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東口順昭がGKクリニックで初指導!パワーを蓄え「すごくいい状態でシーズンを迎えられる」

高村美砂フリーランス・スポーツライター
写真提供/ONE CLIP

 ガンバ大阪の守護神、東口順昭にとっての2022年は、メニューづくりから携わった『MASAAKI HIGASHIGUCHI GOALKEEPER CLINIC』での指導からスタートした。

「自身の経験をもとに小学生・中学生年代で備えた方がいいと思うGKとしてのスキルや、すぐには実践できなくても頭に置いておけば後々活かされることもあるかも、というメニューを僕なりに考え、コーチングスタッフともミーティングを重ねてメニューを組みました。また参加してくれた選手が単に与えられたメニューを実践するだけではなく、それをスムーズにできるようになるには自分に何が足りないのか。どの部分を鍛えるトレーニングをしたらいいのか、まで考えるとか、普段の練習でも活かせるように、ということを意識して指導にあたったつもりです。また、プロのプレーを身近に感じてもらうことで単純に『すごい!』というインパクトを与えることが気づきに変わることも大いにある年代ですから。僕自身が実践する時間も意図的に取り入れました」

 1月4日にJ-GREEN堺にて行われた同クリニックにおいて、東口がテーマに掲げたのは『バランス&ジャッジ』だ。キーパー単体の動きとしても、グラウンド全体を見渡しながらプレーをするという点においても『バランス&ジャッジ』が必要だという観点から、メニューにはDFやFWのポジションを体感させるとか、全く違うスポーツの動きを遊びの中で取り入れるといった工夫も見られた。

「結果的に、フィールドの動きができない子は多かったんですけど、それを体感できたのも、いい気づきにはなったのかなと。実はこれも僕の経験に基づいたもので…というのも実は僕、小学生の時は大事な試合だけGKをして他の試合ではFWでプレーしたり、高校時代も基本はGKながら、練習試合などではたまにFWをさせてもらっていたんです。その時は単に自分がやりたかったから、というのが理由でしたけど(笑)、結果的にその経験がGKとしての自分に活かされていると思うことが多い。例えばセンターバックとの関係性を築く上でも、こういう動きをしたらCBが助かるかもな、とか、逆にこういうプレーをしたらやりにくいだろうな、ってことを考えることにもつながりますし、当然プレーにも反映されます。そんな風に今回参加してくれた子供たちも今はピンとこなくても、いつか『ああ、あの時、経験してよかったな』的に活かされればいいなと思っています」

 今回は初めての開催ということもあり、また「自分の目が行き届く人数にしたい」という東口の希望から上限人数を決めて参加者を公募。午前の小学生の部(小3〜6年生)では36名が、午後の中学生の部(小6年生、中学生)では26名が現役プロサッカー選手から2時間強にわたって直接指導を受けるという貴重な時間を過ごした。遠方だと茨城県からの参加者もいたという。

「世界に比べて、日本サッカー界でのGKのステイタスというか、ポジション的な人気はまだまだというか。Jリーグでこそ近年、GKのセービング数が数字で示されるようになるなど、重要度を知ってもらえるようになってきたけど、小学生くらいの年代ではまだまだそうでもない。だからこそ、こうしたクリニックを開催することで、よりGKの重要性を知ってもらえる機会になったらと思って開催を決めたのですが、正直、当初は応募があるのか不安でした(笑)。でも、結果的に今回これだけの子供たちが集まってくれて、彼らからすごい熱を感じたのは嬉しかったし、今後も継続的にGKの面白さ、楽しさをより伝えていけるような場を設けられたらいいなと思いました。また、それと並行して僕自身が、プロとしてJリーグの舞台でGKとしての存在感をプレーで示していくことも大事だと改めて思い直す時間になりました」

 もっとも、初めての『指導』については「教えることって自分でプレーする以上に大変だと知り、改めてこれまでお世話になったGKコーチの皆さんに僕自身が感謝する時間になりました」と東口。メニューを組む段階では効果的なトレーニングだと思っていても、いざ実践させてみるとスムーズにいかなかったり、言葉で伝えることの難しさを痛感したり。自分自身も多くの気づきを得たそうだ。

「教えるのが初めてだったこともあって、自分の指導力には物足りなさを感じましたけど、プレーやその狙いを言葉で説明しようとすることで自分の頭の中が整理されたところもあるし、子供たちのエネルギーに触れて、自分の幅がすごく広がった気がします。…と言っても正直、それがプレーヤーとしての幅なのか、人間としての幅なのかは謎(笑)。でも、すごく気持ちもリフレッシュできたし、言葉では表現しがたいけど階段を1つ登ったような、成長できた実感は確かにあるので。子供たちと同じように僕もいつか、あの時備えた幅が活きたなという日がくるのを楽しみにまた頑張ります」

指導にあたるだけではなく『プロ』を体感してもらおうとデモストレーションも行った。写真提供/ONE CLIP
指導にあたるだけではなく『プロ』を体感してもらおうとデモストレーションも行った。写真提供/ONE CLIP

 そうした新たなパワーを蓄え明日、1月8日にはいよいよプロ14年目のシーズンが始動する。

 約1ヶ月間のオフシーズン中は前半、しっかり体を休めて1年間の疲れを取り除くことを心がけつつ、ベタ休みにはせずに週に1度、パーソナルトレーナーとの砂浜トレーニングを敢行。オフの後半に入ってからは、2日動いて1日休むというスケジュールで強度を上げながらコンディションを作ってきたと聞く。その手応えもあってだろう。引き締まった表情で「すごくいい状態でシーズンを迎えられる」と意気込む。思えば、昨シーズンは3年連続となるJ1リーグフル出場やJリーグ史上6人目となるJ1リーグ100完封を実現しただけではなく、J1リーグトップのセーブ数(122)を記録するなど、圧巻の存在感を示した東口だが、今年はどんなパフォーマンスを魅せてくれるのだろうか。

「昨年は、チームとしての戦い方もあって、シーズンを通してGKの仕事が多くなったのは事実ですが、その中で守備陣としっかりコミュニケーションを図りながら、常に決まる確率が低い方をしっかりチョイスできたことがセービングの数字にも繋がったんだと思う。もちろん、打たれるシュートの数が少ないに越したことはないし、チームとしてはそこへのトライもしなければいけないと思っていますけど、いずれにしても自分がチームのためにやるべき仕事は『ゴールを割らせないこと』なので。そこを今年もしっかり継続したいと思います。また、カタさん(片野坂知宏監督)のサッカーではGKもビルドアップに関わっていくイメージがありますが、その部分は僕が近年、質の向上を求めて取り組み続けてきたところでもあるので。監督交代によるチームの変化、GKコーチが変わることによるトレーニングメニューの変化などにしっかり適応しながら、自分が求められることに積極的に取り組むことで、さらなる成長を目指したい。これまで試合に出てきたから、ということではなく、今年のチームでも必要とされるGKになれるようにGK陣で切磋琢磨して、いろんな競争をしながら試合に出場するチャンスをつかめるようにやっていきたいし、それを継続するためにもピッチでの結果にこだわって戦っていきたい。また、チームとしては新しい監督のもと、新しいエンブレムを背負うシーズンになりますが、新エンブレムがしっかりと定着するようなサッカーを示せれば、必然的に強いガンバになっていくはず。自分たちもエンブレムが変わった事実をいいプレッシャーにしながら、カタさんのもとで去年とは全く違うシーズン、結果を求める1年にしたいと思います」

 キャリアを重ねるだけではなく、そこに確実な『進化』を示すことで、絶対的守護神としての信頼を掴み取ってきた近年。2022年もきっと、さらにパワーアップした東口順昭を楽しめる。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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