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集客は好調なディズニーでもなぜ寄付は低調なのか

安藤光展サステナビリティ・コンサルタント
オリエンタルランド、CSRウェブコンテンツ

■ディズニーは色々と絶好調です

オリエンタルランドが運営する東京ディズニーリゾート(以下、ディズニー)の集客が好調だそうです。猛暑や自然災害等の影響で来園者数が伸び悩むかと心配されましたが、先々週のプレスリリースによれば、2018年4~9月期の入園者数は前年同期比5%増の1,551万人と過去最高の入園者数だったそうです。このままいけば35周年のアニバーサリーイヤーの今期は年間の過去最高の更新が見えてきました。まぁ、私も家族で今年は2月・5月・9月にいったので貢献してますけどね!

さて、そんな好調なディズニーですが、先日、開園35周年企画として11月1日から12月25日までの約2ヶ月間の間、ゲストとともに世界の子どもたちに“ハピネス”を届ける寄付つきプログラム「Smiles for Tomorrow(スマイル・フォー・トゥモロー)」の実施を発表しました。

まだ未実施だからか、全然メディアで盛り上がっていませんが、過去の同様の寄付企画の結果を含めて、企業活動として注目すべき点があるので事例研究として最新情報を含めてまとめたいと思います。

■寄付の最新動向

まずは寄付まわりのお話を。「寄付白書2017」(日本ファンドレイジング協会)によれば、日本の個人寄付市場は現在7,756億円とされています。参考までに世界ではアメリカがダントツであり30兆円以上となっています。アメリカに追いつくことはありませんが、日本でもインターネットを通じた寄付なども活発化しており、個人寄付の選択肢は以前にくらべて格段に増えているため市場自体は微増しており1兆円も射程に入っていると言えるでしょう。

では企業の寄付動向はというと、「寄付白書2017」によれば2015年度の法人寄付が7,909億円とされています。東日本大震災が起き寄付額が増えた2011年度が7,168億円と考えると、大手企業を中心とした寄付文化は根付き始めているといえるかもしれません。

さて寄付事情はこのようなものですが、問題はディズニーの寄付プログラムがどうか、ですね。過去何回か実施してきたチャリティープログラムですが、これまでとは名称を変えて「スマイル・フォー・トゥモロー」としています。スマイル・フォー・トゥモローでは、対象商品の売り上げの一部を寄付する、寄付つき商品の販売と、期間内にアトラクションを利用したゲストの人数に応じた金額の寄付の2つの寄付を実施するそうです。

今年のクリスマスのスペシャルグッズ「アーモンドチョコレートバー・バッグ」を購入するとその3.5%を寄付、アトラクション「イッツ・ア・スモールワールド」の利用者数に3.5円を乗じた金額を寄付するとのこと。今更ですが35周年とかけてるわけですね。今までは商品の販売だけが寄付付きだったので、アトラクションを介しての寄付プログラムはなかったので大きく寄付金額が伸びる可能性もあります。

8月にこのチャリティープログラムがブログで発表されていたのですが、ウェブメディアをいろいろ探っても、ニュースの一報はあったもののまったく盛り上がっていません。まだ始まっていないからというのもあるかもしれませんが、日本では知名度が高い企業でもこの手の話は盛り上がりにくいので、どうなることやら。そもそも、なぜ実施の3ヶ月も前にリリースをしたのか、よくわかりませんが…。11月に入ってからTVCMでこのプログラムの積極紹介でもするのでしょうか。どちらにせよ、35周年で過去最大の入園者数になりそうだし、寄付企画も過去最高の成果が生まれることを期待します。

■寄付の成果と企業評価

それでは寄付のインパクトを考えてみましょう。イッツ・ア・スモールワールドの利用者数がまったくわかりませんが、自分の体験から推測ですが、1日5,000人と仮定しましょう。1人3.5円なので1日で17,500円。約55日間なので合計寄付金額は「962,500円」です。これは…ちょっと少ないかなぁ。チョコレートバーは1,500円なので3.5%は約53円です。これはまったくわかりませんが、1日1,000個程度と仮定しましょう。1日で53,000円程度。55日間で合計「2,915,000円」です。アトラクションの寄付金額と合わせて400万円くらいでしょうか。ざっくり300〜500万円くらいの寄付になりそうです。すでに企画と告知の手間だけ何倍も費用がかかっていると思いますので、インパクトだけ考えると、企画倒れになりそうです。直接NPOに寄付したほうが早いし人件費分たくさんできたんじゃないの?と。

ではオリエンタルランドという会社全体での寄付状況も確認してみましょう。コーポレートサイトや調査機関の開示情報からすると、従業員食堂の寄付つきメニュー提供とか、復興支援関係のアクションはいくつかしているようです。北海道地震には500万円、集中豪雨被害には1,000万円の寄付をしています。単純に素晴らしいですね。他にも従業員からの寄付を受け付ける基金はあるようですが、顧客が参加できる寄付プログラムはないみたいです。

なお過去にも同様の寄付企画をしています。プレスリリースによれば、寄付プログラム「Make Happiness!」の2015年クリスマス期間では約1,180万円、2014年クリスマス期間では約2,000万円を日本ユニセフに寄付しています。2014年はなんでこんなに高いかというと、単純に「税抜き価格の10%」を寄付したからです。2015年は5%でしたので、回数を重ねるごとに割合が減っているというまさかの状況…。当然、寄付総額も少なくなっていますので、前述した私の寄付金額予想はかなり近いと思います。

これらの寄付方式は、専門用語で「コーズマーケティング」(寄付付き商品の販売)と呼ばれています。「コーズ」とは、大義などと訳されます。ですのでコーズマーケティングは「世界の大義名分(社会善)のためのマーケティング」という趣旨です。この寄付スタイルは企業側に大きなメリットがあります。それは成果報酬型であることが一つで、もう一つは顧客との一体感を演出できることです。成果報酬型なので、万が一商品が一つも売れなかったら1円も寄付する必要はないという、損失ができにくい活動であるのです。2011年から数年間は色々な企業で行われましたが、最近はあまりみなくなりました。

■ネガティブな側面と企業評価

さて、寄付にはネガティブな側面もあるので一応ふれておきます。それは、企業のよっては“免罪符”になっていることです。環境や社会に負荷をかけているから、寄付でもして“良い企業であること”をアピールしておくか、というもの。この種のトレードオフの考え方はとても嫌われますが、いまだにこのような意識で寄付をする大手企業があるのも事実です。こういう隠れ蓑的な寄付もあるので、その真偽を見極めるために、消費者参加型の企画は特に消費者側の意識や知識も求められます

ネガティブな側面といえば、ディズニーはサービス業なので、労働集約型のビジネスモデルであり労働問題が常に存在します。これは、アミューズメント、アパレル、外食、製造業全般、などでは大小あれど必ず生じてしまう問題の一つです。ディズニーも定期的にメディアで労働問題が報道されていますので見聞きしたことがある方もいると思います。報道には記者の視点の偏りがあるにせよ、顧客への“おもてなし”を重視するあまり、従業員への配慮が足りていない部分もあるのかもしれません。

ではこのあたりの対応はどうなのかというと、ウェブサイトでは結構しっかりめに従業員への具体的な配慮が書かれています。2020年に向けての中期経営計画にも戦略の柱として「ソフト(人財力)の強化」という人材マネジメントをかかげてますし、国内サービス業でも国内トップ企業の一つだと思いますので、労働問題が仮にあったとしても適切な対応をしていただきたいものです。このあたりも先日最新版がでたCSRレポートで開示されているので、興味のある方はチェックしてみてください。

ちなみに、オリエンタルランドのCSR企業評価は東洋経済新報社によれば「164位」(昨年184位)と、国内でもトップクラスの評価を獲得していて、またいくつかのESGインデックスにも組み込まれて投資家サイドからも一定のCSR評価を得ている優良企業です。情報開示のレベルも高くなっているしCSR的には参考にすべき企業の一つです。

■消費者参加型の社会貢献活動

余談ですが、先月、娘の誕生日を祝うためにアンバサダーホテルに泊まってディズニーを堪能してきたのですが、トイレや洗面台にエコなメッセージがありました。写真を撮り忘れてしまったのでうろ覚えなのですが、「トイレットペーパーは地球環境のために最後までお使いください」みたいな趣旨のメッセージがあり、洗面台には「使っていないタオルは地球のために分けておいてください」のようなメッセージがありました。こういうメッセージはみたことがありません。素晴らしいですね。特に顧客とエンゲージメントが深いであろうディズニー公式ホテルですので、それなりの効果がありそうですし、何割かの人が実践するだけでもオリエンタルランドの相応の環境活動になり、企業としても省エネで経費削減できて、少しの気配りでみんな幸せになれる活動です。今回の寄付もさることながら、顧客の巻き込みはうまいですね。

企業としては、前述したような災害復興支援活動の寄付のように一方的な活動のほうが簡単です。しかし顧客を交えた寄付にはメリットがあり、プログラムを実施している充実感を顧客も企業も体験できます。固定ファンが多いディズニーだからこその演出があるとさらによかったですね。

他に、コンサルタントではなく消費者(ファン)として常にCSRをチェックしている企業は、良品計画(無印良品)、Apple(iPhone/Mac)、ファーストリテイリング(ユニクロ)、セイコー(腕時計)、ニコン(カメラ)あたりでしょうか。どれも10年以上ユーザーなもので個人的な思い入れがあります。

今回はオリエンタルランドの寄付活動を深掘りしてみましたが、社会貢献関連情報の面白いところは、企業を普段とは別の目線で見ることができる点が挙げられます。事業活動の良い部分も悪い部分もわかるので、みなさんも、お気に入りの企業やブランドのウェブサイトやCSRレポートを定期的にチェックしてみると新しい企業の顔が見られるのでおすすめです!

参考データ

オリエンタルランド「OLCグループCSRレポート2018」(2018年9月発行)、東洋経済新報社「CSR企業総覧2018」(2017年11月発行)、東洋経済新報社「CSR企業白書2018」(2018年4月発行)

サステナビリティ・コンサルタント

サステナビリティ経営の専門家。一般社団法人サステナビリティコミュニケーション協会/代表理事。法政大学イノベーション・マネジメント研究センター/客員研究員。著書は『未来ビジネス図解 SX&SDGs』『創発型責任経営』ほか多数。国内上場企業を中心に15年以上サステナビリティ経営支援を行い、またテレビ、新聞、週刊誌、ニュースメディア等でも解説を多数担当。

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