ホワイトハウスのハンバーガーはぶぶ漬けか?五輪開催支持の言質も取れなかった日米首脳会談
管総理にとってもバイデン米大統領にとっても初となる日米首脳会談が、米国の首都ワシントンで行われました。報道では開かれたインド太平洋地域に対する言及や歴史的とも言える「台湾」に関する言及に触れられるなど、米国の考える「対中国包囲網」の一環としての日米首脳会談という位置づけが鮮明に出た内容だったように思います。
一方、日本側としては東京五輪への開催支持の取り付けや、「安倍ートランプ」ラインに続く「菅ーバイデン」ラインの構築が目的だったといえます。管首相にとっては外交は課題と言われていますが、まずは何よりもアジア太平洋地域におけるプレゼンスの後ろ盾でもあり、同盟相手である米国との関係性構築ができなければ今後の外交も多難になることがみえています。
結果として筆者は、日米首脳会談は終始米国主導で進み、結果的に日本側はお土産も無い形の厳しい結果だったと指摘せざるを得ません。今後の日米関係や五輪開催可否にも大きくかかわる日米首脳会談について切り込んでいきたいと思います。
五輪開催の「努力」への支持に留まる
筆者は、何よりも米国側が東京五輪開催について明確な支持をしなかったことが今回の会談の本来のハイライトと考えています。
日米首脳会談の共同記者会見後に出された共同声明を読む限りでは、バイデン米大統領が「選手団派遣の確約」したとは受け取れず、会見でも菅義偉総理が「バイデン大統領から開催に対する決意を支持していただいた(I told the President about my determination to realize the Tokyo Olympic and Paralympic Games this summer as a symbol of a global unity. President Biden once again expressed his support for this determination.)」などと述べるに留まりました。
また会見の際、記者からの「バイデン米大統領は菅首相に、米国選手団を送ることを確約しましたか?」という質問に、やはり菅首相は「バイデン大統領から開催に対する決意を支持していただいた(I expressed my determination to realize the Tokyo Olympics and the Paralympic Games as a symbol of global unity this summer. And President Biden, once again, expressed his support.)」と繰り返すだけでした。
日米首脳会談の直前にはニューヨーク・タイムズ紙が「東京五輪は一大感染イベント」と題する記事を公開するなど、米国内では東京五輪開催に否定的な意見も多くみられます。現状で米国選手団を送るかどうかなどといった判断を急ぐことはバイデン米大統領にとってメリットもなく、結果的には「ゼロ回答」に近い結果だったと言えるでしょう。
「夕食会」がランチになった挙げ句、ハンバーガーに
今回の日米首脳会談は、そもそも当初の予定から1週間遅れて開催されました。日米の間で調整が遅れているということでしたが、サブ・ロジ交渉(サブとはサブスタンスの略で、議題や次第、発言などの実質的な会談の内容を調整する役割のこと、ロジとはロジスティクスの略で、会場準備や随行人員に関する調整をする役割のこと)が上手くいっていないことは明らかでした。日本側はバイデン米大統領にとって初となるホワイトハウス外交であることにも注目して、日米首脳の関係構築を目的とした夕食会のセッティングを依頼したとされていますが、最終的にはランチになった挙げ句にハンバーガーが出された形でのテ・タテ会談(通訳のみでの1対1の会談)に留まりました。
上記の写真はホワイトハウスが提供し、バイデン米大統領のTwitterアカウント@POTUSにも掲載された写真ですが、ハンバーガーを前にソーシャルディスタンスとはいえ一定の距離を取り、マスクを取らずに会談をする姿からは一定の距離感も感じ取ることが出来ます。菅首相は「(ハンバーガーに)全く手をつけないで終わってしまった。そのぐらい熱中していた」とコメントをしていますが、この1対1の会談では双方の孫の話など家族に関する話や、これまでの人生経験など主にプライベートの話題が中心であったものの、たったの20分程度であったことも明らかになっています。コロナ禍ということもあり、本来の国賓や実務者協議級で行われる夕食会や晩餐会の実施は絶望的だとしても、ハンバーガーを前にそれぞれのプライベートを20分程度話したことが、本来目指していた首脳間の関係構築まで獲得できたのかと言われると、厳しいのではないのでしょうか。
更に言えば、米国内では、今回の会談や各種行事を不安視する声も多くありました。米国内の世論が夕食会や晩餐会の実施を認めるわけもない中、コロナワクチンの予防接種を先行して受けてまで訪米の形での会談にこだわった日本側と、それを向かい入れる米国側に温度差があったことは明らかです。夕食会という形は無理にしても、日本側の「親密ムードの演出、関係構築」という点に対するこだわりの落としどころがハンバーガーなのであれば、これは米国側による、いわゆる京都の「ぶぶ漬け」の意味を持つ意趣返しだったとも言えるでしょう。
帰国後も感じた日米首脳の温度差
日米首脳の温度差は、帰国後のツイートでも感じ取ることができました。帰国後にまず菅首相がバイデン大統領への感謝の意を伝えるツイートを行い、それに答礼する形でバイデン大統領がツイートする形でしたが、まずはそのツイートをみてみましょう。
菅首相は、首脳会談でも約束をした「お互いをジョー、ヨシと呼び合おう」という流れに基づいて「ジョー」と呼び、ややくだけた表現で「開かれたインド太平洋地域」について言及しているのに対し、バイデン大統領は「管総理大臣」と呼び、菅首相と比べるとやや堅い表現で同様の言及をしています。ここでも当然のように東京五輪の話は出ず、「また会いましょう」的な話がなかったことからも、あくまで米国側は今回の菅首相の訪米を「開かれたインド太平洋地域」のための布石の一つという位置づけにしており、東京五輪の問題は別というスタンスを崩していません。
米国側は本来の目的を達成か
米国側からすれば、今回の日米首脳会談は冒頭に記したとおり、米中の緊張関係を発端とする「開かれたインド太平洋地域」戦略の一環でしかありません。台湾に対する政府高官や非公式外交団の派遣などといった動きと連動して日米首脳会談が開かれたことも同様です。また、コロナの感染拡大により中止の見込みが強まってきましたが、この日米首脳会談の直後に予定されていたインド、フィリピンへの訪問が控えていたことからも、アメリカ側は今回の日米首脳会談を嚆矢として、インド太平洋地域における米中関係の構図構築を狙いたいという意図が透けてみえます。
いずれにせよ、日本に対して東京五輪開催の保証をせずとも、「バイデン米大統領にとって初めて対面で行った首脳会談の相手」という地位を保証し、表面的な仲の良さアピールを行ったことで日本側の面目を保ちつつ、しっかりと「開かれたインド太平洋地域」戦略の構図に日本を入れていくという目標は達成したと言えるでしょう。言い換えれば、今回の日米首脳会談のアメリカ側の目的は「名を捨てて実を取る」であり、まんまと日本側はその術にはまったとも言えます。
米国側は1ヶ月をめどに五輪選手団の派遣について結論を出すと思いますが、その結論が日米の関係性にどのような影響を与えるのか、また(善し悪しは別として)安倍・トランプラインのような親密な関係構築を菅・バイデンラインで確立できるのか、今後も注目です。