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日本ラグビー支える「夏合宿の聖地」がクラウドファンディング挑戦中。8月末まで

多羅正崇スポーツジャーナリスト
画像提供:『WE ARE スガダイラーズ PROJECT』

ラグビー合宿の聖地である長野・菅平高原への支援を呼びかける『WE ARE スガダイラーズ PROJECT』。

そのクラウドファンディングが、8月31日(終日)に締め切りを迎える。

コロナ禍による苦境を受け、菅平高原旅館組合が中心となり7月20日にスタートしたクラウドファンディング(目標額5000万)。

8月7日時点の達成率は31.0%(1526万3410円)。目標達成へ予断を許さない状況が続いている。

■日本ラグビー界に欠かせぬ「菅平」

標高約1300~1500mに位置する菅平は、日本ラグビーの強化に深く関わってきた。

1931年の法政大学を皮切りに、第二次世界大戦を挟んで、合宿を行うラグビーチームが年々増加。

やがてラグビー日本代表やユース代表、レフリーチームなども合宿を行うようになり、日本ラグビー強化の重要拠点のひとつとして機能してきた。

現在、菅平高原旅館組合の宿は126軒。ラグビー場は100面以上。2019年夏は実に1037チーム(サッカー含む)が合宿を行った。

まさに「ラグビー合宿の聖地」であり、日本ラグビーにとって特別な場所なのだ。

日本ラグビーと共に発展してきた菅平。画像提供:『WE ARE スガダイラーズ PROJECT』
日本ラグビーと共に発展してきた菅平。画像提供:『WE ARE スガダイラーズ PROJECT』

■青春の思い出は菅平と共に

選手にとっても菅平は特別な場所だ。

菅平で行われるラグビー合宿は厳しい。

「二度と来るもんか」の文字がプリントされた名物Tシャツは、菅平を経験したラガーの気持ちを端的に表現している。

菅平の入り口が見えてきた時の憂鬱…。誰も喋らなくなった合宿3日目の朝食…。

菅平の記憶はどれもホロ苦いが、そんな厳しい合宿を通し、チームの絆は強くなる。

最初に菅平で合宿を行った法政大学の元監督、武村秀夫氏は「夏合宿を経験して、初めて一人前の部員だ」とよく言った。

菅平は仲間と限界を乗り越えることで、新たな絆が生まれる場所でもある。

■コロナ禍で苦境の菅平

そんな菅平が2020年、新型コロナの影響を受けて苦境に陥った。

昨夏は1000チームを超えていた合宿が、今夏はラグビーとサッカーでわずか73チーム(7月19日時点)。

プロジェクト発起人の大久保寿幸・菅平高原旅館組合副組合長(菅平プリンスホテル専務)は、新型コロナの影響が出始めた当時をこう振り返る。

「2月の後半からキャンセルが出始めました。ただキャンセルの電話では、かならずこちらが謝られるんです。全てのチームの方から『来年までなんとか持ちこたえてほしい』と励ましてもらいました」

大久保副組合長は4月後半、仲間と共にプロジェクト発足に動いた。プロジェクトのロゴデザインは長野・上田市在住のデザイナーが無償で制作。

ラグビー合宿の聖地を救おう――。多くの善意がプロジェクトを生んだ。

7月20日にクラウドファンディングが始まると、多くのトップリーガー、ファン、関係者など、数え切れない人びとが情報拡散に協力した。

2020年7月28日の菅平。例年であれば選手で溢れかえっている。写真提供:『WE ARE スガダイラーズ PROJECT』
2020年7月28日の菅平。例年であれば選手で溢れかえっている。写真提供:『WE ARE スガダイラーズ PROJECT』

■支援金は「旅館組合の運営費」に

入念に準備したクラウドファンディングでは、金額に応じてグラウンド命名権、オリジナルTシャツなどを用意した。

支援金の使い道は、組合費の負担軽減に使用する。

目標金額の5000万円を達成できた場合は、約2500万円は商品代金やサイト手数料でなくなる見込みだ。

さらにそこから税金を引くと、約2000万円が支援金となる。

しかしこの2000万円は、126軒の宿に配られるわけではない。

126軒が菅平高原旅館組合に拠出している組合費になる。しかし、それも1年分に過ぎない。

「126軒から組合費として集めているお金が年間1800~2000万くらいです」

「集めた組合費は観光協会や案内所、そして菅平の診療所の負担金にもなります」

「お金がなくても止めることができない施設等があり、頂いた支援はそこに使用させて頂きたいと考えています」(大久保副組合長)

つまりは、必要不可欠な施設等を1年間稼働させるための資金の一部になるのだ。

本音を言えばもちろん足りない。しかし「コロナで困っているのは私達だけではない。わがままは言えません」(大久保副組合長)。

目標額は自重の末に算出した金額だ。

■結束した菅平。「待ってるよ」

すでにプロジェクトを通して得たものもある。

「このプロジェクトを通して、宿と宿のチーム感、一体感は生まれています。皆さんから温かいメッセージもたくさん頂いています」

「だからこそ菅平として『こっちは元気だよ』『みんな待ってるよ』という空気、メッセージが発信できていると思います」(大久保副組合長)

日本ラグビーを支えてきた、そしてこれからも支えていく菅平に、一日でも早く全国のラガー達が戻ってきてほしい。■

▼クラウドファンディングのURL 

「【ラグビー夏合宿の聖地・菅平支援】WE ARE スガダイラーズ PROJECT」https://motion-gallery.net/projects/sugadairers2020 

菅平の旅館経営者は、プロジェクトの公式Twitterなどで元気な発信を続けている。画像提供:『WE ARE スガダイラーズ PROJECT』
菅平の旅館経営者は、プロジェクトの公式Twitterなどで元気な発信を続けている。画像提供:『WE ARE スガダイラーズ PROJECT』
スポーツジャーナリスト

スポーツジャーナリスト。法政二高-法政大学でラグビー部に所属し、大学1年時にスタンドオフとしてU19日本代表候補に選出。法政大学大学院日本文学専攻卒。「Number」「ジェイ・スポーツ」「ラグビーマガジン」等に記事を寄稿.。スポーツにおけるハラスメントゼロを目的とした一般社団法人「スポーツハラスメントZERO協会」で理事を務める

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