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【スケートボード】東京五輪にチャレンジする11歳、開心那(ひらき・ここな)の魅力

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
史上最年少オリンピアンへの道を歩む開心那(撮影:矢内由美子)

 北の大地から夏冬を通じて史上最年少のオリンピアンが誕生するかもしれない。

 東京五輪の新競技であるスケートボード女子パークで、北海道苫小牧市の小学5年生、開心那(ひらき・ここな=HOT BOWL skate park)が大躍進中だ。

 赤いニット帽にロングヘアとスキニージーンズの“心那(ここな)スタイル”で、目指すは「世界一かっこいいスケーター」。9月10日に開幕する世界選手権(ブラジル・サンパウロ)に出場し、東京五輪を目指す11歳を取材した。

■武器は玄人好みのグラインド技

お気に入りのキャップを被って。デッキのサイズは8・125インチ(撮影:矢内由美子)
お気に入りのキャップを被って。デッキのサイズは8・125インチ(撮影:矢内由美子)

「髪は、憧れていた海外の選手のスタイルがこういう感じだったから。(小学校)2年生のときにちょっとだけ毛先を整えたことがあるけど、切ったのはその一度だけ。絶対切りたくない!」

 あどけないという言葉がぴったりの開だが、好みのスタイルには妥協がない。武器はコース上部の縁(コーピング)をガリガリとこする「グラインド」のトリック。中でも「ノーズグラインド」は今や世界で大評判で、「ノーズグラインド・マスター」のニックネームをつけられているほどだ。玄人好みのテクニックで世界の頂点を目指すのが“心那流”なのだ。

 スケートボードを始めたのは、スキーリゾートで有名なニセコの近くに位置する北海道倶知安町に住んでいた5歳のとき。父・洋介さん、母・美奈子さんが、「家族で一緒にできるスポーツをしたい」と始めた。同じタイミングで初心者として始めた洋介さんよりうまくなるまであっという間。ほどなく父の転勤で苫小牧市に引っ越し、市内のスケートパークに通うようになった。

 頭角を現したのは、9歳で出場した18年5月の第2回日本選手権パーク女子で4位に入ってからだ。同8月には海外デビュー戦のVANSアジア(シンガポール)でいきなり優勝し、同11月の世界選手権(中国)では7位になった。

身長149センチ。ただいま成長中(撮影:矢内由美子)
身長149センチ。ただいま成長中(撮影:矢内由美子)

 快進撃は今年になってからさらに勢いを増した。5月の日本選手権で初優勝。練習ではまだ未完成だった大技の「ノーズグラインドtoリップスライドアウト」を本番で成功させ、関係者を驚かせた。

 すると、東京五輪の予選対象大会である6月のデュー・ツアー(米国)でもこの技を繰り出して堂々の3位。本場の実況解説者は当時10歳の開のランに、「10歳!10歳が今まで女子では世界で誰もやっていないトリックを見せた!」と驚愕し、会場は大きく盛り上がった。

 7月の国際大会(中国・南京)では制限時間内に勝負トリックを決めることができずに11位に終わったが、史上最年少出場となった8月上旬のXゲームミネアポリス(米国)ではルーティーン(演技構成)を見直して臨み、見事に準優勝。さらに8月10日のVANSフランスでは優勝をかっさらった。

男子優勝者の平野歩夢(左)と女子優勝者の開心那(撮影:矢内由美子)
男子優勝者の平野歩夢(左)と女子優勝者の開心那(撮影:矢内由美子)

■転んで、痛い思いをしながらトリックをマスター

 苫小牧市のスクールで練習し始めた年長さんの頃。初心者の基本トリックである「インターフェイキー」までをスムーズにクリアした後、小学校に上がる前のタイミングで最初にぶつかった壁が「テールブラント」という技だった。何度も転び、痛い思いをしながら練習を繰り返して、約3カ月でマスター。その後は、天性のセンスと好きなことに一生懸命になれる性格で、グラインド系のトリックを次々と習得していった。

 手本としているのは、通っていたスクールの先輩男子スケーターだ。このスクールの施設は、鉄製のコーピングが多い日本では珍しい、「プールコーピング」とよばれるコンクリート製の縁。板やトラックと呼ばれる金具をそこにこすらせる音が耳に心地よく、それ以来、グラインド系のトリックにはまった。

 現在、試合に出ていないときは基本的に学校から帰ってきた放課後の3~5時間、苫小牧市やスポンサードを受けている札幌市北区の「HOT BOWL skate park」で練習している。特定のコーチについておらず、先輩のプロスケーターを手本にしながら、母の美奈子さんが撮影した映像をチェックしながらテクニックを磨いている。

 将来の夢は「世界一かっこいいスケーターになること」。海外では女子選手ならリージー・アーマント(Lizzie Armanto)やノラ・ヴァスコンセヨス(Nora Vasconcellos)、男子選手ならコーディー・ロックウッド(Cody Lockwood)、クリス・ラッセル(Chris Russell)、CJコリンズ(CJ Collins)。ルックスでもランでも、それぞれがそれぞれの個性を前面に出して自己表現する姿を「かっこいい」とリスペクトする。

 コンテストで優勝しても派手に喜びを爆発させるのではなく、はにかむような笑顔を浮かべる開。最近はちょっとクールなスタイルが気に入っているようだ。

グラインドが得意(撮影:矢内由美子)
グラインドが得意(撮影:矢内由美子)

■ピュアな思いで東京五輪へ

 課題としているのは「エアー」だ。得意とするグラインドのテクニックに、高さのあるエアーを組み合わせることが世界で上位にいくために求められていることだと考えている。

 そして、注目されている東京五輪の出場権は、20年5月の世界選手権で3位以内に入るか、20年6月1日に発表される五輪予選対象大会のポイントランキングで決まる。

 現在(7月22日発表)、五輪予選ポイントランキングは、五輪予選対象大会で2連勝中の岡本碧優(みすぐ)が1位、18年世界選手権優勝の四十住(よそずみ)さくらが2位、中村貴咲が4位で開は5位につけている。つまり、せかいの上位5人中4人が日本人というわけだ。

 東京五輪のパーク女子の日本の代表枠は、開催国枠を含めて最大3。世界で上位になるのはもちろんのこと、日本で3位以内に入っている必要があるという、非常に熾烈な争いとなっている。

 五輪では競泳、体操、サッカー、フィギュアスケートなど、年齢制限を設ける競技団体もあるが、スケートボードにはない。夏冬通じて日本勢の史上最年少出場は1936年冬季ガルミッシュ・パルテンキルヘン五輪フィギュアスケートに12歳で出た稲田悦子。開の誕生日は2008年8月26日で、東京五輪に出場すれば11歳11カ月だ。

 史上最年少での五輪出場という快挙も視野に入れる開だが、「オリンピックは出られたら良いけど、あまりいろいろなことは考えずにやっています。一番嬉しかったのは、ずっと出たいと思っていた8月のVANSフランスで優勝したこと」と言う。

 今はとにかくスケートボードを一生懸命に楽しみながら成長していくのが一番。もちろん、その先に東京五輪や五輪でのメダルがあればベストだろう。ピュアな思いのままで前進していく11歳を見守っていきたい。

11歳のナチュラルな笑顔(撮影:矢内由美子)
11歳のナチュラルな笑顔(撮影:矢内由美子)

☆開心那(ひらき・ここな)2008年(平20)8月26日、北海道倶知安町生まれ。5歳でスケートボードを始め、17年に国内最大規模のキッズコンテストで優勝。日本選手権は18年4位、19年優勝。得意なトリックは「フロントサイド・ノーズグラインド」「バックサイド・ノーズグラインド」「クレイルスライド」「バックサイドキックフリップ」。得意科目は図工で工作や絵を描くのが好き。名前の由来は南国好きの母が「ココナッツ」から付けた。食べ物では生野菜が苦手。海外遠征には漢字ドリルなどを持って行き、勉強もがんばっている。身長149センチ。家族は父・洋介さん、母・美奈子さん、4歳下の弟・万那杜(まなと)くん。血液型はO。

優勝してカップを掲げる(撮影:矢内由美子)
優勝してカップを掲げる(撮影:矢内由美子)

◆東京五輪のスケートボード種目◆  ストリートとパークの2種目があり、両種目とも技(トリック)の難度、スピード、構成、独創性などを競う採点競技。ストリートは街中にあるような階段、手すりなどを模したコースを使用。パークはコンビプールと呼ばれるお椀を複雑に組み合わせたようなコースで争う。

サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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