米国・英語依存はAIのリスク?デンマークに必要な独自データ戦略
人口規模が小さい北欧諸国では、世界的な競争の中で、いかに独自の方法でAIを発展させていくかが懸念の的となっている。
デンマークのスタートアップイベント「TechBBQ」では、EUの規制と建築業界におけるAI活用の倫理的側面について議論が行われた。
デンマーク企業が直面する課題
- 現時点では、AIに関する法整備が不十分である
- AIを学習させる際に、使用する素材の著作権をどのように尊重するか?
- AIは誤りを犯すこともあれば、バイアスが含まれることもある。AIモデルを作成する際には、どのようなデータを入力するかを慎重に考える必要がある
- 「何をデータに含めないか」は、AIに関する最大の倫理的問題の一つである
- 説明責任や責任を負いたくない企業は、AI時代でも変化を避けようとする傾向がある
デンマーク建設業界の課題と可能性
デンマークの建設業界では、テクノロジーや変化に対する抵抗が依然として強いという声が登壇者たちの口から出た。現場の価値観は昔のままであり、特に中小企業をデジタルやAIの活用に向けて説得するのは困難だ、と。
一方で、建設業界の多くは中小企業で、エンジニアの多くは文章を書くことが得意ではない。もし、AIを活用して文章化をサポートするツールが導入されれば、大きな変革も期待できる。
英語や米国データへの依存リスク
デンマークの政治家で、Karen Melchior元欧州議会議員(2019~2024)は、デジタル著作権と民主主義の専門家として、北欧のような市場規模が小さい国々が直面する課題を指摘した。
「デンマークのように話者数の少ない言語を使用する国だけでなく、アイスランドやラトビアのような国々でも問題が生じます。もし、すべてが英語や米国のデータでトレーニングされるなら、他の文化や地域に対する理解はどう確認されるのでしょうか?」
デンマーク独自のデータセットの構築が必要
「AIを学習させる際に、特定の文化や場所を無視する非多様なデータでトレーニングするのは問題です。特に、著作権で保護されたデータをどうAIに学習させるかが重要です」
「たとえば、建設業界では都市計画や建築において、貨物用自転車と一般用自転車の両方に十分なスペースを確保するにはどうすればよいか、という問題に直面したとします。そのために必要な著作権保護データを、どのように取得するかが課題です」
「デンマークではすでに、独自に共有可能なトレーニングセットを開発し、それを基に発展を進める必要があります」
AI透かしに対する懸念
「もしあなたがコンテンツを作成するなら、AIが開発したものには『透かし』を入れることが賢明です」
「しかし、問題は悪意ある行為者がAIで作成したものに透かしを入れない可能性があることです。これにより、悪質な行為者は制限を受けず、逆に善意のある行為者が制限を受けるリスクがあります。大企業が特に懸念するのは、データを共有することで、競合他社がAI訓練に利用し、同じ行動を取るようになることです」
AIのリスク管理
AIは完璧ではなく、偏っている可能性があることを前提に「高品質な」データにこだわることが重要だ。さもなければ、社会全体が危険にさらされる恐れがある。
「特に安全に関わる分野でAIを使用する場合、突然リスクが高まる可能性があります。だからこそ、適切な手順と管理を整え、責任ある使用を徹底しなければ」とMelchiorさんは警報を鳴らした。
執筆後記
AI技術が世界中で急速に進化するなか、デンマークのような小規模な国々は独自の課題を抱えている。
EUのAI規制法に必死についていきながら、米国や英語のデータに依存しないような強靭性と独自のデータセットを育てなければいけない。
日本も世界のAIの流れを追いながら、独自の道を切り開いて、自立した生存力を養っていく必要があるだろう。