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【シンシナティ・マスターズ】杉田祐一、世界16位を破り2回戦へ 相手の武器攻略した戦略性と冷静さ光る

内田暁フリーランスライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

シンシナティ・マスターズ1回戦  

○杉田祐一 7-5,6-4 ジャック・ソック

 スクリーンに映し出されるボールの軌道を見るより先に、杉田は、勝利を確信しているようでした。

 杉田の深いリターンに差し込まれたジャック・ソックの返球が、力なくネットを叩いたマッチポイント。ソックはリターンに対し「チャレンジ」を宣告しますが、果たしてスクリーンに大写しにされたリプレーは、ボールがベースラインを捕らえていることを示します。その瞬間、杉田の2年連続となるシンシナティ・マスターズ初戦突破が……そして世界16位からの勝利が確定しました。

「良い雰囲気で入れる大会というのはある。この大会も、その一つ」

 試合後の杉田は、落ち着いた声のトーンにも確かな自信をにじませます。昨年はこの大会で、予選を突破し本戦でもA・ズベレフらを破って3回戦へと大躍進。シンシナティはいわば、今につらなる快進撃の、始まりの地だと言えるでしょう。

 それから1年――初戦で地元アメリカのナンバー1選手と対戦する、杉田に気負いはありません。第3ゲームでブレークされる苦しい立ち上がりとなりますが、杉田は反撃の糸口を、相手の武器であるセカンドサービス攻略に求めました。

「早い段階で、キック(サービス)を止めないといけないと考えていた」

 ソックのゲーム攻略の困難さは、時速130マイルを超える高速サービスもさることながら、高く跳ねるキックサービスにこそあるでしょう。それをいかに返すかを試行錯誤するなかで、杉田は早い段階で「中に入り、跳ねる前に叩く」ことで良い感触をつかむことができたと言います。

 対するソックには、武器であるはずのセカンドサービスを深く打ち返されることへの、驚きと焦りがあったでしょう。徐々に募らせた苛立ちは、第7ゲームで5本のブレークポイントをモノにできなかった頃から顕著になります。そのソックの隙を、今の杉田は逃しません。ゲームカウント6-5からブレークし、第1セットを巧みにさらいました。

 

 第2セットも最初のゲームを落とすスタートとなりますが、杉田は自分のプレーに徹しつつ、反撃の機を待ちます。第6ゲームでは1本の鋭いリターンウイナーを足掛かりに、相手のダブルフォールトにも乗じてブレークバックに成功。逆に4-4からの自身のサービスゲームでは、ブレーク狙いで前がかりになる相手のプレーを、堅牢な守備で跳ね返しました。フォアでミスを重ね、ラケットを投げつけるほどに苛立つソック。そんな相手の姿を視野の端に収めつつ、ここを勝負どころと踏んだ杉田は、続くゲームでもストロークを深く返してミスを誘います。終わってみれば、いずれのセットも先行されながらも追いつき、最後はブレーク奪取で抜け出す杉田の勝負強さが光りました。

 6月には、チャレンジャーのみならずツアーでも初のタイトルを獲得するなど、芝シーズンを全力で駆け抜けてきた杉田。それだけに、トップ50として迎える北米シリーズは心身ともに入り方が難しいかとも思われましたが、ソックからの勝利後も、浮かれる様子はまるでありません。

「ハードコートは、全く新しいシーズンだと思っている。今までの結果はあてにならないので、浮かれる状態ではありませんね」

 淡々と、なおかつ重ねた実績を己を信じる根拠とし、「ここが勝負どころ」と睨むその道の、奥深くへと踏み入ります。

※テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookから転載

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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