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英国ビジネス・点描(1)最低賃金を払わない企業の実名をさらす案が浮上

小林恭子ジャーナリスト

週刊「エコノミスト」(毎週月曜日発売)に「ワールドウオッチ」という、数人で執筆を担当する連載コラムがある。時折、私も書いている。

以下、9月の最初の2週間に掲載された分に若干細補足してみた。英国のビジネス・経済状況の点描として閲読いただければ幸いである。 

最低賃金を払わない企業の実名をさらす案が浮上

国が設定する最低賃金を払わない企業の実名を公表して恥をかかせる案が、英国で浮上中だ。

現在、21歳以上の勤労者の最低賃金は時給6.19ポンド(約974円、1ポンド=約157円として計算、以下同じ)だが、10月から6.31ポンド(約993円)に上昇する。政府は、これに合わせて所定額を払わない企業名を公表し、全国最低賃金法の徹底遵守を目指す。

違法行為が発覚した雇用主には、不足分の支払いと最大で5000ポンド(約78万円)の罰金が科せられる。昨年、若い女性に人気のファッション・ブランド「Top Shop」を運営するArcadia社はインターンとして働く従業員らに約20万ポンド(約3150万円)の不足賃金を払う羽目になった。

英国歳入関税局(HMRC)の調べによると、昨年、736の雇用主が最低賃金以下の給与を支払っていた。2万6500人を超える従業員への不足分の支払いは390万ポンド(約6億1700万円)に達した。

英国の労働組合の中央組織「労働組合会議」(TUC)によれば、最低賃金以下で働く労働者はHMRCの調査した数よりも「はるかに多い」。しかし、不満を口に出せば雇用を中止されることを懸念して、「口をつぐんでいる」。

最低賃金のレベルを守るだけで良いかというと、そうとは言えないのがロンドンの例だ。

一定の生活水準を維持するための「生活賃金」は全国では時給7.45ポンド(約11780円)だが、ロンドンは生活費がほかの都市と比べて高いため、市は雇用主に対し、時給8.55ポンド(約1346円)を採用するよう推奨している。ところが、これを無視して国による最低賃金を払う雇用主も少なくない。その1つがお役所関係だ。複数の省庁が清掃担当の職員に6.19ポンドにほんの少し上乗せした金額を払っていた。清掃員たちは大臣に抗議の書簡を送り、官公庁前でデモを行ってきたが、賃金が上がったという話をいまだ聞かない。

英シンクタンク「レゾリューション・ファウンデーション」によると、生活賃金以下の収入で暮らしている人が英国内では480万人いるという。

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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