遠ざかるゴール 水含みのピッチが映した二つの課題/レノファ山口(J2第6節)
J2レノファ山口FCは4月4日、山口市の維新みらいふスタジアムで栃木SCと対戦し、0-1で敗れた。水含みのピッチで思うような試合運びができず、対栃木戦は5連敗となった。
明治安田生命J2リーグ第6節◇レノファ山口FC 0-1 栃木SC【得点者】栃木=ジュニーニョ(前半45分)【入場者数】2338人【会場】維新みらいふスタジアム
雨上がりの空も、気圧されるほどの重い雲に覆われたままだった。試合終了のホイッスルが鳴った時や試合後に選手たちが難しい顔で頭を垂れる時に、どのような感情を持てばいいのか。それさえも釈然としない90分間が、重たい空気の中で幕を閉じた――。
雨上がりのコンディション
栃木は前線にタイプの異なるFWを置き、ロングボールを前線に当てて、セカンドボールから二の矢を放つ。長いボールも自陣から縦に飛ばすもののほか、ロングスローも多用してターゲットに集める。セットプレーでもセカンドボールへの反応が素早いチームだ。
プレースタイルで言えばレノファの対極にいるチームで、これまで栃木戦で4連敗していたことが示すように、相手の特徴はレノファにとっては苦手なものとなっていた。渡邉晋監督も試合前から「相手の土俵には乗らないようにしたい」としていたが、今節の前半に限れば、レノファも長いボールを使ってのゲーム構築を図った。
最大の要因は試合直前までの雨がもたらした水含みのピッチだ。
「ピッチコンディションと対栃木というところを考えて、前半の入りはシンプルに、我々が狙っていきたい場所を狙っていくということを繰り返した。我々が狙いを持った中でゲームを進められたと思う」(レノファ・渡邉晋監督)
ピッチが多少の水を含んだくらいならばボールが滑ってパススピードが上がり、パスサッカーには有利な状況になる。だが、降った雨の量が多く、極端にボールのスピードが落ちるゾーンも発生。レノファは最終ラインやサイドハーフが送る一本の縦パスで背後を狙ったり、ミドルレンジからの単発のシュートが目立つ形で試合に入っていく。
「前半に関しては僕たちの陣地のグラウンド状況があまり良くなかったので、大きな展開を覚悟していた。相手に合わせるわけではないが、サイドバックの裏や味方を走らせるようなボールは意識した」(渡部博文)
そうセンターバックの渡部が解説するように、レノファにとっては持ち味を出しにくいピッチコンディションになっていた。だが、相手の栃木も持ち前の迫力が出せたゲームの入り方ではなかった。
「グラウンドに水たまりがあり、つないでくるか、入れてくるのか、山口がどう出てくるかが分からないところがあり、ミーティングでシミュレーションしながら送り出した」(栃木・田坂和昭監督)とレノファの出方が読み切れず、手探りのゲームイン。すなわち、栃木としても前線にボールを送るだけの攻撃が多く、二次攻撃を生み出すほどの人数が入っていくには時間が掛かった。
栃木のストロングを出させてしまう
双方にフィフティー・フィフティーのボールが多い前半戦。飲水タイムまでは流れはどちらにも傾いていなかったが、前半23分の小休止以降は栃木が少しずつ自分たちのカラーを押し出し、二次攻撃にまでつなげる場面が増えていく。
それでもレノファは厳しいディフェンスで対応していたが、判断の遅れからファールを与える場面も発生。同45分にはペナルティーエリアのすぐ外側で栃木にフリーキックのチャンスを献上してしまう。渡邉監督が「あの場所で絶対に不用意なファールをしてはいけない。猛省しなければならない」と怒気を帯びて振り返る前半最後のプレーが、結果的には試合を決するものとなった。
栃木が得たフリーキックはゴールまで約25メートルの至近距離。栃木は最初、面矢行斗がボールをセットしたが、そばに寄ったジュニーニョが「場所的にも狙える距離だったので蹴らせてほしい」と提案。受け入れた面矢がフェイントを入れ、その向こう側からジュニーニョが「ピッチがスリッピーだったので低い弾道を狙った」と鋭くシュートを放った。
強いショットはレノファの3枚の壁に跳ね返されるものの、ボールの落下地点にいち早く動いたジュニーニョが再び右足を振り、シュートはゴールの右隅へ。セットプレーとセカンドボールというチームのストロングポイントを生かし、栃木が先制に成功する。
レノファは壁で相手のシュートを跳ね返し、さらにラインを上げて次の展開に備えていたが、セカンドボールへの反応が相手よりも遅かった。警戒していたはずの相手のストロングを、前半終了間際というタイミングで引き出させたという最悪の失点劇で、レノファにとっては言い訳のできないスコアロストとなった。
池上と川井でリズムを作るが…
後半は一転してレノファがボールを動かして、相手陣地でサッカーをするようになる。大きな転機は後半15分の交代。右サイドのプレーヤーを同時に入れ替え、池上丈二と川井歩をピッチに送り出した。
二人の関係性は良く、池上は右サイドの内側(右のハーフスペース)に顔を出してボールを回収。川井は右の外側をオーバーラップしてボランチや池上からのボールを受け、クロスボールを前線へと差し込んでいく。
レノファが圧倒的にボールを支配し、後半37分には池上が右サイドを深く突いてクロスを送ると、「ジョウジくんからいいボールが来ていたので、そこ(ニアサイド)に入るイメージは持っていた」と話す梅木翼がニアに動いて、ヘディングシュートを放つ。しかし、シュートは枠を捉えていたが、栃木のGK川田修平が手と顔面を使ってファインセーブ。この日最大の決定機を作ったものの、レノファがゴールを仕留めることはできなかった。
なおも攻撃を続けるレノファだったが、1点を守り抜こうとする相手のブロックを割ることはできなかった。ボールポゼッションで相手を大きく上回りながら、シュート数は増えず、0-1で試合終了となった。
クオリティーと積極性という課題
水含みのピッチは二つの問題を映し出した。一つはクオリティーだ。
4月1日の練習後、ボランチの佐藤謙介は「止める、蹴るということをしっかりやっていく中で、(前節の)磐田戦ではそういうことができていた最初の25分は良かった」と話していた。佐藤が指摘するベース部分の質は、ポゼッションを売りにするレノファにとっての一丁目一番地。前節の序盤戦はそれが高いレベルで発揮され、早い時間帯で2得点を奪取した。
ところが、今節はリスクを減らしたサッカーを選択したにもかかわらず、各所でイージーミスが散発した。守備面も同様で、球際の厳しさを出せてはいたが、質が伴っていたとは言いがたい。ファールを冒さなくてもいい状況で、無理に体を投げ出してしまう場面も多く見られ、そのうちの一つは失点につながるフリーキックに直結。イエローカードは相手の0枚に対して、レノファは3枚を受ける結果となった。
ピッチ条件が悪いほど、ボールコントロールやリスク管理といった基礎的な部分の質が重要になる。前節も25分間しかできなかったという反省があり、イレブンはもう一度、ベースの質を高めなければならない。
もう一つの問題は、そもそも論とも言えるが、ピッチコンディションに気を取られすぎていたのではないかという点だ。
リスクを考えれば確かに自陣ではボールを動かさず、相手陣地に早めに入れたほうがいいが、残念ながら前線でボールが収まらず、すぐに相手からのロングボールを受ける展開になった。ロングボールの応酬による疲弊が、上述の質の低下を招いてしまったかもしれないし、リスクを取って攻撃に出て行く気概さえ後退させた可能性もある。
たらればを言えば、ボールが収まる選手の投入をもう少し早められたら、結果は変わったかもしれない。それに、レノファの昔の試合を振り返れば、強雨であっても試合を楽しみながらプレーしていた時代があったはずだ。もちろんボールが水たまりで止まってしまうのは難点で、それを克服できた試合は2016年のザスパクサツ群馬戦(リンク先はレノファ山口FC公式サイトの試合記録)以外に思い浮かばないが、雨でも前向きにボールを動かしていく積極性のある試合は見てみたい。
レノファの場合、どうしてもスタジアムや練習場のピッチコンディションに加え、遠征時の移動距離やクラブハウスの機能など外的要因が試合作りを難しくしている面がある。環境に関しては2018年の記事の後段でも触れたが、名城にはまだほど遠いのが現実だ。ただ、それでもファイティングポーズを取り続ける屈強さが求められる。
「後半は失点を取り返すというパワーを見せることはできたが、相手にゴール前を締められた中で、どこを突いていくか。いくつかいいアイデアはあったが、そこに対するクオリティーやダイナミックさをもっと見せなければならない」(渡邉監督)
質が高まれば、魅力的な戦術が見られるだろう。しかし、濡れそぼつピッチを乾かしてしまうくらいの熱気も同時に求められるのではないか。戦略が野心の上に成ることを、150年前の歴史は証明している。維新のスタジアムで躍動すべきチームもそうありたい。
レノファの次戦はアウェー戦で、4月10日に味の素スタジアムで東京ヴェルディと対戦する。その次の週は3連戦となり、4月17日にホームでザスパクサツ群馬、同21日に敵地でギラヴァンツ北九州、同25日に再びホームで京都サンガF.C.と対戦する。
マッチレビューは京都戦のあとに掲載します。また、北九州との関門海峡ダービーに関しては昨年同様、両方の視点を踏まえたコラムをお届けする予定です。