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【目黒区】「大正ロマン×百段階段~文豪が誘うノスタルジックの世界~」に魅せられて

Chikuwa地域ニュースサイト号外NETライター(東京都目黒区)

JR目黒駅近くにある日本美のミュージアムホテル「ホテル雅叙園東京」。その敷地内には1935年(昭和10年)に贅を尽くして建てられた東京都指定有形文化財「百段階段」があります。

文化財「百段階段」
文化財「百段階段」

文化財「百段階段」は通常非公開ですが、年に数回行われる企画展の時だけ、特別に中に入ることができます。ということで、2023年3月25日(土)から始まった「大正ロマン×百段階段 ~文豪が誘うノスタルジックの世界~」を見に行ってきました!

「大正ロマン×百段階段 ~文豪が誘うノスタルジックの世界~」は、名作の世界を三次元で愉しめるイベント

最近では二次元の世界を楽しむ人が増えていますが、今回のイベントはあえてその二次元の世界を三次元で楽しもうという企画。

大正から昭和初期にかけて花開いた大衆文化、優れた文学作品が生みだされた時代とを重ね合わせ、「百段階段」という貴重な文化財を舞台にその世界観を立体的に再現する試みとなっています。

立東舎「乙女の本棚」シリーズと文化財「百段階段」とのコラボレーションが楽しめる展示会

立東舎「乙女の本棚」シリーズ
立東舎「乙女の本棚」シリーズ

「大正ロマン×百段階段 ~文豪が誘うノスタルジックの世界~」は、立東舎「乙女の本棚」シリーズとの競演。「乙女の本棚」は、小説としても、画集としても楽しめる新感覚の文芸作品として話題を集めています。

文化財「百段階段」にある6つのお部屋を舞台に、立東舎「乙女の本棚」シリーズから厳選した6つの作品を立体的に展示し、その世界観にどっぷりとひたろうという試みです。

選ばれた作品は以下の6つです。

  1. 萩原朔太郎+しきみ「猫町」
  2. 中島敦+ねこ助「山月記」
  3. 太宰治+緋久楽さわ「葉桜と魔笛」
  4. 小川未明+げみ「月夜とめがね」
  5. 泉鏡花+ホノジロトヲジ「外科室」
  6. 谷崎潤一郎+マツオヒロミ「秘密」

それではさっそく幻想的で美しい作品世界へと足を踏み入れてみましょう!

「十畝の間」×「猫町」で、夢と現実の境目が曖昧になる体験を楽しむ

まず一つ目のお部屋は荒木十畝(あらきじっぽ)さんが手がけた四季の花鳥画が描かれている「十畝の間」へ。展示されているのは萩原朔太郎さんの「猫町」という作品です。

萩原朔太郎+しきみ「猫町」
萩原朔太郎+しきみ「猫町」

コラボしているのはしきみさんで、有名オンラインゲームのキャラクターデザインの他、さまざまな作品の挿絵を手掛けているイラストレーターです。

「猫町」は文化財「百段階段」が完成した年と同じ1935年(昭和10年)に発表された作品。今回の展示会の始まりにふさわしいプロローグ作品となっています。

「猫町」はモルヒネやコカインなどの薬物中毒から回復した「私」が北陸の温泉に逗留。ある時迷子になり、見知らぬ美しい町にたどり着くが、突然猫だらけの町になってしまい・・・というのがあらすじです。

喫茶室のウェイトレスさんが着ている衣裳は、歌舞伎や舞台芸術、ミュージカルなど幅広い舞台衣裳を手掛けている松竹衣裳株式会社が担当。

「十畝の間」はもちろん、すべてのお部屋の作品世界に合わせて衣裳をコーディネートしています。トルソーの指先の表現までこだわりぬいて、物語をさらにドラマティックに演出していました。

最初は美しい町だったのが、突然猫だらけの妖しい町へ反転、そして気が付いたら猫たちがいなくなり、そこにはごく平凡な田舎町の風景が広がっているというストーリーを実体感。

夢と現実の世界の違いはあいまいで、どちらが本物なのかわからないという不思議な感覚にとらわれてしまいました。

「漁樵の間」×「山月記」、夢破れて人ではないものへと身をやつしてしまう哀しみに共感

続いて訪れたの尾竹竹坡(おたけちくは)さん原画、盛鳳嶺(さかりほうれい)さんの彫刻が見事な「漁樵の間」へ。展示されているのは中島敦さんの「山月記」です。

中島敦×ねこ助「山月記」
中島敦×ねこ助「山月記」

コラボしたのはねこ助さんで、書籍の挿絵、ゲーム、CDジャケットなどのイラストを手掛けているイラストレーター。

若かりし頃の博学で才能にあふれた李徴の部屋をイメージした展示
若かりし頃の博学で才能にあふれた李徴の部屋をイメージした展示

中島敦さんの「山月記」は学校の教科書などにもよく取り上げられている作品です。主人公である李徴(りちょう)は、プライドの高さから才能を磨く努力をせずに、高名な詩人になるという夢破れて、虎になってしまうというお話。

自尊心の高さから発狂し、虎になる寸前の李徴が友人である袁傪(えんさん)と林の中で再会。自分の夢である詩を世に送り出すことを友人に託し、虎へと姿を変えていく心情を切なく描き出す展示となっていました。

今回展示された作品の中で唯一、中国を舞台とした「山月記」。「漁樵の間」は中国の漁樵問答の一場面が描かれたお部屋ということで選ばれたそうです。

お部屋のBGMは、中国歴史映画をイメージしたサウンドトラックです。ちなみに各お部屋のテーマごとに異なるBGMがオリジナルで使われています。

手がけているのは手を触れずに演奏する電子楽器「テルミン」を操る音楽家・ヨダタケシさんです。このBGMがより展示世界に厚みや深みを与えていますので、ぜひそんなところにも注目してみてくださいね。

「草丘の間」×「葉桜と魔笛」、切ない恋とミステリアスな余韻が残る展示

磯辺草丘(いそべそうきゅう)さんによる四季山水画と随所に使われている希少な材による意匠が素晴らしい「草丘の間」。展示されているのは太宰治さんの「葉桜と魔笛」です。

太宰治×紗久楽さわ「葉桜と魔笛」
太宰治×紗久楽さわ「葉桜と魔笛」

コラボしているイラストレーターは紗久楽さわさん。インターネットで自主公開していた漫画、江戸の浮世絵師たちを描いた「猫舌ごころも恋のうち」が出版社の目に留まり、書籍化されました。

実は太宰治さん、「ホテル雅叙園東京」と縁があります。太宰さんが書いた短編「佳日」で、結婚式が行われる料理店のモデルは旧・目黒雅叙園なのだそうです!

「葉桜と魔笛」は老婦人の回想として描かれており、死期が近い妹や妹との間にある愛情が悲しくも美しい作品となっています。

展示会場となっている「草丘の間」には大きな窓があり、桜の木を臨むことができるために選ばれました。今年は桜の開花が早く、すでに葉桜は見れないかもしれませんが、作品世界に入り込めそうな演出ですね。

男性「M.T」を障子に写るシルエットとして表現
男性「M.T」を障子に写るシルエットとして表現

妹と手紙を交わしていた男性「M.T」の手紙を姉が発見。その男性に捨てられた妹を不憫に思った姉は、その男性のふりをして妹へ手紙を書きます。しかし、その手紙は妹の自作自演だったことが判明し、気まずい思いをする二人。

物語最後に男性からの手紙として「六時に庭の外で口笛吹く」と書いてあり、実際に庭の葉桜の間から軍艦マーチの口笛が聞こえてきて、二人は言い知れぬ恐怖を覚えるというシーンを再現しています。

手紙は妹の自作自演だったのか、本当に手紙を交わしていた相手がいたのか、物語の中では明かされぬまま。ミステリアスな余韻を残す作品となっています。

ステンドグラス工房かわもとの作品
ステンドグラス工房かわもとの作品

部屋の随所で印象的に使われているステンドグラスは、「ステンドグラス工房かわもと」の作品。会場にノスタルジックな雰囲気を添えています。

「静水の間」×「月夜とめがね」では幻想的なおとぎ話の世界へ

控えの間は橋本静水(はしもとせいすい)さんが手がけた天井画、奥の間は池上秀畝(いけがみしゅうほ)さんが手がけた天井画などが素晴らしい「静水の間」。展示されているのは、小川未明さんの「月夜とめがね」です。

小川未明×げみ「月夜とめがね」
小川未明×げみ「月夜とめがね」

コラボしているのはげみさん、京都造形大学美術工芸学科日本画コースを卒業後、イラストレーターとして活躍されています。

「日本のアンデルセン」という異名を持つ小川未明さん。「月夜とめがね」は、針仕事をしているおばあさんの部屋に2人の訪問者が現れるというお話です。

訪ねてくるのは眼鏡売りの男と足にケガをした香水製造場で働く少女。実はこの少女、正体は胡蝶であったというエンディングでした。

少女が働いている香水製造場を思わせるガラスの香水瓶も展示。こちらはキタガワアキコさんが作った作品です。

キタガワアキコさんの作品
キタガワアキコさんの作品

BGMは西洋童話を思わせるようなスタイルのサウンドトラックに。アイルランド民謡にヒントを得て、その地方の古楽器を使用し、お婆さんの時計が鳴る音で静かな夜を感じさせる構成になっていました。

「星光の間」×「外科室」ではこじらせ気味の恋の悲劇的な結末を演出

板倉星光(いたくらせいこう)さんが描く四季草加が美しい「星光の間」。ここでは泉鏡花さんの「外科室」を取り上げています。

泉鏡花×ホノジロトヲジ「外科室」
泉鏡花×ホノジロトヲジ「外科室」

コラボしているのはホノジロトヲジさんで、キャラクターデザインやイラストなどを手掛けているイラストレーターです。

泉鏡花さんの「外科室」は、医師である高峰と伯爵夫人、身分の違う二人の間に秘められた切ない恋心を描いた作品。高峰医師により伯爵夫人の手術が行われるという外科室、そして二人が初めて出会い惹かれ合う5月の小石川植物園を表現しています。

外科室の麻酔をイメージした展示
外科室の麻酔をイメージした展示

麻酔すると秘密を口走ってしまうからと、注射をかたくなにこばむ伯爵夫人。麻酔なしで手術を始めると、夫人はそのメスを深く自分の胸に差し入れ、命を絶ちます。

実は医師である高峰も植物園で出逢った夫人を思い続け、独身を貫いてきました。夫人が亡くなったその日に、高峰も自ら命を絶つという、まさにこじらせ気味な二人の恋の結末。

BGMは、カルト教団の儀式のような手術を雅楽風×混声音楽ゴシックという手法で仕立て、ローファイヒップホップ(クラブミュージック)でまとめた作品で悲劇的な恋の結末を印象的に盛り上げています。

「清方の間」×「秘密」では、ありきたりな日常に満足できない男の退廃的な世界観を描く展示

目黒を愛した近代美人画の巨匠・鏑木清方(かぶらききよたか)さんの四季草加、四季風俗美人画で飾られている「清方の間」。谷崎潤一郎さんの「秘密」をモチーフにした展示です。

谷崎潤一郎×マツオヒロミ「秘密」
谷崎潤一郎×マツオヒロミ「秘密」

コラボしているイラストレーターはマツオヒロミさん。代表作「百貨店ワルツ」は、20世紀初頭、ある地方都市にある虚構のデパート「三紅百貨店」を舞台としたコミック&イラスト集で、大ヒットを続けています。

2022年4月に開催された「大正ロマン×百段階段」展示会では、マツオヒロミさんのイラストとコラボした展示を開催。足を運んだという方も多かったのではないでしょうか。

谷崎潤一郎さんの「秘密」は、普通の刺激では飽き足らなくなった「私」が主人公。夜な夜な女装をして浅草の町を出歩いていると、かつて上海に向かう船で関係を持った女「T女」に出会います。

「T女」と逢瀬を重ねる部屋のイメージ
「T女」と逢瀬を重ねる部屋のイメージ

自分の身分や居場所を明かさない謎の女「T女」との刺激的な逢瀬を重ねる「私」ですが、どうしても女の住んでいる場所や正体を知りたくなります。しかし、女の住まいを突き止めたとたんにつまらなくなり「T女」を捨てる「私」。

そして、「秘密」などという淡い快楽には満足できなくなり、さらなる強い刺激を求めるようになっていく・・・というお話。

BGMでは、華やかで快楽的なショーミュージックを演出。秘密が明かされた瞬間に“平凡な日常”に引き戻されるかのごとく、ガラスが割れる音で幕を閉じます。

「頂上の間」×「乙女の本棚」シリーズ、大正ロマンの雰囲気あふれるフォトスポットに

文化財「百段階段」の一番上にある「頂上の間」では、今回の展示会のモチーフとなった立東舎「乙女の本棚」シリーズを展示。それぞれのお部屋で紹介された本以外にも、文豪とイラストレーターがコラボした作品が紹介されています。

「乙女の本棚」シリーズを展示
「乙女の本棚」シリーズを展示

また、1670年にパリで生まれたシーリングワックスとインクの老舗ブランド「エルバン」のインクなども展示されていました。

「エルバン」の文房具
「エルバン」の文房具

さらに大正ロマンの雰囲気で撮影ができるフォトスポットも登場しています。

乙女の気分で写真撮影ができるのはワクワクしますね。ちなみに企画展で気に入った作品などはミュージアムショップで購入可能!

文化財「百段階段」併設のミュージアムショップ
文化財「百段階段」併設のミュージアムショップ

文化財「百段階段」で紹介された「乙女の本棚」シリーズや雑貨、アクセサリー、文房具などを購入できるミュージアムショップ。今回のテーマ「大正ロマン」にちなんだレトロなグッズやステンドグラスを使った商品もたくさん置いてありました。

ということで、今回の展示会で気に入った「秘密」「外科室」。そして、大好きな夏目漱石の「夢十夜」の3冊を購入して帰りました。

昔読んだ作品が現代的なイラストと共に楽しむことで、新しい面白さを体験できる「乙女の本棚」。そして「大正ロマン×百段階段 ~文豪が誘うノスタルジックの世界~」の中で立体的に紹介されることで、作品世界がより匂い立つように鮮やかに立ち昇ってくるのを体感できました。

企画展は2023年6月11日(日)まで開催されていますので、皆さんもぜひ足を運んでみてくださいね。

▼「大正ロマン×百段階段~文豪が誘うノスタルジックの世界~」開催概要
【開催期間】2023年3月25日(土)~6月11日(日)、11時~18時(最終入館17時30分)
※会期中は無休
【開催会場】ホテル雅叙園東京 東京都指定有形文化財「百段階段」
詳しくはこちら≫

■取材協力
ホテル雅叙園東京
住所:東京都目黒区下目黒1-8-1
問合せ先:03-3491-4111(代表)

地域ニュースサイト号外NETライター(東京都目黒区)

コピーライターからWebライターへ転身。アロマセラピスト・整体師としても時々活動しています。趣味はカンフー(八卦掌・長拳)と古代史(関裕二先生のファン)。目黒区の魅力やおもしろいところを発信していきます。取り上げて欲しい目黒の穴場や情報もぜひお寄せください!

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