恩師の声援と子供たちの点字カードに応えた全盲スプリンター高田千明さん パラ陸上走幅跳で銀メダル
[ロンドン発]ロンドンのクイーン・エリザベス・オリンピック・パークで開かれている世界パラ陸上選手権大会7日目の7月20日、女子走り幅跳び(視覚障害T11)でリオデジャネイロ・パラリンピック代表の高田千明さん(32)=ほけんの窓口=が自分の日本記録を2センチ更新する4メートル49で2位に入り、堂々の銀メダルを獲得しました。
表彰式は21日夕方に行われます。2011年IBSA世界大会(視覚障害者の世界大会)200メートル走銀メダル、100メートル走銅メダル、14年アジアパラ走り幅跳び銀メダルの実績を持つ千明さんですが、20年東京五輪・パラリンピックのメダル獲得に向けて大きく前進しました。
応援に駆け付けた小学校時代の恩師、太田裕子先生に「いつも1本目の記録が一番良いので、1本目が勝負」と話していた千明さん。この日は飛ぶごとに記録が伸びました。1本目4メートル34、2本目無効試技、3本目4メートル45(向かい風0.6メートル)、4本目4メートル49(向かい風0.4メートル)、5本目無効試技でした。
優勝したイタリアのDedaj Arjola選手は4回目の試技で4メートル65(追い風0.4メートル)を飛びました。
太田先生によると「今日は記録が飛べば飛ぶほど伸びました。千明ちゃんは歓声が大きくなると、踏み切りのタイミングを知らせるコーラーの声が聞こえなくなるのを心配していました。しかし、試技の時には観客席は静かになり、パラ競技の応援の仕方が浸透していることが分かりました」という。
太田先生は現在、文部科学省の派遣でロンドン日本人学校小学3年の担任をしています。同僚教員の池田沙織先生と協力して、子供たち約40人に点字指導をして、千明さんを応援する点字カードを作りました。
心のこもった点字カードは、ロンドンに到着した千明さんの手元に太田先生が届けました。銀メダルを獲得した千明さんは早速、太田先生に「応援してくれた子供たちに是非、お礼に行きたい」と電子メールをくれたそうです。
太田先生は「千明ちゃんが小学校5~6年の頃、私は弱視学級の担任をしていました。目が悪いのに、とても運動ができる女の子でした。あんなに小さかった千明ちゃんが自分の目の前で銀メダルを取るなんて夢のようです。こんなに活躍できるのは本人の努力の賜物」と声を弾ませました。
千明さんを取材していて感じたのは、100メートル走の伴走者、走り幅跳びのコーラー、そしてコーチの1人3役を務めた元五輪代表選手、大森盛一(しげかず)さん(45)の存在です。大森さんは 92年バルセロナ五輪1600メートルリレー走、96年アトランタ五輪では400メートル走に出場、1600メートルリレー走では5位入賞を果たしました。
引退後は会社に勤めながら社会人陸上クラブの指導者として活動しています。世界ユース陸上競技選手権100メートル走、200メートル走で優勝し、2冠を達成したサニブラウン・ハキームさんは小学生の頃、大森さんの指導を受けていたそうですが、大森さんはおくびにも出しませんでした。
ケンブリッジ飛鳥さんやサニブラウン・ハキームさんが陸上競技で活躍するようになったことについて、「最近の子供たちは小さな頃からケンブリッジ飛鳥さんやハキームさんのような子供たちと日常的に接しているので、肌の色の違いに偏見を持っていません」と話してくれました。こんなに謙虚な人がいるのかと、大森さんの人柄に非常に感銘を受けました。
大森さんの渡航費は、高田さんをサポートする保険代理店運営会社「ほけんの窓口」が出してくれました。日本のパラ・スポーツはまだまだ個人の情熱や企業の厚意によって支えられているのが実情のようです。
【今大会の日本人選手の主な記録】
中西麻耶 走幅跳T44 銅メダル
和田伸也 5000メートルT11 銅メダル
佐藤友祈 1500メートルT52 金メダル
上与那原寛和 1500メートルT52 銅メダル
芦田創 三段跳T47 銅メダル
山本篤 走幅跳T42 銀メダル
佐藤友祈 400メートルT52 金メダル
上与那原寛和 400メートルT52 銅メダル
(おわり)