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「光る君へ」藤原道長役が評判の柄本佑「左足で踏み出すことをやり続けることが自分の重心を下げてくれる」

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
「光る君へ」より 写真提供:NHK

良かれと思ってやったことが悲劇に繋がってしまった

これまでの大河ドラマと違うと話題の、「光る君へ」(NHK)。第11回まで放送され、第一部的な部分がまとまりかかっている。

主人公まひろ(吉高由里子)と藤原道長(柄本佑)の出会い、恋、そして別れ? 第11回は、まひろの要求に応えきれず道長は混乱してしまった。

ふたりの激しい恋が、道長を最高権力者の道を歩ませていく。これまで恋が政治の原動力であった大河はあっただろうか。

まひろに翻弄される道長と向き合う柄本佑に、道長の心のうちをどう解釈しているか聞いた。

――第11回まで放送され、道長とまひろの物語がかなり動きました。

柄本佑(以下柄本)「第一部的なところが終わって、ここからまたもうひとつ、話が進むのだろうと思います。第11回までで僕が最も印象に残っているのは、第9回の鳥辺野のシーンで、物語全体の要のひとつになると思ってやらせていただきました。あのシーンを振り返ると、理屈ではなくて、感情で演じたような気がします。例えば、台本上では『すまない』『彼らを殺したのは俺なんだ』とまひろ(吉高由里子)に懺悔しているのですが、実際に演じたときは、目の前に倒れている、もう何も聞こえない、何も見えない散楽の仲間たちに向かって『すまない』と言うのではないかなと思って、そうしてみました。道長は、三男坊ということもあって、ある種、ぼんやりしたところもありながら、その一方で、周りの事を意外とよく見ています。逆に末っ子的な立場だからこそ、ちょっと引いたようなところがある。そういう道長があのシーンにおいて、はじめて直接的に、散楽の仲間たちに感情をぶつけたのかなと。それまでは、まひろにだけは素直だったけれど、ほかの人達には本心を話さずに来た道長が、はじめて散楽の仲間たちに本音を語りかけた体験が、これから先、彼が偉くなっていく過程の中で、大事なベースになるのではないか、そんなふうなことを思いながらやっていたような気がします。撮影のときは、感覚的でしたが、いま思うと、そういう理屈になるかなと思いました」

――散楽の人たちの死が道長のなかにずっと残っていくと。

柄本「良かれと思ってやったことがこのような悲劇に繋がってしまったという負い目はずっと残るのではないかと思います」

――番組が好評です。周囲の反響は何か聞いていますか。

柄本「僕が小学生のときから知っている近所の花屋さんが『面白い』と言ってくださいました。その方は書道などもやられていて、時代劇も大好きなんですって。道ですれちがったときに『面白いよ、すごく面白い』と感想をくれて、そういう意見を聞けることがとても嬉しいです」

――ご自身は毎週、オンエアを見て、どんなことを感じていますか。

本「僕は自分が出ている番組を見ることが苦手でして……(笑)。客観的なことはあまり言えないのですが、大石さんの書かれる脚本がとっても面白いですよね。まひろと道長は気持ちが通じあっているにもかかわらず、なかなか結ばれていかないというラブストーリーと藤原家の政治の物語が面白い交わり方をしながら、スピーディに展開し、でも重厚なところは重厚という内容で、ドラマを観てくださる方に45分間をあっという間に感じていただける作品になっているのではないかと思っております。僕自身、台本で読んでいてもあっという間に読み終わっちゃうんです。オンエアを見て思うのは、各回、監督によって演出の個性があって、前の回の監督がこの角度から攻めたから、今回の監督はこの角度から攻めたのかな、なんてことを思いながら見ています。それぞれの個性がはっきり出ていて面白いですよ」

「光る君へ」より 写真提供:NHK
「光る君へ」より 写真提供:NHK

愛憎ひっくるめて、ソウルメイト

――まひろとの今後の関係が気になります。どうなっていくのでしょうか。

柄本「2人の関係はちょっとよくわからないんですよ。というのは、台本を読んだ印象だと、まひろと道長のシーンは、思いが行ったり来たりするんですよね。特にまひろのセリフに一貫性がないんです。たとえば、ひとつセリフを言って、僕の一言を挟んで、次に言うセリフが、前とは真逆だったりするんです。大石さんはなかなかいけずな脚本を書きますね(笑)。そこで思うことは、道長はまひろに向かって、真っ直ぐ本音でぶつかっていくしかないということなのかなと。それが良くも悪くもソウルメイトである所以なのかなと」

――そういう難しい演技をやるにあたり、吉高さんと相談はしますか。

柄本「言葉でいちいちこのシーンはこういうことだよね、などと確認しなくても済んでいるような気がしますただ、感想は言い合ったりしますよ。あのシーンの脚本読んだ? ちょっと長くない? めっちゃ長いやりとりが多いよね、頑張ろう、みたいなラフな会話はよくしています。大石さんの一筋縄ではいかない脚本に、一緒に挑んでいる感じです」

――道長はまひろのことをどう思っているのでしょうか。

柄本「そういうご質問をよく頂き、その度に答えていることなのですが、言葉で表現できるような惹かれ合いの強さではないんですよね。どんなに会わないようにしていても奇しくも出会ってしまうし、お互いのどこに惹かれているか、どこを憎んでいるか、愛憎ひっくるめて、ソウルメイトみたいなイメージです。もう少し言葉にしてみると、まひろの猪突猛進な真っ直ぐさみたいなところに、道長は惹かれているのかなと。それは僕が思う、まひろの魅力かもしれませんが。まひろというフィルターを介してセリフのやりとりをしていて、吉高さんがすごいなと思うのは、まひろが真逆のようなことを言うとき、それは明らかに矛盾しているにもかかわらず、どっちも嘘じゃなく聞こえるんです。別に嘘をついているわけじゃないし、真逆なことを言って翻弄してやろうっていう事でもない全部、本心なんですね。そこが魅力だと感じています。道長はまひろの、嘘のないところに惹かれている気がします」

――吉高さんの俳優としての魅力をどこに感じますか。

柄本「吉高さんと長いシーンをやると、毎回、彼女の懐の深さをすごく感じます。吉高さんは、強いのに、弱くもあるみたいな風に見えて、佇んでいるだけで、こちらの感情が揺さぶられるんですよ。セリフを覚えて、衣装をつけてメイクをしながらできあがった道長が、吉高さんが演じるまひろに引っ張られて変わる。とくに印象に残っているのは、第5回の告白シーン。あそこは非常に心が動いて印象に残っています」

「光る君へ」より 写真提供:NHK
「光る君へ」より 写真提供:NHK

「ゴッドファーザー」のマイケル・コルレオーネのように

――道長を演じながら、最初の頃と変化してきたことはありますか。

柄本「藤原道長役のオファーをいただいたとき、学校で習う知識だと、時の権力者としての、ある種ヒールっぽいイメージがありました。でも、最初は道長を演じることよりも、大石さんが書かれて吉高さんが主演をされるやる現場にまた参加できることがまず楽しみでした。過去に一度、おふたりと一緒にお仕事して(「知らなくていいコト」)それがとても楽しかったから、ニュースで、大石さん脚本、吉高さん主演の大河をやることを知ったとき、いいな、楽しそうじゃんと思って(笑)。だから、お話をいただいた時は単純にこの座組に入れる喜びからはじまって、そこから道長を演じるために、役を探っていったわけですが、最初に打ち合わせをした時、大石さんが、実は人間味があったとか、末っ子ののんびり屋で、最初は兄たちが政治的なことを担っていたので、そこまで前に出ることはなくのんびり生きようと思っていたら、なぜかあれよあれよと権力の頂点に立ってしまうという、そういう道長像をやりたいんですとおっしゃって。『ゴッドファーザー』のアルパチーノが演じたマイケル・コルレオーネみたいにしたいというので、それがプレッシャーになりました。その時、ちょうど、何の因果か、俺、池袋の新文芸坐で、『ゴッドファーザーPARTⅡ』を見たばかりだったんですよ。あれかい!と思って(笑)。そんなこともありながら、あとは、いろいろな本を読みました。けれども千年以上前のことで、どんなに読んでもディテールがわからない。それが逆に良かったかもしれないです。記録として残ったものから皆さんが思い浮かべる道長像よりも、大石さんの書く道長像に向かっていけばいいと思ってやっています」

――「ゴッドファーザー」のような藤原家はいかがでしょう。

柄本「段田安則さんを筆頭に、井浦新さん、玉置玲央さん、吉田羊さん、僕と、みんなキャラが濃いですが、どことなく家族に見えますよね?(笑)。段田さんが演じる兼家のリードで藤原家が一丸となっていくときの段田さんの芝居には痺れましたし、新さんの、物腰が柔らかかったのが、どんどん攻撃的になっていく様と、玲央さんの狂気と、勝ち気な羊さんと、皆さん、強すぎるなかで、道長は世間知らずなところもありのんびりしているキャラなので、できるだけ存在感をいかに消せるかみたいな感じでやっていました」

――実生活では長男の柄本さんが末っ子を演じるのはどんなお気持ちなのでしょうか。

柄本「僕はお兄ちゃんに憧れていたんですよ。だからその感情は芝居に滲み出ているかもしれないです。もしかしたら、実生活では兄貴である俳優が、兄貴の役を演じたり、弟が弟を演じたりするよりも、立場をクロスした方がもしかしたら面白いのかもしれないですよ」

「光る君へ」より 写真提供:NHK
「光る君へ」より 写真提供:NHK

左足で踏み出すことをやり続けることが自分の重心を下げてくれる

――平安時代の人物を演じてみていかがですか。

柄本「時代は平安の設定ではありますが、平安らしさよりも“普通”ということが求められているのかなという気がします2024年を生きている自分というものがものすごく大事な気がしながら、日々演じています。“平安”だなんて思ったらもう即座に終わるなって思ってやっています(笑)」

――とすると、平安時代、あるいは『源氏物語』などに関する映画などもまったく見ていないですか。もし何か見た作品があったら教えてください。

柄本「吉村公三郎さんが監督して新藤兼人さんが脚本を書いた『源氏物語』(カンヌ国際映画祭撮影賞受賞作/1951年)は観ました。光源氏を演じている長谷川一夫さんが、紫の上を演じている乙羽信子さんをひょいっと持ち上げ馬に乗せて連れ去るシーンがあって、その力強さは今回のドラマとはちょっと世界が違うなあと(笑)。そんなこともあって、今回はあまり当時のことを描いた作品を参考に見ていないのですが、衣装やセットの説得力がすごいので、それだけで十分な気がしています。へんにたくさん関連作品を見ると、頭でっかちになってしまうこともあるんですよね。ただやっぱり何をやるにしても所作は大変なんですよ。特に何が難しいって、歩くことが非常に難しい。弓とか馬とか練習することがいっぱいあって、そのなかでものすごくミニマムな“歩く”という行為の重要さに行き着き、撮影前には衣装を着て歩く練習をずっとしていました。とくに専門的な歩き方ではなくて、普通に歩いているだけなのですが、自然に振る舞うことこそが難しい。歩き出しや、階段を上るときの一段目が必ず左からと決まっていて、これがね、案外難しいんですよ。意識すると、つんのめってしまいそうになったりして。常に当たり前に左から踏み出せるように、日常から意識して自然に体に溶かし込んでいけたらいいなと思ってやっています。画面に映るか映らないか、見た方に伝わるか伝わらないかは別にして、日々、左足で踏み出すことをやり続けることが、自分の重心を下げてくれるというか、何かに導いてくれるのかなというふうに思っています」

――髪は、髷を地毛で結うために伸ばし続けているのでしょうか。

柄本「去年の5月くらいから撮影に入って、そのときは結うためにギリギリ足りるくらいで、もうちょっと伸びたらいいなあという長さから始まったんです。それが今やちょっと伸びすぎて、髷を一回、折りたたんでちょうどいい長さにしています。半かつらのかたもいますが、地毛でやらせてもらって、良い点は、セッティングに時間がかからないことです。あと、髪に触ることも地毛なら躊躇しないでいい。かつらだとセットが崩れそうで、触ることを遠慮してしまうんですよね」

「光る君へ」より 写真提供:NHK
「光る君へ」より 写真提供:NHK

本当の人間性と、藤原家のトップとしての責務とのはざまで

――今後の道長はどうなっていきますか。

柄本「じょじょに家族がいなくなって、道長が権力を持ち、政治に向かっていきます。そのときの彼の気持ちは、とにかく“藤原家”を残して行くこと。彼のこれからは、自分自身の本当の人間性みたいなところと、藤原家のトップとして“家”を存続させていく責務とのギャップみたいなものと葛藤していくのかなと思っています」

――おそらくいままでで一番偉い人を演じているのではないでしょうか。

柄本「そうですね、たぶん一番偉いんじゃないですかね(笑)。今後この偉さを超える役もなかなかないかもしれないです」

――権力者を演じる難しさはありますか。

柄本「今まさに、その権力者をどう演じるか奮闘している真っ最中です。はっきりとしたことは言えませんが、道長は、最高権力者というよりも、やはりひとりの人間であるみたいなことを感じています。もちろん、権力者としての振る舞いを求められる局面もありますが、一番大事にしているのは、自分で土を掘って埋葬した散楽の仲間たちのことです。そして、末っ子ののんびり屋であったことなんです」

「光る君へ」より 写真提供:NHK
「光る君へ」より 写真提供:NHK

profile

えもと・たすく

東京都出身。2003年、映画『美しい夏キリシマ』でデビュー。その後の主演作に映画『17歳の風景~少年は何を見たのか』『素敵なダイナマイトスキャンダル』『きみの鳥はうたえる』『ポルトの恋人たち 時の記憶』『先生、私の隣に座って頂けませんか?』『火口のふたり』『シン・仮面ライダー』など。NHKでは連続テレビ小説『あさが来た』、ハイビジョン特集ドラマ『生むと生まれるそれからのこと』、NHK大分放送局 開局70年記念ドラマ『無垢の島』、プレミアムドラマ『平成細雪』、『スローな武士にしてくれ~京都撮影所ラプソディ』、正月時代劇『家康、江戸を建てる 金貨の町』、大河ドラマ『いだてん』、土曜ドラマ『心の傷を癒すということ』『空白を満たしなさい』ほかに出演している。

大河ドラマ「光る君へ」(NHK)
【総合】日曜 午後8時00分 / 再放送 翌週土曜 午後1時05分【BS・BSP4K】日曜 午後6時00分 【BSP4K】日曜 午後0時15分
【作】大石静
【音楽】冬野ユミ
【語り】伊東敏恵アナウンサー
【主演】吉高由里子
【スタッフ】
制作統括:内田ゆき、松園武大 
プロデューサー:大越大士、高橋優香子
広報プロデューサー:川口俊介
演出:中島由貴、佐々木善春、中泉慧、黛りんたろう ほか

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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