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【大阪市北区】吉川静子とヨゼフ・ミューラー=ブロックマンの大回顧展を鑑賞しました。

草葉はるねライター(大阪市)

大阪市中之島美術館にて、12月21日(土)より「Space In-Between : 吉川静子とヨゼフ・ミューラー=ブロックマン」の展示会がはじまりました。


この展示会は、スイスを代表する国際的なタイポグラファー、グラフィックデザイナーのヨゼフ・ミューラー=ブロックマン (1914 - 1996) と、そのパートナーで芸術家の吉川静子 (1934 - 2019) の没後初となる、世界でも初めての大規模な二人展です。スイスで創造的な生涯を共にした夫婦の作品が、それぞれ独立した空間で展示されています。

私はこの展示会の開催を知るまで吉川静子という芸術家を存じ上げず、グラフィックデザインについても知識がない状態で鑑賞したのですが、目にやさしく働きかける色とデザインの効果を楽しんだことで新しい空気を吸ったような感覚があり、なんとも不思議でわくわくする体験となりました。

吉川静子 (1934 - 2019) は、福岡の大牟田で生まれ、神戸の住吉で育ち、福岡の柳川で思春期を過ごしました。そして津田塾大学で英文学を学んだのち、東京教育大学 (現筑波大学) の建築科で建築とデザインを学びました。東京で開催された世界デザイン会議では通訳をつとめ、そのときに初めてヨゼフ・ミューラー=ブロックマンと出会います。


この会議のあと、ドイツのウルム造形大学に留学し、デザイナーを目指したという経歴があります。その動機は、精神的に経済的に一人でも生きていける手段、それでかつ楽しんで働ける職業をどのようにして自分のものにするかということを本能的に探していたから。それから半世紀にわたりチューリッヒで活動を続けました。聡明で、探究心があり、研究熱心な女性であったことがわかるエピソードにも強く惹かれます。

初期の作品は、コンクリートアートの流れを組む立体彫刻です。

《四つの同面積色面のトランスフォーメーション》
《四つの同面積色面のトランスフォーメーション》

アーティストとしての第一歩を踏み出した頃の作品群から、吉川静子の展示がはじまります。

《11のシークエンスにおける四色の同体積のトランスフォーメーション》
《11のシークエンスにおける四色の同体積のトランスフォーメーション》

こちらは、「色影」というシリーズ。

《色影》
《色影》

角度を変えることで、見え方が変化していく作品です。光や影、隣り合う色によって変わっていく色の変化を感じとることができます。

《色影》
《色影》


立体彫刻による展示の次には、「網の構造の絵」が展示されています。

《m42 fs/3×3 Kombination》
《m42 fs/3×3 Kombination》


平面のカンヴァスでありながら、色の効果によって、動いているような感覚、震えているような感覚をもたらします。

「宇宙の織りもの」というシリーズは、色彩と余白による緻密な効果によって、カンヴァス全体が高貴な光に覆われているかのように見える、神秘的な作品です。

手前から3つの作品 《宇宙の織りものー呼吸する地》
手前から3つの作品 《宇宙の織りものー呼吸する地》

平面のカンヴァスでありながら立体性を帯びており、宇宙のようなエネルギーを放ちます。眺めていると、ぽわんぽわんと浮かぶ球体に見えて、不思議な感覚になりました。


パートナーであるヨゼフ・ミューラー=ブロックマンが他界したあとに制作された作品は、これまでの抽象的な作品とは異なり、太陽や地中海の海といった具象的な表現がされています。

《ローマ》
《ローマ》

悲しみからヨゼフ・ミューラー=ブロックマンと過ごした自宅兼アトリエにいることが耐えられなかった吉川静子は、ローマで制作活動を行いました。太陽がもたらす生命力に生きるエネルギーをもらい、新しい可能性を探求していることが感じられる作品です。地中海に沈む太陽の絵は、さまざまな色合いで構成される作品が並んでいて、この空間はエネルギーに溢れているように感じました。


このように、幼い頃から海や川といった水のある風景の中で育んだ感性が、作風からも感じとることができます。


吉川静子氏の作品は、線で描かれているものが多くあり、一見するとシンプルなのだけれども、水辺や森、太陽の光といったような自然を想起させるものが私にとっては多くあったように思います。それゆえにゆったりとした明るい空気が漂う素敵な展示室でした。


展示会の第2章は、ヨゼフ・ミューラー=ブロックマンの作品です。こちらも初期の作品から展示されています。


ヨゼフ・ミューラー=ブロックマンは、先駆的に写真をポスターに取り入れたデザイナーでした。

フォトコラージュによる先品は、近くでみると、かなりの臨場感があり、目を引くものばかりです。


コンサートのポスターも多数制作されました。


ハーモニーがこちらに響いてきそうなほどに、音のイメージを想像させてくれるデザインだと感じます。


シンプルでありながら、空間を有効的に活用していて、色味が絶妙で印象に残る。そういう作品が多くありました。


余白を大事にしていたことや、色の研究に熱心だったことが吉川静子と共通していたと言われます。そのことは展示会を通してとても頷けるものでした。


「Space In-Between : 吉川静子とヨゼフ・ミューラー=ブロックマン」の展示会は、デザインについてあまり知らない私にとっても楽しめる内容であり、色やデザインによるエネルギーをもらえました。そして、吉川静子による「水」を想起させる作風は、大阪・中之島の雰囲気にもよく似合うなあと。そんなことを思い、心温まる体験でした。会期は2025年3月2日まで。ぜひ鑑賞してみてください。


Space In-Between : 吉川静子とヨゼフ・ミューラー=ブロックマン
会場:大阪中之島美術館 5階展示室
会期:2024年12月21日 (土) ー 2025年3月2日 (日)
休館日:月曜日、12/31(火)、1/1(水・祝)、1/14(火)、2/25(火)
    ※1/13(月・祝)、2/24(月・祝)は開館
開場時間:10:00 ー 17:00 (入場は16:30まで)

ライター(大阪市)

純喫茶・大衆酒場・銭湯など、ノスタルジックな空間が大好き。懐かしくてときめく何かを求めて、西へ東へ散歩しています。

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