「ヤレる女子大学生ランキング」批判に戸惑うメディアの人へ
もうすでにさまざまな記事で取り上げられ出遅れた感があるが、それでも署名(※)発信者たちの応援をするために書いておきたい。週刊SPA!12月25日号「ヤレるギャラ飲み」特集内の、「ヤレる女子大学生ランキング」についてだ。(※女性を軽視した出版を取り下げて謝って下さい/Change.org)
最初に、このランキングについてのツイートを見た年始、ひどい記事だと思った。ただ、そこから数日で数万人の署名が集まり(1月12日時点で約4万8000人)、名前を掲載された5大学全てが抗議を行い、編集部が謝罪するまで問題が大きくなるとは思わなかった。もっと意外だったのは、普段はジェンダー問題について反応が鈍いように感じるネットニュースのコメント欄などでも、週刊SPA!(以下、SPA!)編集部に否定的なコメントが多かったことだ。
否定的な意見が多い理由は大学の実名が掲載された事実が大きいのだろうが、率直に言えば、今回もまた「ポリコレが行き過ぎて息苦しい」といった反発が繰り返されるのだと思っていた。私自身も、女性蔑視あるいは人権軽視な企画に慣らされているメディアの一人なのだと反省した。素早く力強いメッセージを打ち出した署名の発信者は素晴らしいと思う。
■ランキングの根拠は?
関連のニュースが相次ぐ中で、詳しくこの件について追えていない人もいるかもしれない。ネット上では、「このランキングの根拠は何か?」という疑問を見かけた。「根拠によってはランキングに載せられる大学側(学生側)にも否がある」といったコメントも見かけたのだが、このランキングは「ギャラ飲み」のマッチングサービスを手がける男性の主観によるものだ。SPA!編集部が男性に取材するかたちでまとめられている。
ちなみに、ランキングが個人的な見解でまとめられたものであることについて、署名発信者の大学生、山本和奈さんは情報番組ビビットの取材に対して「すごく無責任だと思います」と語っている。
■一方的な「ヤレる」認定に潜む危うさ
否定的な意見が多いとはいえ、出版関係者の中には、「こんなのこれまでも散々やってきた。なんで今さらこれがいけないのか」と考える人もいるかもしれない。批判が飲み込めず、無理やり「時代が変わった」と思って飲み込むしかない人もいるのではないか。
私自身、この抗議がここまで大きな話題になると予想していなかったことの反省を込めて考えたい。
2017年の#metooに始まり、2018年もさまざまな「女性蔑視」が明るみに出た。医大受験での得点操作はもっともわかりやすいケースだが、ここではここ数年に報じられた女性が被害者となった性犯罪事件を挙げたい。共通するのは、飲み会が発端だったことだ。
東大の学生による集団強制わいせつ事件、慶応大学ミスコン主催者らの集団レイプ、千葉大学医学部学生らによる集団レイプ、東邦大同窓生らによる集団レイプ、リアルナンパアカデミー塾長らによる集団レイプ。
東大の事件をもとにした小説『彼女は頭が悪いから』(姫野カオルコ)が話題になったが、小説のタイトルは、実際に加害者の一人が裁判で語った言葉だ。また、リアルナンパアカデミーの事件では、加害者らは女性との性交回数を仲間内で競い合っていた。
事件が報じられるたびに、被害者も責められる。被害者の落ち度が詮索される。犯行の卑劣さ、被害者が責められる理不尽さは、もしかしたら自分も被害に遭ったかもしれない人の胸にも重く残る。
このような事件が繰り返され、被害者が中傷されることもある世の中で、SPA!記事のような一方的な「ヤレる」認定に恐怖や怒りを感じて当然だ。バカにされていると感じて当然だと思う。「こんな雑誌の企画を真に受けるヤツはいない」と笑い飛ばせる世の中を女性は生きていない。
後述するが、SPA!記事の内容からは、性に奔放な女性や口説きやすい女性を見下す目線が伺える。「頭が悪そうに見える」「軽そうに見える」ことが「性的に雑に扱っても構わない」理由につながる意識がある。男性こそ、女性に理由をつけて「ヤレる」「お持ち帰りできる」対象と見ることの危うさに気づくべきだ。理由をつければ性的に雑に扱っても構わないというのは、される側に理由があれば体罰やいじめも肯定されると言うのと似ている。そしてSPA!記事のように、そもそもその理由づけが都合の良い主観だから怖い。
■男性の性欲は肯定するが、性に奔放な女性は「ビッチ」「ヤリマン」
ネット上で見かけた反応について、もうひとつ触れたい。株式会社ZOZOのコミュニケーションデザイン室長・田端信太郎氏はツイッターで「これ『蔑視だ』というのも、貞淑に価値をおく古い貞操観では?。女性が自己決定として性体験豊富になり、そういう女性が多い大学という意味だとしたら、何が悪いんだろ。」とつぶやいている。同様に、「ヤレるランキング」を批判する人は女性の性的自己決定権を否定したいのか、といったツイートはいくつか見かけた。
ズレた意見だと感じる。「ヤレるかヤレないか」あるいは「お持ち帰りできるかできないか」といった視点は、男性にとって都合の良い女かどうかを基準に考えられている。女性の性的自己決定権の話とは真逆の方向ではないか。(注)マッチングサービス運営者はテレビ番組の取材に、SPA!の取材時には「ヤレるランキング」ではなく「お持ち帰りできるランキング」について語ったと話している。
すでにBUSINESS INSIDERの記事(SPA!「ヤレる」女子大生企画で謝罪。大学と署名女子大生の怒りの声/1月7日)などで指摘されているが、SPA!は10月23日号でも「この女子大生がエロい!2018年ランキング」を特集し、「ヤリマン生息数が多い大学」「就活ビッチの多い大学」など6つのランキングに25大学を掲載している。ランキングの根拠はこちらも、SPA!編集部が取材した「識者」の主観だ。
「ヤリマン」や「ビッチ」の語からすでに明らかだが、記事内では「ちょいおバカで親しみやすいコが多く、すぐ『ま、いっか』と流される」「田舎モノの上京ノリでクラブに行きまくって、いつの間にか野生ビッチ化しています」といった説明があり、性に奔放な女性や口説きやすい女性を下に見る目線が通底していると感じる。繰り返しになるが、女性の性的自己決定権の尊重とは真逆だ。全力で肯定されているのは、男性の欲望だけだ。
■未成年や学生を守る意識はあるのか
署名発信者の山本和奈さんは、ビビットの取材に対して「大学生の半分は未成年。未成年って私たちが守らなきゃいけないのに」とも話している。山本さんは21歳だ。21歳の学生が「未成年を守らなきゃ」と言っている。社会人のどれぐらいが、これと同じ意識を持っているだろう。
未成年や若い学生に「自分のことは自分で守れ」と責任だけ押し付け、一方では大人が未成年や学生を性的対象にして当然という価値観を垂れ流すことに、大人がもっと危機感を持つべきなのではないか。
SPA!のメイン読者層は30代以上の男性だという。30代以上の女性が読む女性誌が「ヤレる男子大学生ランキング」を行っていたら、どのような心境になるか。いい大人が何をやっているのかという気持ちにならないか。想像してほしいと思う。
山本さんは9日に署名ページに追記を行い、編集部との対話を求めている。学生からの問題提起に編集部はどう応えるのだろうか。
作り手にも思いがあるだろうからSPA!編集部が抗議を全て納得できるわけではないのだろうし、メディアがこういった表現をすぐにやめることもないかもしれない。それでも、学生が何を思って抗議を行ったのか、話を聞いてほしいと思う。