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B2熊本ヴォルターズはなぜ「国立熊本大学の体育館」を拠点にできたのか。先進的地域密着を創造

田尻耕太郎スポーツライター
ヴォルターズ・遠山アシスタントコーチ

 プロバスケットボール・B2リーグの熊本ヴォルターズは10月5日、6日のシーズン開幕節(アルティーリ千葉戦・いずれも熊本県立総合体育館)に向けて「VOLTERS GX(ヴォルターズ ジーエックス)」で練習を積んでいる。

 このVOLTERS GXは今年7月から運用を開始しているクラブハウス機能を有する練習施設なのだが、ここはもともと熊本大学の体育館だった。いや過去形ではなく、正確には現在も熊本大学が所有している体育館である。

ヴォルターズGXの外観
ヴォルターズGXの外観

今年7月から運用開始

 昨今は地域密着型のプロスポーツチームの存在は一般的となっているとはいえ、地元国立大学を活動拠点とするケースは極めて稀だ。日本のスポーツ界において極めて先進的な取り組みといえる。

 ヴォルターズでは今年4月に、オーナー企業の桜十字グループ、熊本大学との三者による包括連携協定を締結。桜十字グループが熊本大学渡鹿体育館のネーミングライツを取得し、さらにその協定の中で同施設を「共同研究の拠点」と位置づけることで、ヴォルターズが大学施設を賃借して“住処”とすることを可能にしたのだ。

熊本大学の末永祐介准教授。「共同研究室」にて
熊本大学の末永祐介准教授。「共同研究室」にて

 専用練習場としての機能を持つだけでなく、熊本大学の末永祐介准教授を中心に院生・学生によるアナリティクス「ラボ」チームが結成され、トレーニング研究や戦術分析といった学術的な取り組みが並行して行われている。施設内のトレーニングルームのすぐ横には「共同研究室」が設けられているのが一般的なプロチームとは一線を画すところだ。

ヴォルターズメソッド確立の契機に

 チームとすれば学術的な裏付けをもったチーム強化が図られ、大学はトップレベルのアスリート・競技のデータや分析の収集に加えて、学生にこれまでになかった学びと体験の場を提供することができるという双方向にメリットがある。

 また、ヴォルターズにもこれまで分析担当を行うコーチなどは居たものの、その人物に依存するところが大きかった。つまりその担当者がクラブを去ればまた一から構築しなければならない部分も多々あった。今後は「クラブとしてどんなバスケをするか」「どんなチーム方針で分析も行っていくのか」といった“ヴォルターズメソッド”がつくり上げられていくことになるだろう。

 そして、なによりヴォルターズは2012年に創設されたが、それまで活動拠点を自身で保有しておらず練習は益城町総合体育館など公営の施設を借りて行っていた。昨季まで2シーズンはヘッドコーチも務めた遠山向人アシスタントコーチも“専用施設”のさまざまな恩恵をこのように口にする。

「これまで益城の体育館を使用させていただいた時も様々なサポートがあり助かってはいたのですが、やはり専用練習場ということで自分たちのタイミングでコートを使用できるのは大きいです。以前はマネジャーも大変だったと思います。また、バスケットリングも以前2か所だったのがヴォルターズGXには6か所設置されていて練習の幅もかなり広がりました。

 選手専用のロッカー、トレーナーのトリートメントルーム、コーチルームも完備されています。これまでは着替えの場所もなかったし、ミーティングは会議室を借りて何とかやっていました。選手のケアは廊下で行うのも珍しくなかったです。コーチルームでいえば壁全面がホワイトボードのようになっているので書き込んだものを残しておくことができるので様々な面で助かっています。そして専用練習場なので荷物も置いておける。公共の体育館の場合は当然、使うたびに荷物の搬入出を行っていました。それだけで時間も取られますし、スタッフの負担もかなり大きかったので」

 ヴォルターズに在籍して5シーズン目を迎えた磯野寛晃も「1つの場所で完結できるのはとてもありがたいです」と感謝しきりだ。

「僕は昨年の開幕前に怪我(右足闋節距骨下関節脱臼骨折)をしてしまいリハビリを余儀なくされたのですが、公共施設だと練習はできても治療やケアは別の場所に移動しなければならなかったんです。ウエイトトレーニングも同様でした。移動負担もありませんし、時間の制約を気にせずバスケに打ち込めて、自分の体と向き合えるこの環境は本当に素晴らしいと思います」

 この日もチーム練習後にトレーニングルームでウエイトを行う選手がいたり、ロッカールームで他チームの試合を見て研究する選手がいたりと様々な時間の使い方をしていた。選手同士のコミュニケーションの時間も圧倒的に増えているという。注目の新戦力・田中力は「チームとして集まって時間がそんなに経っていない分だけ、まだ気持ちよくバスケができていない部分もある。開幕まで1か月ないですけど、この環境の中でみんなの気持ちを合わせていけるようにしたい」と話した。

チームも環境も成長途上

ヴォルターズ・田中力
ヴォルターズ・田中力

 この田中は2017年に史上最年少の15歳5か月で日本代表候補選出され、その後渡米して世界のトップアスリートを育成するIMGアカデミーに進学した実績を持つ。遠山アシスタントコーチは「ヴォルターズGXの存在は、リクルート(選手獲得)の部分でも大きい」と頷いた。

「この施設でチームは成長していけると思います。だけど、これで終わりではありません。逆も然りでチームが成長することで、クラブの施設や環境もさらにブラッシュアップされていけるように。今、選手が日々使うトレーニング機器や熊本大学が研究に使う資金調達を目的としたクラウドファンディングも行っています。一緒にチームを強く、成長させたいという思いも届いています。熊本のファンの方って本当にすごいんです。私は日本各地のチームに所属しましたが、こんな街はなかなかありません。まずは10月から始まるシーズン、B1昇格を目指してしっかり戦っていきます」

 今やプロスポーツは多くの地域に根付き、社会に溶け込み文化創造の1つの役割を担っている。その中で地元国立大学とタッグを組んだ熊本ヴォルターズの取り組みは日本スポーツ界の新たな指針となるはずで、様々な分野からの注目は今後さらに高まっていくだろう。

【写真はすべて筆者撮影】

スポーツライター

1978年8月18日生まれ、熊本市出身。法政大学在学時に「スポーツ法政新聞」に所属しマスコミの世界を志す。卒業後、2年半のホークス球団誌編集者を経てフリーに。「Number web」でのコラム連載のほかデイリースポーツ新聞社特約記者も務める。2024年、46歳でホークス取材歴23年に。 また、毎年1月には数多くのプロ野球選手をはじめソフトボールの上野由岐子投手が参加する「鴻江スポーツアカデミー」合宿の運営サポートをライフワークとしている。

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