」。現地に案内してくれた中村さんは、右手で梁に触れながらつぶやいた。地元住民が集えるよう広いキッチンや縁側も整えた。「この場所に地域内外の人が集う光景が目に浮かびます」
2020年、新型コロナウイルスの感染拡大により、大勢が集まっての作業が困難となった。作業が思うように進まない時期もあり、当初の予定よりも完成は遅れている。しかし、ようやくプロジェクトの完了が見えてきた。今年中の作業完了、施設オープンを目標に、中村さんは仕事の合間を縫って古民家に足を運んでいる。
まだ具体的な活用方法は固まっていないが、現時点で中村さんは、カフェ機能のある地元住民らが集えるコミュニティースペースを構想している。マイクロツーリズムの文脈で、地域外の人が気軽に訪れられるような場所にしていきたいとも考えているという。新たな拠点の船出が楽しみだ。