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日本代表メンバー発表を前に。ハリルホジッチ監督の”申し子”になりうる選手は?

河治良幸スポーツジャーナリスト

本日いよいよ、ハリルホジッチ監督が就任して最初の日本代表のメンバーが発表される。

今月27日のチュニジア戦、31日のウズベキスタン戦に向けたメンバーとなるが、海外組には監督が就任する前に霜田正浩技術委員長から招集レターが送られ、国内組も有力選手のリストが監督に渡されているとも言われる。就任会見でも「リストとしては少し今までと同じになるかもしれない」と語り、スタートの時点ではアジアカップのメンバーがベースになることを示唆している。

しかし、熱心なハリルホジッチ監督がJリーグを実際に視察し、多くの映像もチェックした上で、いきなり独自色の強いメンバーを何人か抜擢しても不思議ではない。本当の意味でハリルホジッチ色が出てくるのは6月以降だろうが、多少先も見据えながら、ハリルホジッチ監督の方向性に合う“申し子”を何人か紹介したい。

■攻守をハイレベルに求められるチームの心臓

ハリルホジッチ監督と言えばブラジルW杯のアルジェリア代表でも見せたハードワーク、それに伴う研ぎ澄まされた状況判断が基本になることは間違いない。特に中盤の選手は運動量とクオリティーの両面でハイレベルのものを要求され、戦術的な柔軟性も重要になる。

現在のメンバーでは長谷部誠(フランクフルト)が多くの要素で基準を満たしており、長期休養していた山口蛍(セレッソ大阪)なども有力候補であり、技術とセンスが卓越している柴崎岳(鹿島アントラーズ)などは代表チームでもさらに鍛えられるはずだが、ハリルホジッチ監督のサッカーを実現するには勝利のために犠牲になれる選手を加えていく必要がある。

Jリーグでインテンシティーの高いチームで主力を担っている選手は抜擢の可能性を秘めている。湘南ベルマーレの永木亮太、サガン鳥栖の藤田直之、攻撃的なMFでは松本山雅の岩上祐三といった選手がそれに当たる。1、2タッチで正確なパスを通し、機を見てゴール前に飛び出せる能力が要求されるが、何より勝利に対して貪欲であること、90分間に渡ってハードワークを貫徹できることが条件になるのだ。

また3人に共通するのはFKやロングスローなど、セットプレーでもチームの武器になれること。ハリルホジッチ監督は勝負の要素としてセットプレーをかなり重視する傾向がある。遠藤保仁(ガンバ大阪)や本田圭佑(ACミラン)はその意味でも頼りになる存在だが、いわゆる飛び道具的な武器を備えている選手は有効性が増すはずだ。

また中盤の選手には複数のシステムやポジションに対応できるマルチロール性やユーティリティ性も求められる。その意味ではU-22代表の主力を担う遠藤航(湘南ベルマーレ)が中盤の守備的なポジションとDFラインを兼ねる形で重用されるかもしれない。同じ湘南で現在はシャドー的な役割をつとめるが、ボランチやサイドバックもこなし、運動量も豊富な高山薫も面白い存在だ。

また本職がボランチで現在は[3−4−2−1]のウィングバックを任される松本山雅の岩沼俊介は質と量の両面に優れる。J1のトラッキングシステムで走行距離1位を記録した横浜F・マリノスの兵藤慎剛も中盤ならどこでもこなす器用さ、勝負の集中力がハリルホジッチ監督に好まれてもおかしくない。

■経験も必要だがポテンシャル重視の抜擢も

ディフェンスは中盤と連動しながらラインコントロールでき、しかも局面でしっかり体を張れる選手でなければいけない。もちろんコートジボワールやアルジェリアの主力選手と同じ基準ではかられたら日本人選手としては苦しいが、現メンバーであれば塩谷司(サンフレッチェ広島)が主力に抜擢される可能性は十分にある。

1対1に長足の進歩を見せる鈴木大輔(柏レイソル)もこれまで以上に有力候補となるが、身体能力に関して、その塩谷や鈴木にも勝るとも劣らないポテンシャルを秘めるのが鹿島アントラーズの植田直通と名古屋グランパスの牟田雄祐だ。両者に共通するのは高い身体能力を備えながら、十分に発揮できているとは言えないことだ。

植田は対人戦に滅法強いが、瞬間的にマークを外されてしまうことがあり、クリアの精度にも課題をかかえる。クラブで経験豊富な田中マルクス闘莉王と組む牟田はラインコントロールの部分でまだパーソナリティを出せていないが、ハリルホジッチ監督の指導で刺激を受け、大きく成長する可能性がある。もっとも植田に関してはU-22代表の主力として予選突破を支えることが当面のタスクだ。

サイドバックは内田篤人(シャルケ)、長友佑都(インテル)という左右の第一人者がおり、酒井高徳(シュトゥットガルト)や酒井宏樹(ハノーファー)、太田宏介(FC東京)も引き続き有力候補になるが、90分を絶え間なくアップダウンでき、押し込まれた時にはセンターバックをサポートし、攻め上がればクロスなどで脅威になれる選手はハリルホジッチ監督の目に留まる資質をクリアしている。

先日サッカーキングのニコ生『ハーフ・タイム』で「みんなで選ぼうハリルホジッチ監督に薦めたい選手」という読者・視聴者によるアンケート企画を行い、最終的に23人のメンバーを選出した。そのサイドバック部門で内田、長友に次ぐ票を獲得したのが川崎フロンターレの車屋紳太郎だ。

大卒とはいえプロ1年目でプレーは荒削りだが、上下動を全く苦にせず、瞬時に数十メートルを駆け上がるスピードと攻撃センスは素晴らしいものがある。その高い才能を認める大先輩の中村憲剛に言わせれば「まだまだ無駄が多い」とのことだが、J1の舞台で磨きをかけ、さらにハリルホジッチ監督の薫陶を受ければ一気に飛躍をはたしてもおかしくない。

右サイドでは抜群のクロスを持つ松原健(アルビレックス新潟)が若手の有力候補としてあがるが、驚異的な心肺能力と意外性の高い攻撃力を兼ね備える菅井直樹(ベガルタ仙台)はハリルホジッチ監督のサイドバック像に近く、代表チームの雰囲気にすぐ馴染めれば、即戦力にもなりうる。

また少し先の話だろうが、ポテンシャルとしてはU-22候補(アジア1次予選は選外)の室屋成(明治大学)も、素材としてはハードワーク、対人の強さ、チームの犠牲になれるメンタリティなどハリルホジッチ監督のサイドバック基準を満たす。あとは高いステージで経験を積み、プレーの質に磨きをかけていけるかどうか注目していきたい。

■個で違いを生み出せるアタッカーは必要

アタッカーに関しては、何よりチャンスを生み出し、そこからゴールを決められる打開力と得点力が求められる。ハードワークをベースとした攻守の役割は少なくないが、それはハリルホジッチ監督が植え付けていける部分でもある。しかし、持って生まれたセンスや幼少時から磨いてきた個の力は現役時代の名ストライカーでも大きく進化させることはできない。

ザッケローニ、アギーレ時代よりも発掘対象として重視されるのがサイドアタッカーだ。これまでトップ下タイプかストライカーが左右のウィングを担ってきた傾向はあるが、よりサイドで鋭くスペースを突き、縦に突破できる選手が戦力として台頭してくるはず。本職はFWながら圧倒的なスピードを誇る名古屋グランパスの永井謙佑はハリルホジッチの指導で大きく成長しうる存在だ。

よりスペシャリストに目を向ければサンフレッチェ広島の柏好文が該当する。左右のサイドで鋭いドリブルを仕掛けることができ、それでいて攻守のハードワークも厭わない。必要ならばサイドバックでもプレーできるマルチな能力も、23人のバランスを考えた時に重視される可能性がある。

ブラジルW杯で出場が無かった齋藤学(横浜F・マリノス)も再評価されるべきアタッカーで、ハリルホジッチ監督の視察したFC東京との試合でも能力の高さをアピールしたが、勝負どころでゴールを決めきる力をさらに付けたい。

先にあげたアンケート企画のメンバーにも選ばれたエスクデロ競飛王(江蘇舜天)は得点力に加え、アジアの舞台で培ってきた勝負強さがハリルホジッチ好み。あとは技術委員会がアジアに目を向け、映像を指揮官に提示してくれるかどうかにかかっている。

またハリルホジッチ監督が視察したナビスコカップの川崎フロンターレ戦でゴールを決めた川又堅碁(名古屋グランパス)、ドイツ2部で気鋭のチャンスメイカーとして異彩を放つ山田大記(カールスルーエ)など個性的なアタッカーがおり、スイスで奮闘する久保裕也(ヤングボーイズ)や同じU-22代表の南野拓実(ザルツブルク)も早期の代表入りが期待されるところだ。

FWには岡崎慎司(マインツ)という第一人者がおり、得点力に加えて強いメンタリティがハリルホジッチ監督をも引き付けることは間違いないが、前線に高さを加える意味ではアルビレックス新潟の指宿洋史も貴重な戦力になりうるし、同僚の鈴木武蔵もクラブで主力に定着するのが先決ながら、今後の成長次第ではチャンスがある。

持ち前の決定力にキープ力を加えた小林悠(川崎フロンターレ)や勝負強さが売りの工藤壮人(柏レイソル)も引き続き有力だが、多くのファンから代表入りが待望される宇佐美貴史は持っている攻撃センスに疑いの余地は無い。今回に限らず、早い段階でメンバーに入ってくる可能性が極めて高いが、定着できるかは気持ちの部分で代表に相応しいことをどれだけアピールできるか。

自分の特徴は大いに発揮して問題ないが、“スターチーム”の1人として、必要なタスクをこなす意識を示していく必要がある。それはドイツで結果を出しはじめている原口元気(ヘルタ・ベルリン)にも当てはまる。

攻撃的な選手はジョーカーも含め、個の武器を持っていることが選考のポイントになるが、勝負に貪欲であること、そして勝利のために献身できるメンタリティが無ければハリルホジッチ監督のチームで定着していくことはできない。最初はどれだけ荒削りの個性派の集まりでも、勝利を目指して戦う集団を作っていく。その過程で付いてこられない選手はいくら才能があっても振り落とす。それがハリルホジッチのチーム作りなのだ。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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