Yahoo!ニュース

発達障害を食事やミネラルで改善しましょうというお話には気をつけて

成田崇信管理栄養士、健康科学修士
(ペイレスイメージズ/アフロ)

先日、食事にミネラルを取り入れることで、発達障害やアレルギーの改善に取り組んでいる団体の講演を紹介した新聞記事を見かけました。

 2018年にもなってこのような取り組みがマスメディアで好意的に採り上げられるというのは本当に哀しく、悔しい気持ちでいっぱいであり、今回の記事を書きます。

■発達障害の治療は確立されていない

 自閉症などの発達障害は現在のところ治療法は確立されておりません。早期に心理・社会的な介入(環境の改善や行動療法など)を行うことで、本人が混乱せずに過ごすことや社会との良好なかかわりが持てるようにし、自尊心を持ち落ち着いて暮らせることで周辺症状を予防することが今のところ妥当性の高い対処法と考えられております。

 「○○の使用で病態改善の兆し、自閉症の治療に光明」というようなニュースがたまに話題になりますが、実際の治療に用いられる段階にあるものはなく、それによる治療も専門家は勧めておりません。

 

 また、アレルギーについても、特定のミネラルを摂ったからといって改善するものではなく、アレルゲンを特定し、除去食など症状を起こさない食事を続け、成長にともない改善を期待する、というのが基本的な対応となっています。

 先進の医療でもこの状況であり、食事による発達障害の改善は期待できません。妥当性の高い研究(エビデンスレベルの高い論文)でもそのような効果は報告されていません。

■自閉症と代替療法

 私の長男は現在広汎性発達障害と診断されており、発達障害を疑った10年ほど前に病気の治療について色々と調べたものでした。大学の講義で病気についての知識が先にあったことが幸いしましたが、そうでもなければ、自閉症が治ると謳っている、根拠のない療育に余計な時間を費やしていたかもしれません。それぐらい、病気をなんとか治したいと期待する親御さんを取り込もうとしている、代替療法が検索すると沢山ヒットしました。

 子どもの発達障害は妊娠中の親の食事が問題であるというものや、子どもに砂糖や化学調味料、肉を与えると精神的におかしくなり、発達障害の原因になる。だから、玄米菜食を与えるとよい。特定のミネラルで水銀をデトックス、というものは実際に行っている人とも接したことがあります。

 ただでさえ負担の大きい親御さんが、根拠のない食事療法などに余計な時間をとられてはならない、そんな気持ちでネット上に情報発信をするようになり、同じように活動している諸先輩方の労により、昔よりも理解が広まってきたのかな、と思っていたところ、新聞にそのような記事が載るのをみて、本当に哀しく思いました。

 

■発達障害と食事

 発達障害と食事については、こうした誤った話が広まらないためにも、私達専門家は、キチンと論点を整理した情報発信をすることが必要だと思います。

 食事には発達障害を治す力はありませんが、生活を豊かにし、体の健康を向上させる素晴らしい働きをもっています。例えば、自閉症を持つ子どもでは、嫌いな食材が多かったり、特定の調理法ばかりを好んだりと偏食となる傾向があり、そのため栄養素の欠乏症も心配されます。また、十分な栄養を摂れなかったり、栄養過多により病気が起こりやすくなる心配もあります。どのような栄養が不足しやすいのか、栄養摂取状況を把握し、本人の特性に合わせ料理や食材を組み合わせることで予防(二次障害の予防も)が期待できます。

 

■終わりに

 発達障害を持つ子にとって、食事は本当に大切です。しかし、それは治療のためではありません。

 MMRワクチンが自閉症の一因であるという論文により、ワクチン接種率が下がったという生命にも関わる問題が過去には起こったことがあります。実際には捏造論文であり、早い段階から疑義が投げかけられていたものの、マスメディアが盛んに採り上げたことで情報が一人歩きし、ウワサが大きく広がり世界中でMMRワクチン接種率が下がり、麻疹や風疹といった重篤な病気にかかる子どもが増加した、という歴史があります。子どもの健康に関わるような重大な問題について記事については、しっかりと調査し、掲載について慎重になってもらいたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

管理栄養士、健康科学修士

管理栄養士、健康科学修士。病院、短期大学などを経て、現在は社会福祉法人に勤務。ペンネーム・道良寧子(みちよしねこ)名義で、主にインターネット上で「食と健康」に関する啓もう活動を行っている。猫派。著書:新装版管理栄養士パパの親子の食育BOOK (内外出版社)3月15日発売、共著:謎解き超科学(彩図社)、監修:すごいぞやさいーズ(オレンジページ)

成田崇信の最近の記事