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「ニンテンドースイッチ」は国内で最も売れたゲーム機だが… データが示す意外な「物足りなさ」とは

河村鳴紘サブカル専門ライター
「ニンテンドースイッチ」を扱う量販店(写真:ロイター/アフロ)

 任天堂の家庭用ゲーム機「Nintendo Switch(ニンテンドースイッチ)」の国内累計出荷数が3334万台となり、携帯ゲーム機「ニンテンドーDS」を抜いて、国内で最も売れたゲーム機になったことが話題になりました。無料で遊べるスマホゲームの存在を考慮すると、その価値の高さを疑う人はいないでしょう。しかし、スイッチのソフトの出荷数データを見ると、“別の顔”が見えてきます。

◇「装着率」に差 欧米に比べて低く

 ニンテンドースイッチ用ソフトの累計出荷本数ですが、日本は2億3273万本。単独で見ると文句のつけようがありません。しかし、ゲーム機1台に対してソフトが何本買われたかを示す数字……「装着率」「タイ・レシオ」と呼ばれるデータを用いて、欧米市場と比べると、日本市場の「物足りなさ」が浮き彫りになります。

 「装着率」はソフトの本数をゲーム機の台数で割って算出するデータで、ソフトの購入意欲を示す指標の一つとして知られています。

 現時点、北米や欧州の両地域の「装着率」はいずれも「10本」に迫る勢いですが、日本だけはまだ「7本」に届きません。要するに、日本ではゲーム機本体が売れても、ビジネスの収益の源泉である「ソフトの売れ行き」が、鈍いのです。

 偉大な“先輩”である「ニンテンドーDS」の「装着率」は、日米欧の各地域でいずれも「6本強」といったところ。DSの後継機である「ニンテンドー3DS」は、「5本前後」となります。“先輩”と比べるのであれば「スイッチの日本市場の装着率は良くなった」とも言えますが、「では、なぜ欧米の装着率が高いのか」と質問されると、答えに困るでしょう。

◇「装着率」の地域差 考えられる理由

 スイッチの「装着率」で欧米と日本で差がある理由を考えたとき、思いつくことの一つは「スイッチは、日本市場で“ゲーム離れ”をしていた一般層(ライトユーザー)にアピールするのに成功したから」という見方でしょう。

 ただし「装着率」の変化を見ると、最初から米国の方が高く、年を追うごとに差は広がっています。ゲーム機を最初に購入するのは、熱心なゲームファンなのですが、そのファンが最初から購入するソフトを(米国との比較において)買い控えているわけです。そして「最初からあった差が、どんどん広がっている」と、データからは読めてしまいます。要するにゲーム機本体を購入するときに、日本のユーザーはソフトを1本だけ購入する傾向にあり、米国のユーザーは複数買う(もしくは間を置かずに買う)……と読めるデータもあったりします。

 「装着率」は、ゲームをたくさん遊ぶコアユーザーの多いゲーム機の方が高く出る傾向にあります。そして携帯ゲーム機は「1人1台」という特性のため、総じて「装着率」が低くなる傾向にあります。そして日本は、欧米よりも携帯ゲーム機が好まれます。ニンテンドースイッチはテレビモニターでも、携帯ゲーム機でも遊べます。となれば、欧米ではスイッチをテレビにつないで遊び、日本では携帯ゲーム機として遊ぶ傾向が高い。だから日本の方が「装着率が低い」と考えることもできるでしょう。

 もちろん「装着率」は、さまざまな要因がからみます。それだけに単体で何かが言えるわけではないのですが、「関係ない」とも言い切れません。ニンテンドーDSの時代は、違法にソフトが遊べる機器「マジコン」が猛威を振るっていましたから、「装着率」は実際よりも低く出る……という考察もできるでしょう。また中古ソフトで遊び続けると、これまた「装着率」は低くなるわけです。ただし、同時代の地域差というのは、「何が原因なのか?」は気になるところではあります。

 ともあれスイッチの日本市場が、欧米市場に比べて「装着率」で劣るのは、「日本でソフトが売れない」という意味ではあり、ビジネス的には喜べません。各メーカーも気づいているでしょうし、打開・改善するための工夫を練っているでしょう。

◇かつての「ゲーム王国」日本が足を引っ張る?

 ニンテンドースイッチ本体の世界累計出荷台数は、ニンテンドーDS(1億5402万台)をまだ抜いていません。しかし、ソフトの世界累計出荷数は12億本を超えているので、ニンテンドーDS(9億4876万本)は既に抜き去っています。その点は喜ばしいのですが、ソフトではまだ上がいます。

 それはソニーの家庭用ゲーム機「プレイステーション2」で、ゲーム機本体の出荷数は「1億5500万台以上」、ソフトの世界累計出荷数は「15億3700万本以上」。「装着率」は「10本」にこそ届いていませんが、かなり高い数字です。

 PS2やニンテンドーDSの時代は家庭用ゲーム機の存在感が抜群でしたが、現在のゲーム市場の主戦場はスマホゲームです。“脇役”に地位を落とした家庭用ゲーム機において「ニンテンドースイッチ」の“快進撃”は見事なのですが、一方で日本が欧米並みの「装着率」であれば、任天堂の決算がさらに好調になっていた……という考察も成り立ちます。かつての「ゲーム王国」だった日本が、足を引っ張ったように見えてしまうところに、時代の変化を実感します。

 日本の企業決算が好調というニュースもありますが、物価高もあって「生活は大変」というのが正直な体感ではないでしょうか。そうした中でゲーム市場のデータ「装着率」の差は、欧米と日本の「購買力の差」なのか……と意識せずにはいられません。

【解説】日本経済好調なの?GDP6%“大幅”アップの理由 輸出増加が押し上げるも物価高で消費は低調(FNNプライムオンライン)

Q15 世界の中の日本経済の位置づけはどのようになっていますか。
世界経済における日本のプレゼンスは弱まりつつある。世界のGDPに占める日本の割合の推移をみると、1980年に9.8%だったものが、1995年には17.6%まで高まった後、2010年には8.5%になり、ほぼ30年前の位置付けに戻っている。現在のまま推移した場合には、国際機関の予測によれば、2020年には5.3%、2040年には3.8%、2060年には3.2%まで低下する。こうした「現状のまま推移した場合」の予測を変えていく努力が求められる。
選択する未来 -人口推計から見えてくる未来像-(内閣府)

 世界規模のビジネスでは、より巨大な市場、もしくは成長が見込める市場を重視するのがセオリーです。PS5の品不足のとき、巨大市場の欧米を優先する一方で、日本市場を優先しないソニーに批判がありました。果たして任天堂はどうするのか、日本を優先してくれるのか……と考えてしまうわけです。

【関連】PS5、ソフトが売れず転売の影響浮き彫り 日本市場軽視で消費者離れも(産経新聞)

 ニンテンドースイッチにおける日本と欧米の「装着率」の大きな差が、今さら埋まるとは思いません。そしてスイッチの後継機で、日米欧の「装着率」はどう変化するのか。日本の存在感が薄くなることに危うさを感じながら、注視したいと思います。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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