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シンシナティ現地リポ1:五輪がもたらす種々の想いを受け止めて、奈良くるみと杉田祐一、予選突破し本戦へ

内田暁フリーランスライター
急きょ決まった初出場のリオ五輪で、初戦を突破し勝利も手にした杉田祐一(写真:ロイター/アフロ)

「スケジュールが厳しすぎる」「ポイントが無いのは辛い」「ジカ熱が怖い」

そんな否定的な声がささやかれながらも、終わってみれば錦織圭の銅メダルのみならず、ファンマルティン・デルポトロの感動の復活劇やアンディ・マリーの2大会連続金メダル、さらにはモニカ・プイグのプエルトリコ初金メダル&女性初メダル獲得など、様々な物語と涙に彩られたリオ・オリンピックのテニス。

その余波は広がり、本日開幕したシンシナティ大会(Western & Southern Open)を戦う日本人選手たちの心にも、種々の意味を帯びながら染み込んでいったようです。

「今思うと、やっぱりオリンピックを意識していたのかな……」

そう言い面映ゆそうな笑みを浮かべたのは、奈良くるみでした。

それはつい最近まで、意識していることすら意識していなかった願い。それがオリンピックが近付くにつれ、「1年前のランキングだったら、自分も出られていたかも」との歯がゆさが浮かんできたと言います。

しかし同時に、「今の自分がオリンピックに出たとして、何ができただろう」との疑念も生まれる。

それら迷いや葛藤に一つの答えを出せたのが、五輪直前での招集にも関わらず、大舞台で力を発揮し勝利も手にした杉田祐一とダニエル太郎の姿を見た時でした。

「杉田さんと太郎君は、いきなり呼ばれてもしっかり準備ができていた。きっと今の私だったら、あそこに立っても、自分の力を出すことはできなかったと思います」

現在の立ち位置を自覚したその時、彼女はモヤモヤとした思いを振り切ることができたのでしょう。今年は、故障が重なりモチベーションの持続が難しい時期もありましたが、ケガが癒え、トレーニングに打ち込み身体が動くようになるにつれ、心も上を向き始めたと言います。

「わたしのテニスは、身体が動いてなんぼ」

その言葉を体現するかのように、シンシナティの予選2回戦でも実力者のナップの強打に追いつき、跳ね返し、粘り強く組みたてながら相手を崩す「わたしのテニス」を披露し快勝。苦しさを抱えていた日本の元ナンバー1に、“らしさ”が戻ってきました。

一方、奈良に迷いを抜ける契機を与えた杉田は、今、キャリアで最も充実した時を過ごしているでしょう。五輪の杉田を見た際の奈良の想いを伝えると、「いや~、くるみちゃんなら、オリンピック出ても絶対にしっかり戦えたでしょう」とエールとも取れる異見を述べつつ、「五輪でも自分のインパクトを残そうと思っていた」と、充実感を表情にもにじませます。1年半ほど前からオリンピックを意識し、その上でツアーの周り方やチーム体制をも考慮してきた成果は、今季の自己最高ランキングや、ツアーでの活躍として結実。その足跡を思えば、今回の五輪出場も必然だったのかもしれません。

シンシナティ予選では初戦が53位のペラ、2回戦はエドムンドと難敵との対戦が続きましたが、ATPツアー定着を念頭に置きこの1年を戦ってきた杉田に、気負いも気後れもありませんでした。初戦はフルセットの熱戦、2回戦はストレートの快勝で本戦へ。

「今は自分が何で勝負しているかわかっています」

そう言いきる迷いなき信念で、今回のマスターズでも「インパクトを残す」ことを狙います。

※テニス専門誌『Smash』のfacebookから転載。連日、テニスの最新情報をお届けしています。

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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