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新型コロナ 東京都で診断されていない感染者はどれくらいいるのか?

忽那賢志感染症専門医
(写真:つのだよしお/アフロ)

東京都の新規感染者数は現在も1日当たり5000人前後と非常に高い水準で推移していますが、SNSなどでは「ピークアウトが近いのでは?」という声が聞かれるようになってきました。

一方、東京都の専門家は「診断されていない感染者が多くいるのではないか」という懸念を示しています。

都内の感染者は本当に減ってきているのでしょうか?東京都の新規感染者の報告数は、実際の感染者数をどれくらい正しく反映しているのでしょうか?

東京都の感染者数の推移は「やや増加〜横ばい」に

東京都における新規感染者数(東京都新型コロナウイルス感染症対策サイト)
東京都における新規感染者数(東京都新型コロナウイルス感染症対策サイト)

東京都における新型コロナ新規感染者数は7月下旬から8月中旬までの急激な増加ペースと比べると、現在は緩やかな増加もしくは横ばいになってきました。

現在も非常に多くの感染者が発生していることには変わりありませんが、増加ペースだけを見れば良い兆候と言えます。

しかし、東京都の専門家は「検査が必要な人に迅速に対応できていない恐れがある。1日当たりの数は4631人以外にも把握されていない多数の感染者が存在する可能性がある」と指摘しており、診断されていない感染者が多くいるのではないかという懸念が示されています。

これは、どういった点から考えられることなのでしょうか?

感染者に占める無症候性感染者の割合が低下している

東京都における新規感染者に占める無症候性感染者の割合(第59回東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料)
東京都における新規感染者に占める無症候性感染者の割合(第59回東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料)

図は東京都における無症状の感染者の割合の推移を見たものになります。

第5波で感染者が増えるに従って、無症状の新規感染者の割合が低下していることが分かります。

多いときでは20%以上が無症状の感染者でしたが、現在は12%程度まで下がってきています。

この無症状の新規感染者の割合の低下は「診断されていない無症状の感染者が増えている」ということを意味します。

子ども、成人、高齢者の無症状の感染者の割合(Proc Natl Acad Sci U S A. 2021 Aug 24;118(34):e2109229118.より筆者作成)
子ども、成人、高齢者の無症状の感染者の割合(Proc Natl Acad Sci U S A. 2021 Aug 24;118(34):e2109229118.より筆者作成)

新型コロナに感染した人のうち、概ね3〜4割は無症候性感染者(感染しているが症状がない人)と言われています。

この割合は年齢によって異なるとされており、0〜18歳では約半分が、19〜59歳では32%が、60歳以上では20%が感染しても無症状のまま経過すると言われています。

現在のように、若い世代の方が感染者の中心になっている現状においては、おそらく3〜4割以上の無症状の感染者がいると考えられますが、東京都で診断されている新型コロナ患者の中に占める無症状の感染者は12%ですので、大雑把に考えて無症状の感染者の3人に1人程度しか診断されていないのではないかと思われます。

感染した日からの日数と、無症候性感染者、発症前の感染者、発症後の感染者から起こる感染の頻度との関係(JAMA Netw Open. 2021;4(1):e2035057.)
感染した日からの日数と、無症候性感染者、発症前の感染者、発症後の感染者から起こる感染の頻度との関係(JAMA Netw Open. 2021;4(1):e2035057.)

無症候性感染者からの感染は、全体の24%と試算されており、決して少なくない感染源となっていますので「診断されなくても良い感染者」ではありません。

やはりできるだけ無症状の感染者も診断して、自宅療養していただくことで感染源を減らす必要がありますが、東京都は保健所業務の逼迫により濃厚接触者特定調査を縮小せざるを得ない状況に陥っており、無症状の感染者がますます増加しやすい状況となっています。

検査陽性率も非常に高い水準で推移している

東京都における検査陽性率の推移(第59回東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料)
東京都における検査陽性率の推移(第59回東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料)

東京都の検査陽性率は20%台という極めて高い水準で推移しています。

検査数が極端に制限されていた第1波を除いては、過去最高の水準となっています。

検査陽性率が高ければ高いほど「診断されていない感染者が多い」こと、そして検査数が足りていないことを意味しています。

東京都での検査数は、感染者数の増加ほどには増加しておらず(自費検査に流れている可能性もありますが)、相対的な検査数不足に陥っている可能性が高いと考えられます。

以上のように、東京都はの現在の状況は、

・濃厚接触者特定調査の縮小などの影響もあり、診断されていない無症状の感染者が増えている

・検査数不足によって、真の感染者数よりも少なく見積もられている

という懸念があり、見た目上の感染者数の増加ペースは落ちてきているものの、過小に評価されている可能性があります。

濃厚接触者の調査を無症状者に再度広げるということは、保健所の業務が逼迫している現状では難しく、また検査数の限界についても構造的な問題を抱えている可能性がありすぐには解決できなさそうです。

かつてない医療体制の逼迫は今も続いており、新型コロナ以外の疾患であったとしても通常の診療を受けることが困難になっています。

新規感染者数の数だけを見て「そろそろピークアウトしそう」と気を緩めることなく、

・屋内ではマスクを装着する

・3密を避ける

・こまめに手洗いをする

といった感染対策を引き続き徹底しましょう。

感染症は人から人へとうつっていきます。

自分自身の感染対策は、自分だけでなくあなたの大事な人を守ることにも繋がります。

手洗い啓発ポスター(羽海野チカ先生作)
手洗い啓発ポスター(羽海野チカ先生作)

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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