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猛暑の夏、栗山千明『晩酌の流儀2』は、ビール好きの「オアシス」になった!

碓井広義メディア文化評論家
ビール好きのヒロインを演じる栗山千明さん(番組サイトより)

暑中お見舞い、申し上げます! 

それにしても暑過ぎですよね。

猛暑日には、仕事を終えたら「とにかく冷たいビールが飲みたい!」という人、私を含め少なくないと思います。

帰ってきた、ビール好きのヒロイン

そんな今年の夏、ビール好きのヒロイン、伊澤美幸(栗山千明)が帰ってきました。

堂々の「シーズン2」となった、ドラマ25『晩酌の流儀2』(金曜深夜、テレビ東京系)です。

不動産会社に勤務する彼女は、一日の終わりに、美味しい酒(主にビール!)を飲むことを無上の喜びとしています。

最高の状態で酒と向き合うためには、周到な「準備」も必要。美幸は効率よく仕事をし、定時に退社して、ボルダリングやボウリングで汗を流したりします。

さらに、行きつけのスーパーで、安くて旨い食材を探す。

モットーは「家飲みで一番大事なのは、最小のコストで最大のパフォーマンスを出すこと」。

帰宅後、 手早く作る料理は、「ガーリック豚テキ」や「茄子の揚げびたし」など。

また、家での「焼き鳥」や「握り寿司」にも挑戦してきました。

そして、毎回の見せ場が「待望の1杯目」です。

うっとりした目でビールが注がれたグラスを見つめ、やがて静かに、しかし情熱的に黄金色の液体を喉に流し込む。

これがまた、実に美味そうで。

そして2杯目。

美幸は「これが私の流儀だ!」と、冷蔵庫から別のグラスを取り出します。

適度に冷えた状態のグラスで飲み続けたいからです。

このこだわりが、ビール好きには嬉しいんですね。

グルメドラマと社会の価値観

振り返れば、グルメドラマは社会の価値観の変化を反映してきました。

「食と向き合うドラマ」という新ジャンルを切り開いたのは『深夜食堂』(TBS系)です。

次に架空の人物が、一人で実際の店に行って食事をする構成を、『孤独のグルメ』(テレビ東京系)が完成させました。

好きな場所で好きなものを食べる自由という幸せを提示した『孤独のグルメ』。

さらに、一人飯のネガティブなイメージ も払拭し、個人の多様性を尊重する社会に先駆けたのです。

『孤独のグルメ』の成功により、多くの「一人飯ドラマ」が派生しました。

たとえば、町中華を愛するタクシードライバーが主人公の『ザ・タクシー飯店』。

絶滅してしまうかもしれない地方の食堂と、絶品メシを求めて車中泊の旅をする『絶メシロード』などです。

前述したように、かつて「一人飯」は「ぼっち飯」などとも言われ、マイナスイメージが強いものでした。

しかし、「個の自由」と「多様性」を大切にする考えが広まったこともあり、「一人飯」も共感を呼ぶようになっていきました。

しかも、深夜のグルメドラマに出てくるのは、高級店や高級食材ではありません。普通の食堂や食材が中心です。

無理をしなくても手が届く幸せを、じんわりと肯定してくれているのです。

家飲み&一人晩酌という「愉楽(ゆらく)」

長く続いたコロナ禍の中で、「家飲み」に注目したのが、昨年登場した『晩酌の流儀』でした。

自分の家で、誰にも気兼ねすることなく、好きな酒を、好きな料理と共に味わう。

一見当たり前のような行為の中に、自分にとっての価値を再発見したのです。

食も酒も身近な存在でありながら、実に奥の深いテーマです。

おかげで、グルメドラマには幅広い年齢の視聴者が集まってきます。

またテレビ局にとっては、小さな予算で制作可能な優良コンテンツでもあります。

今や刑事ドラマや医療ドラマと並んで、ドラマジャンルの新定番となった感がある、グルメドラマ。

「一人飯」や「一人晩酌」の次は、一体どんな仕掛けが登場してくるのか、楽しみです。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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